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第54話 『緊迫! 地獄の交流会!』




 宿舎の入り口が騒がしい。

 舞翔はその様子を離れた廊下からこっそり伺っていた。

 子供達に囲まれたベルガは、いかにも人好きそうな笑顔で応対している。

 その後ろに。


(やっぱり、そりゃ居るわよね)


 ソゾンとペトラはいかにもスかした様子で立っていた。


(だけどこんなの本編には無かった、やっぱり物語が変わってしまってるんだ)


 舞翔はもう一度チラリとソゾンを覗き見る。

 顔色一つ変える事無く毅然としている立ち姿が、入り口からの自然光に照らされ、実にえている。


(うぐっ、文句なしにかっこいい)


 舞翔はときめく胸を戒めるように思わず唇を噛み締めた。

 見た目ではなく、ドローンバトラーとしてファンなのだと、母に豪語していた頃が懐かしい。

 今ではすっかり姿を見るだけで動悸がするようになってしまった。


 だがしかし、決して本人に悟られる訳にはいかない。


 ただでさえ疎まれ嫌われているというのに、バレた時の反応を思い浮かべるだけで心が死んでしまう。


(まさに吸血鬼並みの冷たい反応がありありと浮かぶ!)


 舞翔はそこまで考えて、確認も終えたしさっさと戻ろうと振り返った。

 直後、何かに顔から思い切りぶつかった衝撃が走る。


「な、なに?」

「!」


 驚いて見上げれば、それはキリルだった。


 キリルはこれでもかと目を見開いて舞翔を見ていたが、直後、見事みごとな逃げ足で去って行ってしまう。


 残された舞翔は思わずぽつんと立ち竦んでしまった、が。


「部屋はこちらです、どうぞ」


 背後から聞こえて来たその声に肩を跳ね上げると、舞翔は自分も急いで自室へと逃げ帰った。


 こんなところで彼等に鉢合わせる訳にはいかない。


 なるべくヨーロッパチームの視界に入らないようにひっそりと過ごさなければ。

 そう固く誓った舞翔だったのだが、それは無駄な努力だったとすぐに思い知ることとなる。




※・※・※・※




 ヨーロッパチーム来訪という突然のトラブルもあったが、歓迎会は予定通り夕食時に食堂で開かれる事となった。


 四人一席のテーブルがずらりと並んだ大食堂。


 今回は立食ではなく、決められた席に着いての夕飯兼交流会となる。

 そこで案内された席を見た途端、舞翔は脱兎のごとく逃げ出そうとした。


「こら、舞翔くん!」

「あ、急に体調がぁぁ、お部屋に戻っていいですか?」

「さっきまでロシア料理楽しみだなぁと浮かれていたのはどこの誰だい?」


 士騎に首根っこを掴まれじとりと睨まれれば、それ以上文句も言えず舞翔は黙り込む。


 そうこうしている間に既に殆どの人が着席し終えてしまっていた。


 そして舞翔の席にもしっかり三人、舞翔以外が席に着いている。


 カランにキリル、そして――ソゾンの、三人が。


「たたたた武士席交換してお願い!」

「ん? なんでだ?」


 思わず傍に居た武士に縋り付く舞翔だったが、即座に立ち上がってやって来たカランによって、無情にも引き剥がされた。


「舞翔、さぁ一緒に食事しよう」

「あぁぁぁカラン手を引かないでお願いだからぁっ」


 カランは同席なのが嬉しいのか、ご機嫌な様子で舞翔をエスコートしようとする。


 それにも往生際悪く抵抗していた舞翔だったが、最終的に士騎の全く笑っていない笑顔に脅されて、大人しく席に着く事となった。


「し、失礼します」


 しかし誰からも返事は無く、舞翔は心をバキバキに折られながら椅子に座った。


