第101話 想定外の出会い #2
「転換点?」
「ああ。私はそもそも、疑問に感じていたのだ。今のままで上を目指せるのかとな」
事情は分からないが、ラティアが迷宮の踏破に並々ならぬ執念を持っている、というのは、それこそ昨日分かったことだ。
そういった執念に併せて、リーダーという立場上、常になにが正しいのかを考え続けているのだろう。
彼女は続けた。
「おそらく、四人というパーティでは少ないんだ。人数が。もっと大きな単位で、できることに幅を持たせないと……この先を戦っていくことは厳しいのではないかと思うんだ」
「それは、そうかもしれないけど……」
エルスウェンは懐疑的だった。結局のところ、魔法の定員数がネックとなる。
が、それは見透かして、ラティアは言ってきた。
「たとえば、ふたつのパーティが協力して同時に潜る、という方法だ。それか、ベルハルトのパーティにラークがついていったようにすれば、擬似的に四人以上のパーティを構成することができるだろう?」
「それは……そうかもしれないね」
頷きながら、ラティアの言ったことを頭で検討してみる。
できるのかもしれない、と思ったが、やはり見過ごせない問題点も多かった。
「でも……ふたつのパーティが同時に行動すると、八人になるでしょ? それはさすがに、迷宮を進むのには多すぎると思う。八人が集まった通路内で魔物と接敵したら、混乱のほうが大きいよ。魔法の狙いも難しくなるし」
「うむ……。では、別働隊、というふうに、完全に分けて行動するのはどうだ? 要所で合流しつつ進むという感じだが」
「それもどうだろう。他のパーティを助けるのをマイルズがよく思わなかったみたいに、探索の速度自体が落ちてしまうんじゃないかな」
「別々に行動をして、たまに合流をするとしても……パーティ同士の連絡手段もありませんし、エルス君の言う通りではないかと……」
「うむ……。そうだな。言う通りだ」
それはラティアもすでに考えたことなのだろう。残念そうに頷いている。
エルスウェンは、ちらりと窓の外を見た。
「でも、ラティアの言うことも分かるよ。ジェイに、ラークっていうふたりが仲間になってくれた。ふたりを留守番にするんじゃなくて、そのまま前衛、後衛に入ってくれたら……ものすごく心強いからね。六人パーティか。できればいいんだけど」
「……私たちのパーティは、バドルさんが亡くなって……。ロイドさんたちのパーティも、ザングさんが亡くなって……。ふたつのパーティを合わせれば、六人のパーティを作れる……ということになりますしね」
アガサの言葉に、エルスウェンはラティアと一緒に頷いた。
前衛にファルク、ベルハルト、ロイド。
後衛にキャリス、カレン、アガサ。
この配置はなかなかバランスが良いように思えた。迷宮踏破と財宝の収集の、どちらにも睨みを利かせたパーティになっている。
「六人での転移に挑戦してみればいいでしょう?」
と、声が飛んできた。母だ。
笑顔の彼女に、エルスウェンは訊いた。
「可能なんですか? 六人での転移や帰還が」
「不可能なわけがないでしょう? 人数を増やすだけなんですからね」
それはあなたにとってでしょう、と言いかけて、飲み込んだ。
母はぐるりと家を見回して言った。
「この家だって、私が故郷からそのまま魔法で持ちだしたものなんだから。たった六人での転移くらい、できるようにならなければね、エルス」
「こ、この家を? 転移?」
母の言ったことがにわかに信じられず、同じように家を見回す。この屋敷を、故郷から丸ごと転移させてきた……?
まさか、そんなことができるとは信じられなかったが。この母に魔法でできないことがあるとも思えない。
困惑しているこちらに、変わらない調子で母は言ってくる。
「必要は発明の母だと言うでしょう。魔法とは、イメージに沿って、自分の意のままの奇跡を起こすもの。魔法とは、世界というキャンバスに、魔力という顔料を用いて、思念という筆で思うままの絵を描くことよ。可能性というものを自分でゼロにしてしまった瞬間、その魔法はもう、絶対に成功しない」
言ってから、母は虚空に手を捧げた。それから、森人語でなにごとかを囁いた。
すると、手の先の空間に、どこからともなく色とりどりの光の粒が集まってくる。それは不規則に並んだかと思うと、エルスウェンの似顔絵になっていた。
それを手を振って消すと、母は微笑んだ。
「技を磨き続けなさい、エルス。あなたには、こうしてとても良い仲間が集まってくれているでしょう。人を惹きつけることは、魔法であろうと不可能なあなたの唯一無二の才能なのよ。そのみんなの期待を裏切らないように、頑張りなさいな」
「……はい」
人を惹きつけると言われても、なんの自覚もなかったが。頷いておく。
それから母は、ラティアに目を向ける。
「ラティアちゃんの言う通り、黒燿の剣士の一件は、あなたたち……だけでなく、迷宮探索を大きく変えていくでしょう。それだけでなく、この王国、この世界に、これから大きな動きがやってくる」
そこまで言ってから、母は目を見開いた。
「新しいお客さんね。これも、そのひとつかしら?」
「え? お客さん?」
エルスウェンが聞き返すと、母はそっと髪をかき上げて椅子に座り直した。
「ええ。ラティアちゃん。お出迎えに行ってくれるかしら。きっと、すぐそこまで来ているでしょうから。南の方ね。ここへお連れしてくださる?」
「はい、かしこまりました」
ラティアは一礼すると、広間を一直線に突っ切り、家を出て行った。
それを見送ると、フラウムたちが訊いてきた。
「来客って誰です? お母さま」




