時代遅れな悪魔
悪魔は数百年ぶりに眠りから覚めると、伸びをしてから人間社会を見回し、そして嬉しそうに声をあげた。欲望を胸の内に秘めた若者が、いままでのどの時代よりも多く存在するのだ。
まずは誰から契約して魂を取ってやろうかと考えていると、ある絵描きの若者が目についた。
その若者はもっと有名になりたい、もっと多くの人に称賛されたいという強い欲望を胸に秘めていた。
悪魔はまずは肩慣らしでもするか、とその若者の側に出現する。
「有名になりたいですか?」
悪魔のその声に若者は飛び上がって驚いた。そして矢継ぎ早に様々な質問を投げかけそして悪魔であることを疑ったが、最後には悪魔であることを信じた。
そして最初の質問、すなわち有名になりたいかという質問に対し、なりたいに決まっていると答えた。
悪魔はにんまりと笑うと、こう言った。
「ではあなたを有名にしてあげましょう。数百人、数千人、いえ、もっともっと多くの人があなたの名前を知れるように。あなたを、この町で最も高名な絵描きにしてあげましょう!」
しかし悪魔のその言葉に絵描きは不意に冷めたような表情になり、そしてため息を吐いてこう言った。
「もう良いよ。数千人のフォロワーなんてとっくに達成してる。町一番の絵描き? 本当に規模が小さい。少なくともこの国で一番の絵師になれないんなら、魂をあげても良いなんて思えないよ」
そうして悪魔は絵描きの家を追い出されてしまった。
数百年も眠っていた悪魔は、ネットを介して数十万を超すフォロワーが付くような世界など、想像もできなかったのである。
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