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第61話 『傷心の王子様! カランの瞳』






 舞翔の逆ギレに、士騎は明らかに動揺していた。


 しかし彼女は親御さんからお預かりした、大切な娘さん、である。

 だというのに、士騎は舞翔に知らぬ間にとはいえ、複数、怪我をさせてしまったのだ。


 その原因を聞き出すまでは、簡単に引き下がるわけにはいかない!


「っだ、だが俺は保護者としての責任が」

「責任、果たせてるんですか?」

「ぐはぁっ!」


 士騎は胸を押さえ片膝を突くようにして倒れ込んだ。


 大ダメージだったようである。


 こうして最強のカードを切った舞翔の勝利によって、討論は呆気なく終結した。


「そんなことよりお腹が空きました! 早く朝食に行きましょう!」


 舞翔は、このままの勢いで有無も言わさず朝食へもつれ込もうと、立ち上がろう、とした。

 しかしそこで足がズキリと痛み、立ち上がる途中でバランスを崩して倒れ込む。


「舞翔!」


 それをすかさず助けたのはカランで、そのままベッドにもう一度座るように促されてしまった。


「その足であまり歩き回らない方が良い。朝食をここへ持ってくるから、ここで食べよう」

「え!? そんな、申し訳ないからっ」

「いや、カランの言う通りだ。安静にした方がいい。俺と武士で取って来るから、カランは舞翔を頼む」

「ああ、分かった」


 そしてあれよあれよという間に士騎と武士は部屋を出て行ってしまい、カランと舞翔の二人だけが残された。


 何とか尋問からは逃れられたことにほっとするも、舞翔はカランをチラリと伺った。


 カランは突っ立ったまま座ろうともせず、黙り込んでいる。

 表情は険しく、ずっと眉間に皴が寄ったままだ。


「カラン、そこの椅子にでも座りなよ。ね?」

「ん? あ、あぁ。すまない」


 見かねて促せば、言われた通りに椅子に座って、カランはまた黙り込んだ。


 舞翔は思わず渋面を浮かべる。

 見るからに、明らかにカランは落ち込んでいる。


(これってやっぱり、昨日の夕飯の時のが尾を引いてる感じかな?)


 いつものカランならば、士騎を押し退けて舞翔を心配し、何があったのかもっとしつこく聞いてきたはずである。


 けれどもそれをせず、こうして黙って落ち込んでいるのは、昨晩の夕食時、ソゾンに指摘されたことを気にしているのかもしれない。


 いや、そうとしか思えない。


「ね、ねぇカラン」


 だとしたら本当に何も気にする必要は無い。

 それを伝えようと、舞翔は口を開いた。


「昨日の事だったら、私本当に気にしてないよ」


 安心させるように笑顔でそう言えば、カランは少しだけ驚いたように舞翔を見やった。


「だが、君は何も話してくれない。俺が君の信頼を裏切ったからだ」

「へ!? い、いやいやそんな大袈裟だよ! 本当に、大したことなくて」

「大袈裟でも、大したことなくも無いよ、舞翔」


 その眼差しはとても切実で、真っ直ぐだった。


 舞翔は思わずそんなカランの瞳にドキリと心臓が高鳴る。

 いつもと違ってとても静かに、けれども変わらずハッキリと、カランは言った。


「君が心配だ、舞翔。お願いだ、俺に君を守らせてほしいんだ」


 ぎしりと椅子が軋む音と、カランが立ち上がり舞翔の前に跪いたのは同時だった。


 カランの両手が舞翔の片手を掬い取り、そのままの姿勢でじっと見つめられる。


(ひっ!? ひえええ!)


 その突然の王子様ムーブに舞翔の心臓が慄いた。


 触れられた手がくすぐったい、恥ずかしさに顔が爆発しそうだ。

 しかし目の前のカランは至極真剣に舞翔を見つめて来る。


 それに対して目を背ける事も出来ずに、舞翔は真っ赤なままカランを見返すしかなかった。


「まっ、守るも何も別にそんな必要はないような!?」

「いいや、君は現に今もこうして足を怪我しているじゃないか」

「こ、これは本当に」


 舞翔は足の怪我に目を向ける。

 その瞬間。


「――っ!!」


 跪いたカランと、昨夜のソゾンが重なって――見えた。

 直後、全身の血液が底から沸騰するような感覚に襲われ、舞翔は顔をこれでもかというほど真っ赤に染め上げる。


 それを見たカランの瞳孔が収縮した。


「ソゾン、なのか?」

「へ!?」


 零れるような呟きと共に、舞翔を見つめるカランの瞳に怪しい光が宿る。

 舞翔はその時初めて、カランに本能的な恐怖を覚えた。


 まるで獣が獲物を狙うような、いいや、もっと獰猛どうもうで凶暴な視線。


「ソゾンなんだな?」

「ち、違うっ。カラン、勘違いしているよ! ソゾンは逆に、手当てをしてくれてっ!」

「手当て――?」


 舞翔はしまった、と思ったが後の祭りである。

 カランは笑っていない、怒ってもいない。


 けれどもその無表情にも似た顔が、堪らなく怖い。


 手を痛くない程度に、けれども振り払えないほどには強く握り締められる。


「俺はまた、あいつに負けたのか」

「へ?」


 舞翔にはカランの囁きを聞き取ることは出来なかった。


 けれども気付けばカランから、先程まで纏っていた恐ろしい雰囲気が消えていた。

 握っていた手も離されて、カランは立ち上がる。


「カラン?」

「すまない舞翔。だがやはり、俺には反省が必要だ」


 カランは力なく微笑んだ。

 その表情に、舞翔の胸が確かに痛む。


「な、なんでカランが反省するの!? 反省するのは怪我をした私で……!」

「あぁ、それは反省してくれ」

「あ、はい! て、へ?」


 虚を突かれ、舞翔は目を真ん丸くした。


 その様子にカランがくすりと笑ったのを見ると、先程までの緊張は完全に消え去って、舞翔も自然に笑顔に戻ると「なにそれ!」と目を細めて安心して笑う。


「おーい、朝食持って来たぞ。みんなで食べよう」

「隣から椅子とテーブル持って来ようぜ」


 そこに丁度良く武士と士騎が戻って来て、そのまま何事も無かったかのように皆で朝食となったのだった。




カランのターン!!!

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