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第76話 『混迷のトルコ! 逆ハーレムはご勘弁?』





「ふ、ふおおおおお!」


 舞翔は興奮していた。


 上空には、色とりどりの気球が無数に浮かんでいる。

 朝焼けの空に映えるカラフルな気球たちはとても美しく、舞翔は思わず感嘆の叫びを上げてしまっていた。


 街を一望いちぼう出来るテラスに、今舞翔は立っている。


 穴を掘って出来た洞窟の家や、石灰岩で建てた家などが所狭しと密集し、ひとつの街を成しているそこは、見渡す限りの灰褐色の凹凸とした大地に囲まれている。


 岩窟の街、カッパドキアである。


「早起きして良かったな、舞翔」


 舞翔の隣にはカランも立って、同じ景色を見ていた。


「本当だね! 武士も来ればよかったのに」

「あいつは昔から朝が弱いから……」


 カランの隣に立つ士騎が遠い目をして呟いたのに対し、舞翔は毎日遅刻ギリギリで登校していた武士を思い出し、思わず納得してしまった。


 舞翔たちは昨夜遅くに世界大会予選最終の地である中東、トルコのカッパドキアへと到着した。


 その時はあたりも暗く、あまり景色を楽しむことが出来なかった。


 しかし泊まることになったホテルが何と洞窟の中にあり、それだけで舞翔は大興奮。


 武士も目を輝かせ、二人でホテル探検など遅くまで夢中でやってしまった。

 その所為で起きられなかったのもあるのだろう。舞翔とて実はとても眠い。


「さぁ、泣いても笑っても残るバトルはあと二回。頑張ろうな、二人とも!」

「はい!」「あぁ!」


 士騎の言う通り、この中東の地で決勝に進むチームが決まることになる。

 オセアニアに負けた時、舞翔は一度絶望してしまった。アニメ通りの勝敗を貫くことが出来なかったからだ。


 だがしかし、決勝進出を諦めるのはまだ早い。


 何故ならあのヨーロッパでさえ一度負けているのだ。

 最早何もかもが本編通りではなくなってしまった今、だからこそ、何としてでも残り二回のバトルに勝って決勝へ進み、優勝しなければならない。


 全ては、ソゾンをベルガから解放する為!


「よし! 頑張るぞ!」


 拳を握り、一人ふんすと鼻を鳴らす舞翔だったが、ふといつもよりカランが静かな事に気が付いて、ちらりと盗み見る。


 カランは何やら真っ直ぐに景色を見ていた。

 その表情はいつもよりずっと真剣で、舞翔は思わずドキリとする。


(カランって、やっぱり黙ってると普通に男前だよなぁ)


 多少失礼とは思いつつ、心の中で呟いた舞翔である。


 それから自分も、もう一度目の前に広がる現実離れした光景に視線を向ける。

 そして思う。


 本当に、遠い所へ来てしまった。前世では想像もしなかった遠い世界。


 けれども望めば、恋焦がれた推しに手が届くほど、近い世界。


(ソゾン、待っていてね)