 気持ち的には吐血している。


 それからちらりと目の前に座る二人の様子を伺った。


 キリルは食事だというのに相変わらずマスクも帽子も身に着けたまま、気まずそうに俯いている。


 対してソゾンは憮然とした様子で堂々と座っている。何なら少し煽り気味にも見える。


 まさに二人は対照的だった。


 舞翔とカランが隣り合って席に着いたところで、全員揃ったのを確認したセンター長の音頭で、交流会は始まった。


 テーブルには既にたくさんのロシア料理が並んでいる。


 周囲の席からは早速歓談の声が漏れ聞こえ、非常に華やいだ雰囲気である。


 だがしかし、舞翔の席だけは違った。


 ここは地獄の一丁目か、と思わず愚痴りたくなるほど気まずい空気が鎮座している。


「舞翔、これ美味しいぞ」

「う、うん」

「水が無くなっているな、もらおうか?」

「あ、うん」

「舞翔は肉と魚だとどっちが好きだ?」

「えぇ、うん」


 空気を読まずカランが舞翔に話しかける声が逆に緊張感を高めていくのは何故なのか。


 キリルもソゾンも終始驚くほど無言で淡々と食事を口に運んでいる。


 その沈黙が余りにも痛い、たまれない。


 きっと美味しいであろうロシア料理も全く味がしない。

 段々と食べ物が喉を通らなくなってきて、舞翔がこうなったらさっさと食べ終えて部屋に戻ってしまおうと覚悟を決めた直後。


「ソゾン殿は舞翔のことをどう思っているんだ?」


 さわやかな笑顔で、カランがぶっこんだ。


「なっ」

(何を聞いてるのよ、カランはーーーーーーっ!)


 絶望だった。

 舞翔は声にならない悲鳴を上げて思わずカランを風を切る音が聞こえる勢いで振り返る。

 カランは笑顔を貼り付けていた。

 しかし口角は挑発的に上げられ、瞳は明らかに冷ややかにソゾンを睨んでいる。

 今までで一番の緊張感が舞翔を襲った。

 張り詰めた糸が今にも切れそうである。

 いっそ切れてくれとすら舞翔は思った。

 沈黙が流れる。

 けれどもここまで淡々と食事を口に運んで来たはずのソゾンが、カチャリと音を立ててカトラリーを置いたのだ。

 その音で、舞翔の肩が跳ね上がる。


「どう、とは?」


 息の根が止まるのではないかと錯覚するほど冷たい声色だった。

 同時にソゾンのただでさえ吊り上がって鋭い瞳が更に細められ、鋭利な刃物のごとくカランを睨み付ける。

 隣に居た舞翔の方がそのプレッシャーにばくばくと心臓が暴れ出すほどの威圧感。

 対してカランは余裕そうにソゾンを睨み返すと、再び口を開いた。


「君は舞翔によく会いに来ているようなのでな、どういうつもりなのか、と聞いた」

「そいつが俺の行き先に勝手にいるだけだ」

「おや、随分な言い方だな。言い訳は格好悪いと思うが?」


 ひりついた空気が舞翔の肌まで伝わってくるようである。

 しかもその話題が自分なのだから舞翔は心底居た堪れない。

 今すぐに逃げ出したい、さもなければ早く終わってくれ、と最早祈るような気持ちで舞翔は天を仰いだ。

 直後、ソゾンが小さな溜息と共にハンと小馬鹿にしたような表情を浮かべた。


「少しは黙って食事が出来ないのか? 自分で塞げないのならその無駄口、縫い付けてもらったらどうだ?」


 舞翔には聞こえた。

 隣からブチっと何かが切れる音が。

 恐る恐る視線を向ければ、カランが笑顔で額に青筋をいくつも浮き出させているでは無いか。

 これは、キている。

 舞翔は泣きそうになるのを必死でこらえ、助けを求めるように士騎の方を見た。


(駄目だ、全然気づいてない!)


