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第77話 『カランの秘密? 微笑みの悩殺』




 街に火が灯り始める頃。


 例によって例のごとく、世界大会開催を祝した催しがあるということで、舞翔は屋上テラスへとやって来ていた。


 よいの街はどこも煌びやかで、まるで星空を落としたように綺麗な夜景が広がっている。


 テラス席には夕食が広げられており、ここから街全体を使ったプロジェクションマッピングを鑑賞しながらディナー、というのが今回のもよおしらしい。


「舞翔! 早かったな」

「おっす、舞翔」


 朝、アレクセイの話を聞いた後、他のチームと別れた舞翔たちは武士と合流し朝食を取った。


 それから舞翔はいつも通り皆で練習をするものと思っていたのだが、カランと武士は用事があると言って、そそくさとどこかへ消えてしまった。


 更に士騎もまた、用事が出来たとどこかへ行ってしまった。


 結果、舞翔は今の今までぽつんと一人である。


 仕方なく自室でだらだらと昼寝をしたり、エレキストのメンテナンスをし直してみたりもしたが、かなり暇を持て余していた。


 そりゃあ来るのも早くなるというものだ。


「……カラン、どうしてほっぺのところ怪我してるの?」


 自分が発した声がいつもより一段冷たいことに、舞翔自身が少しだけ驚いた。


 思った以上に異国の地で一人取り残されたことに、いじけていたようである。


「っ! こ、これはちょっと、転んでしまってな。ははは」


 明らかに動揺して誤魔化しているカランに、舞翔のため息が響く。


 武士は動じずニコニコしているため、存外、武士の方が嘘が上手なのだなと舞翔は思った。


「どういう転び方? 絆創膏ばんそうこうあるから貼ってあげるよ」

「舞翔! ありがとう」


 少し呆れながらも、舞翔はポケットから絆創膏ばんそうこうを取り出しカランを手招きした。

 カランは本当に嬉しそうに舞翔の前に座る。



「頼む」


 そしてそう言って、突如として目を閉じた。


 舞翔はカランの突然のその行動に、思わずピシリと動きを止める。


(何で目を閉じるの!?)


 無防備に自分に頬を差し出しながら目を閉じているカランは、夜景もあいまってか、何故だか変な雰囲気をかもし出している、気がする。


 それでも舞翔はドキドキと鳴り出した心臓を無視しながら、カランの頬に触れた。


 絆創膏ばんそうこうがくちゃりとならないように慎重に貼る。


 ただそれだけなのに、カランの顔が良いせいで少しだけ指先が緊張で震えてしまった。


「はい、終わったよ」

「ふふ、一生大切にする」

絆創膏ばんそうこうを!?」


 目を開けたカランは本当に嬉しそうに、とろけるように目を細めて微笑んだ。


 その表情に舞翔は口から心臓が飛び出るのではないかというほどの衝撃を受け、思わず顔を俯ける。


 カランのこの顔が、舞翔は苦手だ。

 胸の中がくすぐられたような感じで、落ち着かなくなる。


 心なしか頬が赤くなっている気がして、それも何だ

か気に入らなくて誤魔化すように頬を膨らませた。


 それから自然と上目遣いの状態でカランをキッと睨む。


「次からは、練習するなら私も誘ってね」

「っ! 舞翔……っそんな可愛い顔でねだられたら断れないじゃないか!」


 何やら噛み締めたような顔で胸を掴むカラン。


「可愛くなんかないってば!」


 舞翔は益々顔を真っ赤に染めて、そっぽを向いた。


「はは、お邪魔だったかな?」

「あ、兄ちゃん」


 瞬間、遅れてやって来た士騎と思い切り目が合ってしまった。


 舞翔は変な所を見られた羞恥心から、顔が赤いのか青いのかよく分からない色に染まっていく。


「わっ、私お手洗いに行ってきます!」


 気まずさから、思わずそう席を立ち逃げ出してしまった。


「あと少しで始まるから急ぐんだぞー!」


 後ろの方から聞こえる士騎の声が遠のいていく。


 舞翔は両手で頬を挟むようにしながら、とにかく洞窟内を何も考えずに駆け抜けた。


 頬の熱が取れるまで、それはもう無我夢中で。


(あぁもう! 落ち着け自分、沈まれ心臓!)


 舞翔はその時、なかばパニックでほとんど何も考えていなかった。


 屋上テラスから一番近いトイレを通り過ぎ、それどころか階段までのぼったりりたりを繰り返し、そうしてようやく早く戻らなければと思い出した時にはもう、手遅れだった。


(やばい、ここ、どこ?)


 案の定、舞翔はホテルの中で迷子になってしまったのである。


 洞窟ホテルの内部は思ったよりも入り組んでいる。


 日本とは建物の構造が全く違うし、窓が無い場所も多い為、自分が今どこにいるのか、どこを向いているのか、方向感覚すらも失って、よく分からなくなってしまうのだ。


 その上、今泊まっているホテルは横にも上にもとても広い。

 この街一番のホテルである。


「と、とりあえず屋上を目指せば戻れるかな?」


 仕方なく手近にある階段を上ろうと振り返った時だった。


「あれ、キリ……っ」


 通路の先に長い銀髪が見え、思わず天の助けと呼ぼうとしたのを、手で即座に口を塞いだ。


 それから壁の影に反射的に身を隠す。


 銀髪の向こう側、微かに見えたそこに、ラズベリーレッドが見えてしまったから。




お久しぶりの、ラズベリーレッドでございます。

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