表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/145

第39話 『決着! 荒野の奇跡』





 舞翔が叫び、ゲイラードは風に乗って天高く舞い上がった。


「待てよクソカスがぁあ!」


 その後をウィルザイルが猛追もうついする。


「マリオン、落ち着け!」

「これが落ち着いていられるかよぉ!」


 マリオンはジェシーがやられたことで、怒りに我を失っているようである。


 額には血管が浮き上がり、瞳孔が開き切ったまま、瞬きすら忘れている。


 ジェシーは片割れの激情に思わず舌打ちをした。

 こうなってしまっては、もう誰もマリオンを止められない。


「お前はいつもそうだ」


 ジェシーはどこか悲し気に目を伏せると、砕けたウェスローグを見つめた。


 その哀れでみすぼらしい姿にかつての自分を重ねる。


 臆病で、貧弱で、お荷物だった子供の頃のジェシーは、いつだってマリオンの背に隠れていた。

 そんなジェシーをマリオンは、一度たりとも見捨てたことは無い。


 それどころか今この瞬間と同様に、守られていた。


 その度にボロボロになるのはマリオンで、ジェシーはいつも泣きじゃくってばかりいた。


「だが、もうお前を独りにはしない」


 だからジェシーは必死で強くなった。


 小狡いこともした、人を騙し傷付け利用して、それでもマリオンを守れればそれで良かった。


 臆病で貧弱な自分だからこそ、考えて考え抜いて。


「マリオン! 先にスプリングスを叩け!」


 ジェシーはマリオンのすぐ横に並び立ち、えた。


 その指示と同時に、ウィルザイルは反転し、スプリングスへと襲い掛かる。


「“二番手が実は黒幕って、知ってるかい?”」


 ジェシーが囁いた、次の瞬間。


「なっ!? スプリングス!!」


 手負いのスプリングスは、脳天からの一撃で呆気なく翼が折れ、墜落した。


「次は!? ジェシー!」

「ゲイラードは接近戦に強い機体だ! 近寄らずに岩片で弱らせるんだ!」


 ジェシーの指示は的確と言わざるを得なかった。


 そしてマリオンは、先程までの獰猛どうもうさが嘘のように、ジェシーの指示通りに動いている。


 ゲイラードの飛ぶ方へ、岩片や石つぶてが容赦なく襲い掛かる。

 まるで弾丸を乱れ撃ちされているような攻撃に、さすがの舞翔も避け切れず、少しずつダメージが蓄積ちくせきしていく。


(さすが、強いっ! どんなことをしてでも絶対に勝つ、どんなに卑怯でも彼らの勝利への意志だけは本物だ)


 舞翔は両手の拳を握り締めた。


 それでも絶対に、勝たなければならない。

 勝って証明しなければならない。


(私はバトルを愚弄ぐろうしたかった訳じゃない)

「ゲイラード!」


 岩壁がんぺきを這い上がり、ゲイラードがスタジアムの照明を背負う。


 逆光でその姿は真っ黒く染まり、天井ぎりぎりまで上昇したゲイラードには、岩片も石つぶても届かない。


 その時、舞翔の世界から音が消えた。


 まるで全神経がゲイラードと重なったように、ゲイラードが感じている風を、舞翔も感じる。


 全てがスローモーションのように見えた。


 砂埃のどこに何があるのか、この瞬間、この時、ゲイラードの周囲の世界全てが舞翔には見えていた。

 それはソゾンとのバトルで味わった感覚と全く同じだ。


 ゾーンに入ったような全能感ぜんのうかん


 その視界の中、無数にいる観客の中に、良く知ったラズベリーレッドの色が目に入る。


 ソゾンだ。


 ソゾンは微かに目を見開き、驚いたように舞翔を見ている。

 その姿が舞翔にはハッキリと見えた。


(ソゾンが、観てる)


 そうだ、だから。


(絶対、勝つんだ)