 士騎は楽しそうに子供たちと歓談していた。とても正しい食事の楽しみ方である。

 そうこうしている内に、カランは僅かに身を乗り出すとソゾンを強くねめつけた。


「お前が何度も舞翔に因縁をつけてきていることは分かっているんだ、悪いが今後は舞翔にちょっかいをだすのはやめてもらおうか」


 言い放たれた言葉に、悲鳴を上げそうになったのはもちろん舞翔である。

 許されるなら「誤解です!」と叫びたい。

 その人は自分のことをむしろ嫌っているのでその忠告はかなり明後日の方向を向いています、と口を挟みたい。

 しかし、怖くて出来る筈も無い。

 段々と諦めの境地に達して来た舞翔は、見る影も無いほど情けない萎れた表情で肩をがっくりと落とした。

 その、直後。


「お前こそ、先程から舞翔が困り果てているのに気付きもせずに喋り続けているが、いいのか?」

「!?」


 それだけさらりと言ってのけると、ソゾンは再び食事を口に運び始めた。

 決して視線は舞翔に向けていなかったし、今も淡々と手元ばかりをソゾンは見ている。

 会話から逃れるための方便だったかもしれない。

 それでも舞翔は、その言葉と、彼から再び紡がれた自分の名に、それだけで、胸がカっと熱くなり、堪らなくなる。

 苦しい、苦しい、苦しい。

 締め付けられる心臓に、思わず眉間に皴が寄った。


「っすまない、舞翔」


 舞翔のその表情に酷く動揺したカランは、いっきに顔面を蒼白させると勢いよく舞翔に頭を下げた。


「あ、えと! 大丈夫だよ、カラン」


 舞翔は慌てて無理矢理笑顔を作り返事をしたが、それがカランには逆効果だったようだ。


「俺は少し頭を冷やしてくるよ。お先に失礼する」


 明らかに落ち込んだ様子でそう言うと、カランは逃げるように席を立って行ってしまったのだ。


「あ!」


 追いかけようにも、自分の食事はまだまだ残っている。

 舞翔は仕方なく、さっさと食べて自分も戻ろうと気を取り直して料理を口に運んだ。

 沈黙が続く。

 ただ黙々と、咀嚼する。


(はい、気まずい!)

「あの、舞翔さん」


 心の中で思わず叫んだのとほぼ同時。

 舞翔は急にか細い声で話しかけられ、これでもかというくらいに目を見開いた。

 声の主は、キリルである。

 未だにマスクで顔を隠しており、いったいどうやって食事していたのだろうと一瞬疑問に思うがとにかく舞翔は「は、はい」と簡潔に返事をした。


「実はあなたのファンだという小さな子がいるんです、女の子なのですが……彼女は目の病気で手術を控えていて」

「え?」


 本当に唐突だった。

 しかし口下手な彼がこんなにもスラスラと話しをしたことの方が舞翔には驚きである。


「この後、その子に会いに来てくれませんか? 少しでいいんです。彼女は今とても怯えていて、手術を受ける勇気を与える為にも、どうか」


 キリルはそこまでをほぼ一息で言い切ると、舞翔に向かって深々と頭を下げた。

 舞翔はそれに慌てて「顔を上げて!」と促してから、「もちろんいいですよ」と二つ返事で微笑みかける。


「! ありがとう、ございます」


 その瞬間、ガタリと音を立ててソゾンが立ち上がった。

 キリルはそれに驚いたように表情を固くする。

 舞翔もまた驚いて思わず視線を向けたが、とくに視線が合う事も無くソゾンは歩き出す。

 そしてちょうど、舞翔のすぐ傍を横切る瞬間。


「お人好しめ」

「!?」


 ぼそりと。

 舞翔にしか聞こえないであろう小声でソゾンは囁くと、そのまま食堂を出て行ってしまった。


(な、何今の)


 特に変わった様子は無かったと思う。

 けれども何故だか舞翔には、ソゾンが怒っているように感じられたのだ。

 怒りの理由までは分からなかったが、どうにもそれが尾を引いて気持ち悪い。


(まぁでも、とりあえず今はキリルだよね)


 そう思い直しキリルの方へ視線を向ければ、一瞬驚いたように肩を跳ねさせてキリルは舞翔をじっと見つめ返した。

 こんなに臆病で引っ込み思案の彼が、舞翔にお願いごとをしたのだ。

 それがこのセンターの女の子のため、というのが何とも意地らしいではないか。


(手術、か。もし私なんかで勇気を与えられるなら、お安い御用だよね)


 前世のことを、舞翔は思い出す。

 決勝で闘ったあの少年のように、自分も誰かのためになれるなら、なんだってしたい気持ちだった。だからキリルの申し出に対する答えは考えるまでも無い。


「児童養護センターは規則が厳しいんです。女の子は今誰も面会してはいけない状態なので、消灯後にこっそり迎えにいきます」

「うん、待ってるね」


 そうして舞翔はキリルと約束をしてしまったのだ。

 何一つ、疑う事もせずに――


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