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薄明の魔法使い #0 竜骸迷宮と黒燿の剣士  作者: 式見 汀花
Ⅰ すべての始まり

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第9話 目覚め #1

 まず見えたのは……真っ白な天井だった。


 目を覚ましたのは、おそらくだが、診療所のベッドの上だ。


 エルスウェンはもやのかかったようにぼんやりとした意識で、現状を認識しようとする。


 ――迷宮内に、いきなり現れたらしい謎の黒い剣士。そいつに、ロイドたちのパーティは壊滅させられた。僕たちで助太刀に入ったけれど、全く歯が立たず、マイルズの剣も、僕とフラウムの魔法も通用しなかった。


 そうだ。そして、マイルズ、ラティア、フラウムの三人を先に離脱させて、エルスウェンは残った。次にロイドのパーティで唯一黒い剣士に食い下がった忍者、ジェイを助けて、戦闘不能となったロイドとキャリスのふたりも連れて、脱出しようとした。最後の最後で攻撃を受けて意識を失ってしまったが、帰還魔法は成功していて、なんとか迷宮外へは出られた――ようだ。


 身体を起こそうとしたが、まるで動かない。全身が硬直して、鉛のように重い。


「う……く……!」


 声も出ない。掠れた声らしいものが、ひゅうひゅうと鳴る喉から漏れるだけだ。


「――! エルス! 目を覚ましたか!」


 と、天井しか見えなかった視界に、こちらの顔を覗き込むようにして、右からラティアの顔が現れる。どうやら目を覚ましたときに感じた通り、ここは聖堂に隣接する診療所内で、そこに運び込まれていたようだ。そして、ラティアたちも脱出に成功していたことを知って、安堵する。


 最後に投げつけられた剣は、相当手酷いダメージだったようだ。治療費に、どれほど請求されるだろうか、などと頭をよぎる。


 診療所には、医師だけでなく聖堂に仕える司祭や僧侶たちが詰めていて、負傷者に対して回復魔法をかけてくれるのだが、その強度によって請求される金額も変わるのだ。意識さえあれば、自分で治すこともできたのに。


 次に、左側から目に涙を溜めたフラウムの顔が現れた。


「バカバカバカバカ! かっこつけやがってよー! マジで、死んだら絶対許さねーって! 言っただろ! なにが帰還の腕輪だよ、見え見えのウソつきやがって!」


 フラウムはばしばしと、腹部のあたりを叩いてくる。ついでに、大粒の涙までが降り注いでくる。


「ホントにバカだよ! 運が悪かったら、エルスも終わりだったんだぞ! バカ!」


「……ご、め……ん……」


 掠れ声で、なんとかエルスウェンは謝意を表した。それでフラウムは一応落ち着いて、手で涙を拭い始める。


 そちらから、目をラティアに移す。彼女もまた、涙までは流していないが、潤んだ瞳に、感極まったような表情だった。


 彼女らの反応から、エルスウェンは徐々に、自分の置かれていた窮地について理解し始めていた。


 生きて帰れたと思ったが、どうやら、大きな勘違いをしていたらしい。


「ラティア……まさか、ぼくは……」


「ああ」


 ラティアは頷いた。嘆息をひとつ漏らす。


「即死だった。あの黒い剣士にやられたんだな? すでに迷宮の外、詰め所前にいた私たちのところに、お前とジェイは……マイルズの剣で串刺しにされて転移してきたんだ」


 竜骸迷宮の入口前には王宮が詰め所を建てていて、兵士が常に警備をしている。帰還魔法を使うときは、大抵はそこに出るように狙いを定めるのだ。今回のエルスウェンも、そこをイメージして脱出していた。


 エルスウェンは自由にならない喉をなんとか動かして、ラティアに質問をした。


「ぼくは……どれくらい、ねていたんですか……?」


「聖堂に運び込まれてから、丸一日が経っているよ」


「そう、ですか……。ジェイは……?」


「ジェイは……さすがは鍛え上げた忍者だな。即死とはいかなかった。治療も間に合い、生きているよ。ただ、エルス……お前は心臓を貫かれていて、手の施しようもなかった」


 そうだったのか、とエルスウェンは内心で嘆息する。


 訓練所に通っていた頃に、『迷宮で死んで、蘇生を経験してからが一人前の探索者だ』というジョークを聞いたことがあったが、まさか探索者となってたったの数ヶ月で、死を経験してしまうとは。


 自分の拙さに、嫌気が差す。同時に、ある心配も持ち上がった。


「……蘇生の、代金は……?」


「高くついたが、安心しろ。お前の有り金は全部使ってやった」


 ふっと冗談めかして言ってから、ラティアは続ける。


「足りない分は、私とフラウム、マイルズが出したよ。一番多く負担をしたのは、マイルズだ。後で礼を言っておくんだぞ」


 マイルズが、と思っていると、ベッドの足元のほうから声がした。


「お前に刺さってたのは、俺の剣だったからな。それだけだ」


 どうやら、彼はそこに立っているようだ。それだけしか言わないし、蘇生代金という決して安くない金額を負担する理由がそれだけなのも、彼らしいと思った。


 どうやら、自分は本当に生きている――それを噛みしめていると、エルスウェンの脳裏に別パーティの顔が浮かんだ。



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