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第99話 『いざ、決勝トーナメント! 舞翔VSサイモン』




 デジャ・ブである。


 舞翔と士騎は既に満員御礼のスタジアムの中、ベンチでそわそわと座っていた。


 DJが現れ、観客への説明は既に始まっている。

 だというのに、その場にカランがまだ到着していない。


「監督、連絡は!?」

「ない」

「どどどどうするんですか!?」

「幸いなことにあちらはまずサイモンを出して来るらしい、君の出番だ」

「いやいやいやいや連絡は!?」


 舞翔は士騎の首元を思わず掴んで、思い切り揺さぶった。

 士騎はそんな舞翔の所業を受け入れながら「大丈夫だ、きっと間に合う」と遠い目で譫言うわごとの様に言う。


「も、もしかして到着しなかったら私に連戦させようとしてません?」

「ルール的には可能だ」

「ルール的には可能だとしてもですねぇ!?」


 舞翔の士騎を揺さぶる力が強くなる。

 けれども士騎はやはり動じることなく「まぁ信じよう」と言うばかりである。


「武士もまだ帰って来てないし、不安すぎるんですけどっ」

「俺がいるじゃないか舞翔くん」

「監督だけだから不安なんですけど」

「君、俺への態度が割と最初の方からひどくないかい?」

「その台詞、そっくりそのままお返しします!」


 真顔で言う士騎に思わず声を荒げてからパっと手を放し、舞翔はスタジアムの様子をうかがい見た。


 逆方向のベンチには既にサイモンとベンが座っており、最悪な事にベンと目が合う。


 ベンはニッコリ笑って手を振ってきた。

 それを見た舞翔は思わずしかめっつらをする。


「さぁ! いよいよ決勝トーナメントのスタートだ! えある初戦はBDFチーム対アフリカチーム!」


 と、無情にもDJの掛け声と共に決勝トーナメントの幕は開けてしまった。


 凄まじい歓声と共に、スタジアムには展望台アウトルックタラップが設置される。


 もう行くしかない。

 舞翔はごくりと息を呑んで、一度大きく深呼吸をすると、ベンチから一歩踏み出した。


 反対側からは同じくサイモンが展望台アウトルックタラップへ向かうべく出て来た所である。

 両者ほぼ同時に展望台アウトルックタラップの階段を上り始める。


 そしてその頂点で、二人は相対あいたいした。

 両者の視線が交差する。


「対戦ステージを紹介するぞぉ!」


 無言のまま睨み合い、DJの声と共に舞翔は視線をステージへ移した。


 地面からせり上がるように出て来たステージは、なんと昨日決勝出場者たちが泊まったあのブラン城である。


 本物よりかは小さいが、それでも見上げるほどの大きさで造られた城館に、舞翔は息を呑む。

 城の中までドローンが飛んで入れるほどに、精巧に造られた屋内ステージ。


「御覧の通り、決勝初戦はルーマニアで最も有名な観光地、ブラン城だぁ!」


 耳が痛いほどの歓声が高まる。

 次にスタジアムの大画面にサイモンと舞翔の写真が映し出された。


「BDFチームからは、“飛電ひでん奏者そうしゃ”こと空宮舞翔そらみやまいか選手!」


 DJの声に合わせて、写真は舞翔のライブ映像に切り替わった。

 今までにない演出に、恥ずかしさのあまり舞翔は顔を隠すように俯く。


「アフリカチームからは“草原そうげんけもの”こと、サイモン・ベロ選手だー!」


 同じように自身の映像に切り替わるも、サイモンは動じることなく真っ直ぐにステージを見つめていた。


 相変わらず顔色は悪いのに、闘争心だけで立っているかのような凄まじい気迫を漂わせている。しっかりと地に足を付けて立っているのは最早精神力なのだろう。


 その証拠に、ぎろりと舞翔を睨んだ瞳は獲物を狙う飢えた獣のような危うさを内包ないほうしていた。

 舞翔はそのプレッシャーに挫けそうになりながらも、一度大きく息を吸う。


 吸って、それから止める。


 苦しくなってから思い切り吐き出して、そしてサイモンを真っ直ぐに見つめた。


「絶対に、勝つ」

「……やってミロ、空宮舞翔」


 視線が交わり、そして同時に逸らされる。


「さぁ、準備はいいかな!? “スタンバイ”!」


 直後DJの声が響き、グラビーストとエレキストが舞い上がった。


「二人とも全力でぶつかってくれぇ! “テイクオフ”!」


 そしてその掛け声が響いた瞬間、グラビーストとエレキストの姿が消えた。


「と、な、なんだぁ!? 二機はどこへいったんだぁ!?」


 会場中、ほとんどの人間がその軌跡きせきを目で追うことが出来なかった。

 しかしサイモンと舞翔は互いの位置を、動きを、僅かな風や感覚で感じ取っている。


 既に同時に飛び出して、エレキストもグラビーストもブラン城の中へと入っていた。


 その複雑な屋内を器用に飛び交いながら、お互いに様子を見あっている。


「どうやら二機ともブラン城の中へと入ったようだ! ここで屋内モニターに切り替えだぁ! 何が起こっているか分からない人はスタジアムのモニターを見てくれぇ!」


 DJの言葉通り、大画面にはブラン城の屋内の様子が映し出される。

 舞翔とサイモンは自身の機体に付けたそれぞれのカメラで屋内を見ている。


 普段の屋外ステージならばこのカメラを使わずとも機体を目視し操縦が可能だ。


 しかし、今回の屋内ステージで展望台アウトルックタラップからの目視は不可能。


 舞翔はいつもと違う視点に全神経を集中させて城内を飛び回る。


(昨日散策して良かった、中の構造は何となく分かる)


 中庭をぐるりと周り、塔から中へと入り込む。

 こういった細かい動き、精密な操作は舞翔の十八番おはこである。


 今回のステージは舞翔にとって有利だ。

 しかし。


(グラビーストが見つからない!)


 確かに城の中へと入ったはずのグラビーストがどこにもいない。

 城と言っても部屋数はさほど多くはないし、これだけ飛び回っていれば出会ってもおかしくないはずなのに。


(! まさか)


 舞翔は城中を飛び回っていたエレキストを中庭で停止させると、静かに耳を澄ませた。

 グラビーストの飛ぶ音が遠く聞こえる。


(いつの間にかどこかに潜んでる?)


 城には隠し通路があるが、あれは最早一般公開もされており隠されてはいない。


 先ほど舞翔もエレキストで駆け上がったばかりだ。


 ならば、どこに。


 この小さな城の中の、いったいどこに隠れているのか。


「これはどうしたことだ? エレキストは停止、グラビーストの姿は見えない! 決勝でこんなことがあっていいのか!?」


 DJの煽りと共に、動きの無いつまらないバトルに観客からはブーイングが起き始める。


 舞翔は焦った。


 そして同時に、どこから襲い掛かられるか分からない緊張感に神経が擦り減っていく。


 バトルは動かない。

 グラビーストは、まさに狩りで獲物を狙う肉食獣のようであった。


 静かに息を潜め、隙が出来るのを虎視眈々《こしたんたん》と草陰くさかげからうかがっている。

 けれどエレキストはただ追われるだけの草食獣では無い。


「エレキスト!」


 舞翔は叫び、エレキストを城の上空へと浮上させた。

 そして何を思ったのか、そこでピタリと停止したのである。


「ライシャートの戦法、真似させてもらうよ!」


 そう、舞翔もまた待つ作戦に切り替えたのである。

 真似するのは南アメリカチーム、フリオのライシャートの戦法。


 網を張り、相手がかかるのをじっと待つ。


 こうなればもう我慢大会だ。

 どちらが先に痺れを切らして動き出すか、その勝負である。


 しかし。


「それで勝ったツモリか?」


 隣から聞こえて来た声に、舞翔は驚いて振り返った。

 サイモンは、笑っている。


「この勝負、ワタシの勝ちだ」


 そして直後、エレキストの背後にグラビーストが現れる。


「!?」


 完全に盲点からの奇襲だった。

 グラビーストは城の中に居ると思い、舞翔はそちらにばかり気を取られていた。


 けれども実際にはグラビーストは城の外から現れた。


 しかも、突然。


「な、んでっ」


 避けきれない。

 グラビーストの一撃が牙となってエレキストを襲う。


「っ舐めないで!」


 それでも舞翔はぎりぎりのところで機体を傾け致命傷だけは免れた。

 いいや、それどころか。


「ナニ!?」


 グラビーストの攻撃でプロペラがひとつ落ちたかと思うと、直後エレキストはトライコプターへと転身した。


「これは! 舞翔選手おなじみの変身だー! さすがエレキスト、ただでは墜ちないぞー!」


 DJの実況と共に会場が沸き上がる。

 その歓声に乗って、エレキストは城内へと逃げ込んだグラビーストを猛追もうついする。


「逃がさない!」

「くそっ」


 次の瞬間、グラビーストは中庭の井戸へと飛び込んだ。

 会場からどよめきが起こり、同時に舞翔も目を瞬かせる。

 エレキストで覗き込んだ井戸の中に、既にグラビーストの姿は無い。


「まさかっ、隠し通路?」

「分かっていても、来れないダロ! こんな場所!」


 サイモンは勝ち誇る。


 言う通りだ。


 井戸の底は暗く、恐らくその先にある隠し通路も灯りは一切無いのだろう。


 ドローン一機が通れるくらいの広さはあるのだろうが、何も見えない細い洞穴を、行く先も全貌ぜんぼうも分からないのに飛び抜ける事は不可能だ。


 “ファントム”でも無い限り。


「っサイモン」

「オマエだけは、絶対に叩きつぶしてヤル!」


 このまま上空で待ち受けて迎え撃つのが最適解さいてきかいだ。


 城の外から現れるであろうことは先程の攻撃で分かっているし、地の底から現れるのならば上空に居れば出て来てからたどり着くまでにいささか猶予ゆうよが出来る。


 だが、グラビーストは速い。


 その速さは常軌じょうきいっしている。先程は避けることが出来たが、それでもプロペラをひとつ持っていかれた。


 次は完全に避け切らなければ、その瞬間エレキストは負けるだろう。


 しかも360度、いつ何処から現れるのか全く読めないのだ。

 この張り詰めた緊張感をどこまで保っていられるか。


 そして緊張感が切れた瞬間、グラビーストは襲ってくるだろう。


 思考をめぐり巡らせる。


 けれども頭では分かっていても、舞翔の心は、好奇心は、心臓の一番熱い部分をき立てる。


 手に汗を握り締めながら、舞翔はごくりと喉を鳴らした。


(行ってみたい、あの井戸の中に……!)


いざ、サイモン戦!!!

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