第51話 『遭遇! ロシアチーム』
完全に落ち着いた頃、アレクセイはか細い声で謝る舞翔に、優しくにっこりと微笑んでみせた。
「こういうのは慣れているんです。だけど、貴方は山がとても苦手ですね?」
ずばり、率直に述べたアレクセイの言葉に、舞翔は情けなく眉を下げると、観念したようにコクリと頷いた。
舞翔を囲むように立っていた武士と士騎、そしてカランも、そんな舞翔にとても驚いた様子で視線を交わし合う。
「何かトラウマでもあるのですか?」
アレクセイの言葉に、舞翔はすぐには答えられなかった。
それもその筈。
舞翔には確かにトラウマがある。
だがしかし、それは“前世”でのことなのだ。
(まさか前世が山で死んだから、何て言えないよ)
舞翔自身、まさかこんなにも山に来ただけで、パニックに陥るとは思っていなかった。
何せ山なんて滅多に来ることが無いし、事実今まで学校の遠足くらいでしか来たことが無い。
その時も、まだ前世の記憶を取り戻す前だったからか、何だか好きじゃないな、落ち着かないなとそわそわする程度だった。
だがしかし、今はどうだ。
勝手に手が、体が震え出す。
嫌な思い出がフラッシュバックしそうで、恐ろしさにずっと落ち着いていられない。
少しのことで、もう生きては戻れないのではないかと、途方もない不安が襲い掛かるのだ。
そこに理論も理性も通じない。
ただただ胸の、記憶の奥深くから恐怖だけが押し寄せて来る感覚。
「ごめんなさい、私っ」
結局何も話せずにただ謝ると、舞翔はしゃがみ込んだまま、身を守るように膝を抱え込んだ。
カランの手が背中をさすっているのが分かる。
「言いたくないなら大丈夫ですよ。それじゃあこうしましょう」
アレクセイの声はあくまで淡々と、人を落ち着かせるような穏やかなものだった。
「僕があなたを背におぶって行きますから、目を閉じていてください」
「!」
「待て、舞翔をおぶるなら俺が」
アレクセイの提案に舞翔は戸惑う。
その横からカランが焦ったように割って入った。
「慣れない山道をおぶって進むのは危険ですよ。ここは僕に任せてください」
「っ、しかし」
「カラン、ここはアレクセイくんの好意に甘えよう。舞翔くんも、それでいいね?」
納得いかなそうに表情を歪めるカランだったが、士騎の言葉に渋々と言った風に頷いた。
舞翔もそれに、いつもよりやけに素直に頷く。
本当に余裕が無いようである。
「さあ、そうと決まったら早く行きましょう」
※・※・※・※
車道から外れた山道は、思ったよりもなだらかだった。
曰く、車を使えない子供たちはこちらの道を使って街に出る事が殆どで、だから自然と踏み慣らされて歩きやすくなったのだろうということらしい。
「舞翔さん、さあこれをどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
何はともあれ無事、日暮れ前に児童養護センターに到着した一行は、応接室に通された。
そこでソファに座らされ、お茶まで出してもらい、ほっとひと息吐く。
「あの、本当にすみませんでした」
「いいえ、少しは落ち着いて来ましたか?」
「はい、お陰様でもう全然!」
舞翔は言いながら、少しだけ無理に笑ってみせる。
事実、山を抜け児童養護センターに着いたことで、体の震えは止まっていた。
「部屋を案内しますから、今日はもう休んでください。明日はみなさんの歓迎会を開きますから」
「本当に何から何まですみません」
「いいえ、僕もここにお世話になっている身ですが、運営側としても働いていますので」
そこから、アレクセイと士騎が事務的な話を始めた為、舞翔たちは先に部屋へと案内してもらうこととなった。
職員に連れられ長い廊下を進んで行く。
建物内には図書館やいくつもの教室があるようで、歩きながら簡単に紹介を受けた。
立派な施設に呆けていると、案内人はなんと建物の外へ出た。
「今居たのは校舎で、皆さんが泊まるのは別棟です」
結論から言えば、児童養護センターと言われるここは、広大な敷地に形成された、ひとつの巨大なコミュニティであるようだった。
職員が住むという一軒家もあれば、博物館のように様々な寄贈品が展示されている建物もある。
一際大きいのは校舎で、入り口に聳える大きな木が目印だ。
更に進むと開けた土地に出る。どうやら畑や牧場もあるようだ。
そこを抜けた先に、校舎に負けず劣らず立派な建物と教会が見えて来る。
「す、すごい」
山の中とは思えない。
まるで別世界だ、と感動続きだったからか、舞翔を蝕んでいた恐怖も、いつの間にかすっかりどこかへ行ってしまった。
そんな、舞翔の少しだけ昂揚し赤くなった頬を見て、隣を歩いていたカランも安心したように微笑む。
「あ、おい見ろよ! バトルフィールドだ!」
突然、武士がそう言って走り出したので、カランと舞翔も慌てて後を追った。
別棟へと続く道の途中、いくつかの遊具の真ん中に、いかにも手作りと言った風に、ネットを木に掛けて造られたバロルフィールドがあった。
「すっげぇ! くぅ~! みんなやってるなぁ!」
小さい子から大きな子まで、たくさんの子供達がそこに集まってバトルドローンで盛り上がっている。
そして、その輪の中心に。
(あれは!)
目深に被った、バンダナのように後ろで結ぶ形の、白い毛皮の帽子。
顔半分を覆い隠すほど、大きめのマスク。
腰ほどまで長く伸びた銀色の後ろ髪は、まるで野生動物のようにボサボサとして、左右につんつんと跳ねている。
顔周りの毛は肩程で切られているが、後ろ髪と同様に、左右につんつんと跳ねていて、どこか動物の耳のようだ。
帽子に潰された前髪は鼻までとどき、その間から綺麗なローズレッドの瞳が覗く。少しだけ伏し目がちだからか、長い銀色の睫毛がかかった瞳は物憂げだ。
(キリル!)
殆ど隠れているうえに全く手入れがされていない外見、しかしポテンシャルの美しさがそれを凌駕してくるタイプの美少年、二つ名は誰が呼んだか『氷の妖精』!
もう一人のロシア代表、キリル・ポポフがそこに居た。
美少年が好きです(キリッ)