「あっれぇ、舞翔じゃないか! グッモーニン」


 と、急に背後から名を呼ばれ舞翔はびくりと肩を揺らした。

 振り向けば左右対称のよく似た双子が、金髪碧眼を朝の光に輝かせていた。


 マリオンとジェシーである。


 急な華やかさに舞翔は思わず目を細める。


 瞬間、カランのセキュリティスイッチが入った。


 自身の背に隠すようにして、当然のように舞翔の前に躍り出る。

 それにムっとしたのはマリオンである。


「ちょっとぉ、こっちは舞翔に用があるんだけどぉ?」

「そうか、生憎だが俺達はこれから朝食なのでな。失礼する」

「朝食はまだ準備中の札がかかっていたが?」


 カランの言葉にジェシーがさらりと反論し、その瞬間にどこかでゴングの鐘が鳴る。

 ゴゴゴとでも音がしそうな勢いで睨み合う三人に、舞翔はおろおろと戸惑った。

 その後ろで空気となっていた士騎が、同情したような顔で舞翔を見ている。


「よぉ、舞翔! お前も気球を見に来たさ?」

「騒がしいと思ったら、やっぱり君か」


 と、次はフリオとエンリケもやって来て、漁夫の利と言わんばかりに舞翔の両脇を固めてしまった。


 フリオは相変わらず日に焼けた肌に白い歯が目立っている。大きめのハットにポンチョのスタイルは変わらないようだ。


 反対側のエンリケは長身をいつも通り猫背で丸めている。

 変わらず前髪で目を隠し、頬のそばかすが目立っている。ぼそぼそとした喋り方が彼らしい。


 フリオの橙色の髪とエンリケの薄紫の髪が少しだけ朝焼けに似ていて綺麗だな、などと舞翔は思いつつ「おはよう二人とも」と笑顔で挨拶をした。


 どうやら皆、同じホテルに泊まっていたらしい。


「! まさか」


 もしかして他のチームも? などと舞翔はハっとして辺りをきょろきょろと見渡す。


 しかしお目当ての人物は見当たらず、少しだけしょぼんと口をへの字に曲げた。


「誰を探してたの、舞翔」

「ひゃ!?」


 唐突に耳元で囁かれ、舞翔は思わず悲鳴を上げてしまった。

 勢い良く声の方を向けば、キリルが少しだけブスっとした顔で立っていた。


「お、おはようキリル。えっと、ご機嫌ななめ?」

「……」


 キリルの視線は舞翔ではなく、フリオとエンリケに向けられていた。

 ふっと微笑むフリオに、黙ってキリルを見下ろすエンリケ。


「何か用かい? お嬢ちゃん」

「おじょっ!? オレは男だ!」

「え? 男? 誰なの、舞翔」


 キリルはマスクも帽子もつけていなかった。

 だからだろうか、フリオとエンリケは本気で誰だか分かっていないようである。


「えっと、ロシア代表のキリルだよ」

「なっ!? こ、こいつがさ?」


 フリオの失礼な反応にキリルは親指の爪を齧りながら不機嫌そうにそっぽを向いた。


「まぁまぁ。キリルも気球を見に来たの?」

「オレは」


 困り眉で微笑む舞翔を盗み見るように横目にしてから、キリルは改まって向き直ると、舞翔の真正面に立った。


「君に会いに来たんだよ、何かあれば手伝おうと思って」


 キリルは上目遣いで、わざとらしくコテリと首を傾げた。


「駄目?」

「ん゛ん゛っ!」


 幻想的な景色と少しずつ明るくなりだした空も相まって、キリルの銀色の髪と睫毛が神々しい。


 まさに妖精かと思うほどのその美しさに、舞翔はつい唸り声を上げてしまった。


 しかし落ち着こうと一度咳ばらいをしてから、自分をじっと見つめるキリルに向かい合う。


 駄目だ、麗しすぎる。舞翔は目を閉じ穏やかな表情で吐血しそうになった。


「舞翔?」

「ちょっと! 抜け駆けはなしだよ! ゲラウェイ有象無象うぞうむぞう!」

「マ、マリオン!?」


 背後からの衝撃に倒れそうになった舞翔だったが、それ以上に強い力で抱き寄せられた。

 頭にずしりと乗せられた重みに上を見上げれば、マリオンが自分を後ろから抱き締め頭に顎を置いたらしいことに気付く。


「貴様何をしている!?」


 カランの怒声。


「何だよ、君」


 じとりと睨み付けるキリル。


「大丈夫か、舞翔さん」


 横からさりげなく手を取るジェシー。


「なんか、大変なことになってるさね、舞翔」

「これはちょっと、予想外、なんですけど」


 ドン引きするフリオとエンリケ。

 そのまま舞翔を置き去りに騒ぎ出した一同に、場は混沌を極めていく。

 終始一貫して空気に徹する士騎に、舞翔は助けを求めるべく視線を向けたが、思い切り逸らされてしまった。


(くぅっ、士騎監督のそういうところだよ!)


