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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅲ 手を取り合って

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第99話 決して、変わらないもの #2

「……黒燿の剣士の問題は、すごく大きなもので。みなさん、命を賭けて戦っていらっしゃるわ。それを傍観して、そして解決したから、さあもう大丈夫だから私も仲間に入れて、なんて……そんなの、探索者としての態度じゃないと思うの」


 だがシャルロッテは、目を鋭くして言い返してきた。


「そうかもしれないけど。だからって、魔法しか使えないシャーロットが何の役に立てるの? 役に立てないのに討伐隊に立候補したところで、ご迷惑なだけよ」


 それもその通りだった。自分でもそう思っていたため、シャーロットは頷いた。


 やるせない気持ちのまま、言葉が口から出ていく。


「ならせめて……戦闘とか、探索以外でお役に立てたらいいのだけど。謎を見通したエルスウェンという魔法使いの方は、魔法消去の方法を探して、古文書を当たるって言ってたわ」


「そうなの?」


「ええ。でも、私は正直、古語も森人語も、両方苦手だし……それに協力できればって思うけれど、どうしたらいいかなって……」


「じゃあ、私が手伝いましょうか?」


「えっ?」


 彼女の言葉に、思わず聞き返す。一瞬、冗談なのかと言いかけたが、シャルロッテは目を輝かせていた。本気の目だ。


「だって。シャーロットは、こっそりアミディエルさんと魔法の練習をして、ドゥエルメさんと武芸のお稽古もしていたでしょう? それがまさか、探索者になるためだったなんて、私は分かってなかったけど」


 バレていたのか、とシャーロットは思った。もちろん、バレていないわけはないし、シャルロッテはシャルロッテなりに、知らない振りをしていたのだろう。


 シャルロッテは、にこりと笑って人差し指を立てた。


「私は、運動なんてできないから。その分、いっぱい本を読んでいたわけ」


「うん」


 それは知っている。シャルロッテの容態が悪い時は、日光にも当たれないほどだった。ひとりでは部屋から一歩も出られない、というのが日常だった。


 だから、一日中本を読んでいるというのが、彼女の一日の過ごし方だった。アミディエルが時間を作れるときは、彼から様々な学問を学んでもいた。知性という点では、姉妹として育ちながらもシャルロッテとは天と地の差があると思っているし、将来の女王には圧倒的に彼女のほうが相応しい、と思う根拠でもあった。


「大陸古語も、アミディエルに教わっているわ。森人語もね。なにかを読み解かないといけないなら……ねえ、私なら、きっと役に立てると思うの。どう? 私だって、なにか力になれるのなら、協力したいわ」


「それは――」


 素晴らしいアイディアだと言いかけて、シャーロットは飲み込んだ。


 代わりに疑問を口に出す。


「身体は大丈夫なの? シャルロッテ」


「ええ。最近は、とても体調がいいんだから」


 にこりと笑うシャルロッテ。その顔は、近年にも記憶にないほど血色がいい。こけていた頬はすっかり元通りで、赤の他人にはシャルロッテとシャーロットの見分けはつかないだろう、というところまで回復していた。


 それならば、考慮の余地はあるかもしれない。母に相談してみる価値はある。


「じゃあ、相談してみましょうか。まずは、お母さまに」


 双子の姉妹が次々に自己を主張し始めてしまって、ますます心労が増えてしまうだろうか。


 母の反応を想像して、シャーロットはなんとも言えない気分になる。私たちは断じて、積極的に困らせようとしているわけではないのに。 


「ええ。あっ――でも……」


 シャルロッテは、はっとなにかに気づいたようだった。


「どうしたの?」


「探索者のみなさんは、私たちが双子だって、そんなことは知らないのよね? 王女はシャルロッテひとりだけで、シャーロットという妹がいるなんて、知らないのよね? 一体、どんなふうに説明したらいいのかしら」


 そう言われて、シャーロットは言葉に詰まった。


 母からの言葉を聞いて、すっかり自分の中では折り合いがついていたことなので考えもしていなかったが。


 そもそも、市井にだって、王女は『シャルロッテ』たったひとりだけである。


 シャーロットといううりふたつの存在は、ひた隠しにされてきた。この王宮に勤めているものにとっても、公然の秘密として成立している。


「別に、大丈夫だと思うけど。探索者の方々が、積極的にそれに触れて回るような人には思えないし……。私は王女にそっくりな、シャルロッテお付きの侍女とでもしておけばいいんじゃないかしら。それに、ラティアは最初から知っているでしょ? それなら、全部いちから説明してしまっても大丈夫でしょうし」


 シャーロットは、念を押すように続けた。


「周囲にとっては、元々その程度の認識だったんだから。それが今、本当に元々そうだったんだってなるだけなんだから。大した話じゃないわ」


「でも、それじゃあ――」


 なにかを言おうとしたシャルロッテを遮って、シャーロットは首を振った。


 彼女の言おうとしたことは分かっていた。シャーロットの存在が探索者として明るみに出る。それは、『シャルロッテ王女の双子の妹シャーロット』が、名実共に消滅することを意味するのだと。


 だが、それでいいのだとシャーロットは思っていた。


「いいのよ。私はあなたと姉妹として育てられた。それは誇りに思っているし、シャルロッテを本当の姉だと思っているわ。でも、事実として、この王国の王女はあなただけ。見た目はそっくりでも、血までは同じじゃない」


「シャーロット……」


 こちらの言った言葉に、泣きそうな顔をするシャルロッテ。


 きっと彼女は、血の話などしてほしくないのだろう。


 その気持ちは、シャーロットにも痛いほど分かった。


 シャルロッテとの関係性は、血では括れないものだと分かっている。知っている。本物の姉妹以上にお互いを想い、大切にしていることも。


 ただ、それに言及すればするほど、血に縛られている現実を思い知らされるのは、痛切な皮肉であり、現実でもあった。


 しかし、それらすべてを飲み込んだ上で、前へと進むときが来たのだと分かった。


「この王国を、将来、女王として守るのは、あなたなの。シャルロッテ。私じゃない。私は、探索者として王国を、王家を、あなたを守るわ」


 シャーロットは手を伸ばして、シャルロッテの手を取った。


「もっと早く、はっきりさせるべきだったのよ。私は私。あなたはあなた。でも……私たちはずっと、姉妹のまま。それは変わらないから。……絶対にね」


「……そうね」


 シャルロッテは唇を引き結ぶと、しばらく黙った。


 それから熱っぽい息を吐いて、手を握り返してくる。


「全てのものは、移り変わっていく……」


「ええ」


 彼女の言う通りだと、認める。


 全てのものは、移り変わっていく。


 シャーロットは、シャルロッテの手を強く握り返した。


「でも、絶対に変わらないものだってある」


 言葉に、力を込めた。


 そして、ふたりでもう一度約束の握手を交わして、頷き合った。



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