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第91話 『いざ、決勝! 聖地巡礼!?』





 士騎と二人、舞翔は古城の前に立ち、目を燦燦さんさんと輝かせていた。


「決勝進出チームへの特典として、ここルーマニアのブラン城に一泊して良いとのことなんだが、舞翔くん……」

「絶対泊まります!」


 元気よく食い気味で返事をした舞翔に、士騎は少しだけ呆れたように頬に汗をかき困り眉である。


「ここへは選手しか泊まれないから、監督である俺は近くのホテルに泊まることになる、と説明は聞いていたよな?」

「はい!」

「カランも武士も、到着は恐らくバトル前日になる。それまで君一人だというのも」

「分かってます!」

「何故泊まるんだ!?」

「例え一泊でもお城に泊まれるんですよ!? 一生に一度あるかないかじゃないですかこんなの!」


 士騎は額に手を置きながら大仰おおぎょうに溜息を吐いてみせた。

 しかし舞翔は一切いっさい引くことなくこれでもかというほど目を輝かせて士騎を見つめている。


「危ないことはしません! 何かあったらすぐ連絡します! GPSもちゃんと身に付けます!」

「駄目だ駄目だ駄目だ! やっぱり駄目だ!」

「何故ですか!? このわからずや! 過保護かほご! 意気地いくじなし!」

意気地いくじ!? いやいやいや、何と言われても駄目なもんは駄目だ! 城は観光だけして夜はホテルへ戻るんだ!」

「やだ! 絶対やだ! 絶対に泊まる!」


 どちらも一歩も引かぬ言い争いに、周囲に居た関係者たちからざわめきが立ち始めた。


 舞翔も士騎も肩で息をしながら睨み合っている。


 士騎はこんな時に限って聞き分けの悪い舞翔にほとほと困り果ててしまった。

 普段ならば本当に子供なのかと疑ってしまうほど大人ぶったところのある少女である。


 それがまさか、武士もカランもいない時にこんなにもごねるとは。


 まさに想定外だ。


「何で今回に限ってそんなに意固地いこじなんだい?」

「聖地巡礼絶対実施!」

「なんて?」


 そう、舞翔がこれほどまで興奮し我儘を通そうとするのには理由があった。


 ルーマニア“ブラン城”。


 まさに『烈風飛電バトルドローン』で武士達が泊まることとなった城なのである。

 ヲタクの舞翔にとっては夢にまで見た聖地なのだ。


 観光客としても勿論ブラン城の中を見ることは出来る。何なら前世で舞翔は既にブラン城を訪れている。

 だがしかし、それではあくまで観光エリアまでしか見る事ができない。


(ルーマニアのブラン城、“冷血の吸血鬼”であるソゾンの象徴として選ばれた最終決戦地! 泊まれば観光客では見れない場所まで、それどころか隅々まで見れる!)


 武士とソゾンがバトル前に対峙たいじした屋上や、中庭の井戸、二人が寝泊まりした部屋だって見れるかもしれない。

 とどのつまり、今の舞翔はただの一人のヲタクであった。


「泊まらせてくれるまでここを動きません!」

「だったら力尽ちからずくで連れ戻すまで……!」

「ぎゃー! 触らないで変態!」

「へんたっ!? 捕まるから本当にやめてくれっ!」


 舞翔はしゃがみ込み、士騎は涙目になりながら犯罪を恐れて舞翔にれられずぐぬぬと奥歯を噛み締める。


「失礼します、浦風監督」

「舞翔!」


 と、そこへ。


「アレクセイくん」

「あ、キリル!」


 相も変わらず色素の薄い金髪をさらさらとなびかせたアレクセイと、マスクをやめて端正な顔を惜しげもなくさらしたキリルが、どちらもにこにこと読めない笑顔で近付いて来た。


 これは天の助けとなるのかどうか――と、士騎はどこか疑わしそうに、舞翔は久しぶりに会えたことを純粋に嬉しそうに二人を迎える。


「カランくんから話は聞いています。舞翔さんは今一人なんですよね?」

「あ、あぁ」

「舞翔、オレ達が君とずっと一緒に居るから安心して」


 アレクセイは士騎の前に立つと片手を胸に当て姿勢良くにっこりと微笑んでみせた。

 その隣ではキリルが既に舞翔の両手をぎゅっと握り締め満面の笑みを浮かべている。


 士騎はそんなキリルの様子を見て、何とも疑わしに瞳を眇めてみせた。


「心配だ」

「まぁまぁ、僕が付いていますからどうか信用してください」


 アレクセイは少しだけ眉をハの字にしながらも玲瓏れいろうに言い切った。

 その声は普段の彼の品行方正ぶりも相まって、士騎に安心感をもたらすには十分な効果を発揮したようである。


 小さく溜息を吐き、士騎はついに「分かった」と折れたのだ。


「い、いいんですか!?」

「その代わり、さっき言った三箇条は必ず守るんだよ」

「危ないことはしない、何かあればすぐ連絡、GPSはずっと身につけておく!」

「そうだ。出来るかい?」

「出来ます、守ります!」


 頷いた士騎に舞翔は飛び跳ねて喜んだ。


 その横でキリルは「良かったね、舞翔」と頬を少しだけ赤くして微笑んでいる。


 アレクセイはそんなキリルをニコニコと見守っており、士騎は一瞬だけ「これは本当に大丈夫なのか?」と不安がよぎるが、男に二言はなし、と首を振って邪念を払った。


「それじゃあ、よろしく頼むよアレクセイくん、キリルくん」

「はい、任せてください」

「舞翔はオレが守ります」


 キリルは舞翔の手をしっかりと握っていた。

 その過保護ぶりに舞翔は少しだけ戸惑いつつも、満面の笑みを向けられてしまって何も言えずにまぁいいかと手を握り返す。


 たったそれだけで、キリルは目を見開いて体をぶるりと震わせた。


「よろしくね、キリル」

「う、うん」


 先ほどまでの積極性はどこへやら、キリルはパっと手を放すと耳まで赤くして帽子を深く被り直し、俯いてしまった。


 舞翔は焦る。手を握り返したことが逆セクハラにあたったのでは?


 気持ち悪かったのかも、と思わず手汗を確認する。

 汗は大丈夫そうだ。


「あ、あの、キリルごめんね」

「だ、大丈夫」


 赤くなったキリルと、青くなっている舞翔。

 そんな二人の温度差をアレクセイはにこにこと口角で弧を描きながら見守り、士騎は冷めた目でじとりと見つめていた。


「大丈夫そうだな」


 そして士騎はぽつりと呟いて、色々と手続きなど溜まっていたのか急ぎ足で「それじゃあよろしく頼む!」と去って行ってしまった。


「あんなに反対してた割には薄情だなぁ」

「まぁ、色々と大変なのだと思いますよ。それより舞翔さん、早速城へ入りましょうか?」


 士騎の背をなんだかんだ少しだけ物寂し気に見送る舞翔に、アレクセイはにっこりと微笑んだ。





ドッキドキの、お泊まり編です!!!

ご想像通り、たぶん何か起きます!!笑

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