――貴様の努力は、無かったことにはならない。


「研ぎ澄ませ、ゲイラード!」


 見える。

 ウィルザイルまでの太刀筋たちすじが、光の筋となって舞翔を導いている。


 それはゲイラードVの必殺技だ。


 今の舞翔にならば、それが放てる。


「“華麗にぶっつぶしてやるよ!” ウィルザイルーーーーーーッッ!」


 垂直直下すいちょくちょっかにゲイラードが走る。


 それを迎え撃つようにウィルザイルが回転する。


 白刃の如き一閃を、獰猛な回転刃が迎え撃つ。


 激しい衝突音がスタジアムに響き渡った刹那、舞翔の意識はふっと暗転したように突然に、途切れた。


「舞翔!?」


 まるで地面に吸い込まれるように倒れ込んだ舞翔を、カランが咄嗟に両手を出し支える。


 スタジアムは静まり返り、静寂の中を士騎と武士が血相を変えてベンチから飛び出した。


 観客席ではベルガが立ち上がり、その口角を怪しく持ち上げる。


「やはり、あの少女は」


 誰にも聞こえない微かな呟き。

 展望台アウトルックタラップでは、駆け付けた士騎が意識を失った舞翔を険しい表情で抱き起こす。


「舞翔くん、しっかりするんだ、舞翔くん!」


 誰もが何が起こったのかと混乱していた。


 けれどもその横で、マリオンが人知れずガクリと地に膝を付ける。


 ジェシーは思わず乾いた笑みを浮かべていた。


「あの状況で、嘘だろう?」


 ウィルザイルは撃墜された。


 ゲイラードに、受信機だけを外されて。


 あの激しい一瞬の衝突で、舞翔は機体を破壊するのではなく、受信機のみを弾いてみせた。


「しょ、勝者、BDFーーーー! 舞翔選手の神業だぁああああ!」


 我に返ったDJの雄叫びで、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。

 その声に反応したのか、舞翔の瞼がぴくりと痙攣し、やがて開く。


「舞翔くんっ!!」

「監督……私、勝ちましたか?」

「っ君って子は! あぁ、勝った、勝ったとも」


 士騎は苦し気に目を細め、眉間にはこれでもかと皺が寄っていた。

 その表情からはどこか後悔や悔恨かいこんが感じられ、舞翔は朧げな意識の中でことりと首を傾げる。


「良かった、ゲイラードVのお陰です」


 舞翔は微笑む。

 何故だか意識がふわふわと浮わついて、体に力が入らない。


 士騎はそんな舞翔を横抱きに抱え上げると、展望台アウトルックタラップを降り速足で歩き出した。


 スタジアムからは興奮と困惑が混ざり合ったざわめきが聞こえて来る。

 しかしその場はDJに任せ、BDFは早々にスタジアムを後にした。


 控室へと戻る通路の途中。


「やあ、こんにちは」

「!」


 士騎から息を呑む音が聞こえる。

 ぼんやりとした意識で舞翔が見つめた先には、三つの人影があった。

 ベルガに、ペトラ。そして、ソゾンだ。


「試合、観させてもらいましたよ」

「それはどうも、急ぎますのでこれで」


 ベルガの芝居がかった猫なで声に、士騎は不快感を隠しもせずに冷たく言い放つと、ベルガの横を足早に通り過ぎる。


「空宮舞翔さん、その男をあまり信用しない方がいい!」


 しかし背を向けた士騎などお構いなしに、ベルガは高らかに告げたのだ。


「君もこくなことをする、研究者としての血がそうさせるのかな?」

戯言ざれごとだ、聞かなくていい。行こう」


 冷たくて、低い声。

 士騎の表情は強張っていた。


「まぁ、今はいい。何か困ったことがあればいつでも私を訪ねてください、舞翔さん。力になりますよ」


 ベルガはそれだけ言い残すと、ソゾンとペトラを連れて去って行った。


「監督?」


 立ち止まり、動かない士騎に舞翔が問いかける。

 すると舞翔を抱いていた手に力が入り、士騎は少しだけ苦しそうに目元を寄せる。


「何でもないんだ」


 士騎は見るからに無理矢理、微笑んでいた。

 それが余りにも痛々しく思え、舞翔はそれ以上何も聞けずに押し黙る。


(私が二度も倒れたから、嫌味を言われた? ベルガって思ったより士騎に粘着しているのかな)


 けれどもそれなら、どうして士騎は苦しそうな顔をしているのだろう。

 カランと武士も不思議そうに顔を見合わせており、何か知っている風でも無い。


(確かに今回は、ゲイラードVで出るよりも棄権した方が良かったのかも)


 ゲイラードの慣れない操作で思った以上に神経を擦り減らし、その結果が今の状況である。


 バトルの度に倒れるなんて、さすがに舞翔自身も思ってもみなかった事態だ。


 しかしどうにも気が抜けてしまって、抗えない眠気が舞翔を襲う。


(まぁいいか、もう。勝ったんだもの、今は寝たい)


 そうして舞翔は意識を手放した。


 自分の腕の中で眠りに就いた少女を、士騎は依然いぜんとして深刻な表情で見つめる。

 けれども一度ゆっくりと目を閉じ、開いた時にはもう、士騎はいつも通りの監督の顔をしていた。


「みんな、ホテルへ戻るぞ!」








決着と因縁、なお話です。

さあ、次はどうなる!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