 舞翔は段々と腹が立って来た。


 朝から、しかもこんなに素敵な景色が見られた朝だったのに。


 一体全体どうしてこうなってしまったのか。

 舞翔が今にも叫び出しそうになったその時だった。


「舞翔さん! えっと、この状況は」


 テラスの外から舞翔を呼ぶ声がした。

 何かと見れば、絵本の中から飛び出してきたのかと思うほど、爽やかな貴公子がそこには居た。


 マリオンやジェシーの華やかな金髪とは違う、落ち着いた白に近い金髪。人を穏やかにさせるような緑翠すいりょくの瞳。


「アレクセイさん!」


 舞翔は思わず天の助けと歓喜の声を上げていた。

 困った時のアレクセイ様様さまさまである。


 少しだけ状況に戸惑いながらも、アレクセイは舞翔の前までやって来て周囲をぐるりと見渡した。


「ちょうどいい。みんなにも聞いてもらおう」


 さすがの冷静さ、対応力である。どこかの監督とは大違いだ。

 その監督が、アレクセイの前へと進み出た。


「どうしたんだい? アレクセイくん」

「士騎監督、実は少し気になっていることがあって」


 アレクセイの少し深刻な様子に、騒がしかったのが一転。


 その場に居た全員の視線が集まる中、アレクセイは「実は」と話し始めた。




※・※・※・※




「オーノー、アフリカの様子がおかしいだって?」


 幾何学模様が美しいトルコ絨毯が敷かれたテラス、舞翔たちはそこに円陣を作り座っていた。

 アレクセイの話に最初に反応したのはマリオンである。


「あんな弱っちい奴ら、気にする必要ないね。ノープロブレム!」

「ハ? 弱い? 何それ自慢か何か?」


 マリオンの言葉にエンリケが噛みついた。


「君達は負けたんだっけ? ダッツトゥバッド!」

「お前、何が言いたいさ?」


 マリオンにフリオとエンリケは見事に煽られ不穏な空気が流れ始める。

 それを阻止しようと、舞翔は思わず両者の間に割って入った。


「どっちも強かったから! 喧嘩しないで!」


 どちらも舞翔に負けている為、その言葉には弱かったようである。

 全員すぐに「うっ」と言葉を呑み込み引き下がった。


「真面目な話、オレもそれは思っていた」


 と、マリオンの横に座っていたジェシーが手を口元に添えながら伏し目がちに言った。

 皆の注目が集まる中、ジェシーは堂々と続ける。


「アフリカは初戦から敗北続きだった。ロシアに負け、オレ達に負け。だがこれは大会前の下馬評としては然程さほど驚く結果ではない。次いでアフリカは今大会最も成績の悪い中東にも負けている。ハッキリと言えばかなり弱いチーム()()()()()。だが、ヨーロッパ戦で負けた直後から今に至るまで、まるで飛ぶ鳥を落とす勢いで連勝を続けている」


 連勝という言葉に、舞翔は目を見開いた。


 アフリカはジェシーの説明の通り、本編でも言い方は失礼だが、弱いチームとして描かれている。


 中東とアフリカはよくある数合わせの、あまり目立たないチームだったのだ。


 それが、連勝しているだなんて。


「アフリカは残すところBDFとの一戦のみ。ここまで四勝四敗だ」


 さすがジェシーと言ったところか、流れる様な完璧な説明に、その場に居た全員が感心の溜息を吐いた。


「四連敗からの四連勝、か」


 舞翔の隣に座っていた士騎が、ぼそりと呟く。


 士騎は非常に難しい顔で考え込む様に腕を組んでいた。


 それを見た舞翔の眉間にも皺が寄っていく。

 何だかとても、嫌な予感がする。


「それだけだったらまだ良いんです。ただ、問題が……」


 アレクセイは少しだけ声を落とした。

 皆は心なしかアレクセイの方に体を傾けて次の言葉を待っている。


「この件に、ベルガが関わっているかもしれない、ということです」




新章突入!

新たな問題発生です。


もし良ければ、リアクションや感想などいただけると、励みになります!

少しでも気に入りましたら、ブックマークなどもぜひぜひよろしくお願い致します。


と、久しぶりに言ってみました…笑

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