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第66話 『決着! そして…』



 舞翔の瞳の中で光が瞬く。

 チカチカと明滅めいめつするそれは、舞翔の中でひとつの迷いを掻き消していく。


(私は間違ってなかった)


 反則は起こらない。

 キリルは失格にならない。

 失踪もしない。


(そうだよね、キリル!)


 舞翔は初めて()()()()()で物語を捻じ曲げた。


 不可抗力でも、いた仕方しかたなくでも無い。


 更にこれはストーリー上の些事さじでもない。


 勝敗にも物語にも関わる重要な因子いんしを、舞翔は自らの手で変えてしまった。


 彼女は知る由も無い――それが今後、どんな未来を手繰り寄せるのか、なんて。


「さぁ、行くよ! エレキスト!」


 台風の風よりもずっともっと強い風、ジェット気流に乗って、エレキストは地上に向かって一息に吹き抜ける。


 早過ぎて、DJすらも何が起こったのか目で追い切れず、会場中が静まり返った。


 エレキストは確かにその瞬間、風のようにアイフェリーとスノーブルマンの横を駆け抜けた。


 直後、アイフェリーとスノーブルマンの二機は静かに下降し始める。

 外れた受信機が、地面にカチャリと落ちた音と共に。


「きっ、決まったーーーー! BDFの圧倒的勝利だーーーーー!」


 会場中から沸き上がる歓喜に、舞翔は興奮のままカランに飛びついた。


 それを軽々と抱き上げて、カランはくるりと回ってみせる。


 二人とも、満面の笑みだった。


 キリルとアレクセイもそんな二人を見ながら、負けたというのに清々しい笑顔でお互い顔を見合わせる。


 華々しく、光あふれるスタジアム。


 その光が濃く鮮烈なほど、闇はより克明に浮かび上がる。


「キリルめ……まさか本当に裏切るとはな」


 入場口の暗がりで、白濁とした瞳が怪しく細められる。


 ベルガは一人、影に潜む様にバトルを見ていた。


「“空宮舞翔”。思っていたより、これは」


 その口元が三日月を描く。


「面白いことになりそうだ」




※・※・※・※



「見に行かなくて良かったのか?」


 練習場にもスタジアムの歓声は届いていた。

 ペトラはベンチに座るソゾンへ声を掛ける。

 返事は無い。

 俯いて表情も分からず、何を考えているのか慮ることも出来ない。

 その様子に思わずため息を吐いてから、ばつが悪そうにペトラは頭を掻きながら後ろを振り返った。


「これがお前の答えって訳ね」


 そこには粉々に砕け散った練習用のドローン達が、うずたかく積まれていた。


「吹っ切れたなら、俺はお前に従うよ」


 やはりソゾンは答えなかった。

 その代わりのように緩慢に顔を上げ、壊れたドローンの山を見る。

 その瞳は昏く、果ての無い闇を孕んでいる。


(まぁ、そりゃそうか)


 ペトラは息を吐いた。思い出すのは舞翔のことだ。

 彼女と自分たちとでは生まれ育った場所も、環境も違う。

 何もかもが違うのだから、分かり合うなど出来ようもない。

 心がいくら惹かれても、その壁を超えるのは容易ではないのだろう。

 あの日、なりふり構わず舞翔を助けに駆けて行ったソゾンは、なんとも惨めな面«つら»をして帰って来た。

 眉間には皺を寄せ、剣呑な表情に反して紅潮した頬。

 けれどもペトラは忘れない、彼が悔し気に噛み締めていた唇を。

 次の日、ソゾンはキリルから情報を引き出せなかったその足でベルガのもとへと赴いた。

 そして真っ向から聞いたのだ。


――いったい、何を企んでいるのですか?

――お前が知る必要は無い。だが、いいのかな?

――?

――私は彼女を欲っしている。彼女には才能がある、何者にも代え難い才能だ! それに比べてお前はどうだ? 今のお前で、エフォート一位の座を死守出来るのか?

――! 何が言いたい?

――彼女を釣るただの餌になり下がりたくないのなら、よく考えろと言うことだ。


 あの瞬間から、ソゾンの瞳から光が消えた。


(あの人はいったい何を考えているんだか。だけど)


 ペトラは目を細め、ソゾンを横目に見る。


(俺達の事なんか、虫けら程度にしか思ってないのは確かだろうな)


 都合がいいから利用する。ただの駒の心など、どうなろうと構わない。

 それでも駒として利用価値がある限り、それなりの地位で優遇される。

 ペトラにとってはそれで良かったし、今まで通りならばソゾンだって同じだったはずだ。


(才能、か)


 ペトラはエフォートに所属してからずっとソゾンを見続けて来た。

 だから分かる、ソゾンが恐らく“才能”という言葉を最も忌み嫌っているであろうこと。

 何故なら彼は血のにじむ努力を積み重ね、今この場に立っているからだ。

 それこそが自分達の誇りであり、そしてそれだけがただひとつ、何も持たない自分たちの持ち得る武器だから。


(次の試合、どうなるのかねぇ)


 不意にソゾンが立ち上がり、歩き出した。

 時計を見やれば試合の時刻が迫っている。

 ペトラも慌ててソゾンの後に続いた。

 控室へと向かう通路。

 ベルガはそこにまるで機を見ていたかのように現れた。


「準備はいいかな? お前たち」


 立ち止まったソゾンは、頷くでも何を言うでも無くただベルガを一瞥いちべつした。

 ペトラはその様子を伺いながら、自分だけは形だけでも頭を下げる。


「求めるものは勝利ではない。空宮舞翔の“エレキスト”を再起不能まで破壊せよ」


 ペトラの手のひらに冷や汗が滲む。

 彼にはベルガが考えている事がいよいよもって分からなくなった。

 空宮舞翔を執拗に妨害するのは、エフォートよりも世間の話題を独占している彼女への報復だと思っていた。それが急にソゾンを利用して懐柔しようとしたかと思えば、今度はそのソゾンに直接“エレキストを破壊せよ”と命じる。

 ただひとつ言えるのは、それだけ空宮舞翔に執着をしているということだ。


「ソゾン、分かっているな?」


 ソゾンは答えなかった。

 その反応が気に入らなかったのか、ベルガの瞳が冷ややかに細められる。

 

「もしまた私の命令に違反したら、いくら貴様とて看過できないぞ」


 鈍く怪しく光る眼光。

 まるで心臓を掴むような恫喝の声。

 しかしソゾンはそれにも一切の反応を示さなかった。

 

「忘れるな、お前たちは“エフォート”であり私の“駒”だということを」


 それだけ言うと、ベルガは不愉快そうに舌打ちをして早々に去って行ってしまった。

 残されたソゾンは嘆きもせず憤慨するでも無く、本当に感情など持ち合わせていないかのように静かに立ち竦んでいる。


「そうだ、俺は“駒”だ。それでいい」


 けれども、ぽつりと。

 唇から零れ落ちた言の葉は、誰にも届かず舞い落ちた。



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