第102話 想定外の出会い #3
「ふふ。ここへは初めて来る子たちね」
「んー? マイルズたちかな?」
首を捻るフラウムを見て、カレンが訊いてくる。
「そもそも、ここへはみんな来たことがあるわけじゃないんだ?」
「ええ。マイルズは来たことがないですし。ロイド、キャリスもですね。ベルハルト、あとはファルクも」
「そうなんだ? 女の子ばかり連れ込んじゃって。悪い子ねー、エルスくんは」
カレンはにやりと笑って言った。
決してそんなつもりで連れてきているわけではない。第一、男性の来客としては外にジェイとラークがいる。マイルズたちが来たいと言えば、喜んで招待するつもりだし、断じて女性ばかりを連れてきているわけではないのだが……。
と、考えていると腕組みしてフラウムがうんうん頷いているのが見えた。
「エルスは意外とさぁ、女好きなんだよなぁー」
「はっ、はあ?」
想定外の烙印を押されて困惑の声が出る。
が、フラウムは聞こえていないのか、ひとりで続けた。
「まぁ、私はフトコロが深いからね。ある程度は大目に見るけどさぁ。でもそろそろ本命にビシッと気持ちのひとつでも伝えて、地盤を固めるべきだと思うんだよね。余計な虫たちに分からせてやるためにもさぁ。あとは、エルス。お母さまにも安心ってやつをさせてあげようよ」
そこで目を開けて、こちらを見てくる。
部外者が見れば可愛さしかないだろう笑顔で、フラウムは言ってきた。
「ねっ?」
「いや、なにが『ねっ?』なのか全然分かんないんだけど……」
「なんでだよ! 鈍感系とか、今時流行んないぞコノヤロー!」
「知らないよそんなの……」
エルスウェンが困惑していると、横からカレンが言った。
「むしろなんであんたがそこまで彼女面できるのか謎だわ。だからエルス君、ビシッと言うべきときに言ったほうがいいわよ。『虫はお前だからあっち行け』って」
「テメー! ババア! 今ライン越えたぞ!」
憤激しながらカレンの首を絞めようとするフラウム。ただ、カレンのほうがリーチに優れているため、簡単に抑えこまれていた。
その光景には苦笑いをするしかなかったが。エルスウェンは一応、答えた。
「フラウムにはいつも感謝してますし、頼りになる仲間ですから」
それを聞いたカレンは、フラウムを押しやりながら勝ち誇った笑みを浮かべる。
「あーら聞いた? 大事な仲間ですって。恋人じゃないわねー!」
「ンガー! 照れ屋なんだよエルスは! 第一、ババア、テメーこそ色目使ってんじゃねーぞ! この前脱出してきたとき、思いっきりエルスにしなだれかかって出てきやがって!」
「あっ、あれは毒矢にやられてたんだからしょうがないじゃない!」
「毒矢がなんだってんだよ! ババアが毒ババアになるだけだろ!」
「誰が毒ババアよ! あんた今ライン越えたわよ!」
ふたりが髪の毛の引っ張り合いを始めたのを見て、アガサと目配せをし合う。そろそろ止めたほうがいいとの判断が一致した。
声をかけようとした、その時。
がちゃりと玄関のドアが開いた。全員がそのまま動きを止めて、そちらを見る。
ラティアが立っていた。彼女は遠目にまず、ケンカに勤しむカレンとフラウムを目に留めたようだ。
「……なにをやっているんだ、お前たちは。子供か。大の探索者が、就学したての子供みたいなケンカをするんじゃない」
嘆息しつつかぶりを振って、ラティアはこちらを見てきた。エルスウェンのほう、というよりは、母のほうを見ている。
「あの……。来客を、お連れしましたが……」
言葉の歯切れが悪い。困惑……というか、混乱しているように見える。そんなラティアは珍しかった。
その様子を見てとったのか、フラウムが訊いた。
「来客って誰なのさ?」
「それは……見てもらったほうが早い。お通ししても?」
最後の言葉は、母に対するものだ。母は上品に頷いた。
「ええ。どうぞ。こちらへお通しして」
「分かりました。では……こちらへどうぞ。殿下」
――殿下?
その言葉に疑問を抱く間もなく、玄関ドアをくぐって姿を現したのは――
「どうも、こんにちは。みなさん、初めまして。シャルロッテと申します」
信じられない自己紹介と共に現れたのは、まさしくシャルロッテ王女殿下その人であった。
真っ白なワンピースに、ヘッドドレスを身につけたその姿は、王宮で見かけたときの豪奢な格好とはほど遠いが、それでも王族の気品がまるで隠せていない。
フラウム、カレン、アガサ、そしてエルスウェンまでも、圧倒されるばかりで誰も自己紹介に答えられない。
と、驚きも覚めないうちに、もうひとりがシャルロッテ王女殿下の隣に並んだ。
それを見て、また全員が言葉と息を呑む。
「ええと……。こんにちは。私はシャーロット、です」
全く同じ服装に、同じ顔の少女だった。見た目には双子にしか見えなかった。声がほんの少し、シャーロット、と名乗ったほうが低いだろうか? いや、それすらも微妙で、ほとんど同じだ。
なぜ、王女殿下がふたりいるのか?
その疑問の答えは全く分からず、エルスウェンはぽかんとするしかなかった。




