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第98話 『宣戦布告!? 舞翔とサイモン』




「サイモン、朝食は!?」

「ダレ!?」


 驚いて振り返ったサイモンは、舞翔を見止めた瞬間これでもかというほど目を見開いた。


 それからすぐに、グラビーストを置き去りにしてまで立ち去ろうとした為、舞翔は慌ててその腕を引っ掴んだ。


「は、離して」

「朝ごはん、食べたの!?」

「ナ、ナニ? た、食べてない」

「そっか、じゃあ一緒に食べよう」


 拍子抜けするほど普通に、舞翔はにっこり笑ってそう言ってのけた。


 呆気に取られるとはまさにこの事、サイモンは眉を上げ下げしたような複雑な表情で固まってしまった。


 そんなサイモンを舞翔は小首を傾げて不思議そうに見つめる。


 その毒気の無さに、サイモンは何故だか無性に腹が立って、掴まれていた腕を力いっぱい振り払った。


「!?」

「同情するナ! ワタシにはもう後がナイんだ!」


 瞳孔どうこうの収縮した瞳を見開いて、牙を剥き出しにサイモンは叫ぶ。


「っ、後が無いからって、自分を粗末そまつに扱うのは駄目だよ!」

「黙れ! お前にナニが分かる!?」


 彼が獣ならば恐らく喉から唸り声が聞こえていただろう。

 まるで威嚇いかくするようにサイモンに睨まれ、舞翔は一瞬怯みそうになった。なったが、拳を握り締めると負けじとサイモンを睨み返す。


 その反応にひるんだのはサイモンの方だった。


「あなたが心配なんだよ、サイモン!」


 栗色の瞳は、ただ真っ直ぐにサイモンを見つめていた。


 その円らな瞳の中に映る自分に、サイモンは激しく動揺する。

 舞翔の瞳の中の自分は、垂れ下がった眉、必死の形相に、今にも泣きそうな情けない目元をしていた。


「っワタシは、妹と約束した。この大会で必ず優勝すると! 妹はワタシが強いって、世界で一番誰よりも強いって信じてるんダ! だからワタシは妹にとって、世界で一番かっこいい兄でいないとイケナイ! そのためだったら、ワタシはナンだってする!」


 サイモンはこれ以上自分の姿を見たくなくて、強く目を瞑った。

 叫んだ言葉は全て自分に言い聞かせるためのもの。

 言い終わって肩で息をしながら、サイモンの体がふいにぐらりと揺れる。


「!? サイモン!」


 倒れ込んだサイモンを舞翔は寸でのところで一度受け止めたはいいものの、不甲斐なくも結局一緒に床に倒れ込んでしまった。


 少し痛かったが、ゆっくり倒れたため幸いお互いに怪我は無かったようだ。そのことにまずはほっとする。


 それから舞翔は自分の腕の中で苦し気に息をするサイモンを静かに見下ろした。

 その体は驚くほどに軽かった。やつれた頬に、自分より細いのではと思うほど骨ばった腕。


 これが全て“ファントム”によるものとは思えない。


 恐らく今日のようにずっと寝食までも犠牲にして、練習を重ねていたのだろう。


 きっと“ファントム”など無ければ彼がここまで自分を追い詰めることは無かったはずだ。

 努力して、努力して、悔しさや挫折をバネに更に強くなることだって出来たはず。


 だってこんなにも努力が出来る人なのだ。誰かを想って、頑張れる人なのだ。


 それなのに、ベルガはそんな人に“悪魔の力”を与えてしまったんだ。


 自分よりも妹を優先して、サイモンはその悪魔の力に手を出してしまった。


「っ許せない、ベルガ」


 舞翔は呟いた。

 その言葉を聞いた瞬間、サイモンの顔からさっと血の気が引いたかと思うと、突然、舞翔を突き飛ばした。


「きゃあ!?」

「お前、何で、ベルガ」


 尻もちをつきながら舞翔は明らかに顔色の悪いサイモンを心配そうに見つめる。

 しかしサイモンはそんな舞翔を明確な敵意を持って睨み返した。


「あの人は、あの人ダケは俺に救いの手を差し伸べてくれタ! 悪く言うのは許さナイ!」

「なっ!? 何言ってるの、ベルガはあなたを!」

「これはワタシが自分で選んだこと、お前にとやかく言われる筋合いは、ナイ!」


 そこまで叫び終わると、サイモンは舞翔の横をすり抜け練習室を出て行こうとした。


 よろよろと覚束ない足取りで、苦し気な息遣いで、それでもサイモンは――


 舞翔は一瞬呆然と立ち尽くしたが、直後両手の拳を強く強く握り締めた。


 そして忘れられていたサイモンのグラビーストへ駆け寄り、抱き上げ、サイモンの目の前へと走って回り込み、立ち塞がる。


「っどけ!」

「グラビースト、忘れてるよ」


 えるように叫ばれても、舞翔は一歩もひるまなかった。

 それどころか一歩踏み出すと、サイモンの手に無理矢理グラビーストを押し付ける。


 そして目の前でサイモンを睨み付けた。

 その視線にサイモンの肩がビクリと揺れる。


「あなたは私には勝てない、絶対に」

「っ! はは、この間負けたクセに、何言って」

「もう負けない、絶対に」


 サイモンは思わず息を止めていた。

 目の前で自分を睨む舞翔の瞳は、先程まで自分を気遣い心配そうに見つめていた少女とは全くの別人である。


 そこにはただギラギラと燃えたぎ闘争心とうそうしんだけが宿っていた。


 気付いた瞬間、サイモンの総身そうしんは震え上がる。


 視線がぶつかり一瞬の間の後、サイモンは逃げるように走り去って行った。


 その背中が見えなくなる頃、無意識に呼吸を止めていたらしい舞翔は全身の空気が抜ける様な溜息を吐いて、へなへなとへたり込んだ。


「とか言って、私は今のところベンとバトルの予定なんですけどね」


 そしてぼそりと皮肉に呟く。

 目を眇め、眉間に皴を寄せ、唇を尖らせて、舞翔は振り返る。


「考えてもらえますか? 監督」


 サイモンが去って行ったのとは別のもう一つの出入口、そこに向かって舞翔は言った。


 すると扉の影から何時からそこに居たのか、士騎が気まずそうな表情で現れる。


 そのまま舞翔にじっとりと見つめられ、士騎は心底疲れ切った様子で肩を落としながら溜息を吐いた。

 吐いて、それからもうひとつ、小さく息を吐く。


「君には負けたよ、舞翔くん」

「! じゃあ!」

「……君を信じる。サイモン戦は、君を出す」


 士騎は眉を寄せながら、それでも片眉だけはひょっこりと上げて、微笑んだ。


 その言葉を聞いた舞翔は思わず喜びで跳び上がる。


 それから「ありがとうございます、監督!」と物凄い勢いで士騎に飛びついた。


「うぐっ、こらこら、舞翔くん」


 腹に衝撃を受けながらも何とか受け止めた士騎は、舞翔を見下ろし思わず目を見開く。


「監督大好き!」


 舞翔はこれでもかというほど全力で抱き着きながら、満面の笑みで士騎を見上げていた。


 その瞬間士騎からまた喉が詰まったような声が漏れ、かと思えば「妹が居たらこんな感じなのか?」などと目を瞑ってこれでもかと眉間に皴を寄せながら頬を紅潮させる。


「と、とにかく。頼んだよ、舞翔くん」

「任せてください。この勝負、絶対に勝ちます」




士騎はお兄ちゃん気質です。

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