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第30話 『真夜中のノック! 渦巻く思惑』




 舞翔とカランは練習場にて最終調整を終えたところだった。


 明日はいよいよアメリカとのバトルだ。

 出来る事は全てやった、あとは本番で全力を尽くすのみ。


「楽しみだなぁ、アメリカとのバトル!」

「武士は本当に大物だな、少し羨ましいぞ」

「かなり羨ましいよぉ、私は緊張で吐きそう」

「なに!? 医務室へ!」


 大袈裟に反応したカランが舞翔を抱き上げようとした為、舞翔は慌ててその場を逃げ出す。


「冗談だってば! て、ぶふっっ」

「お?」


 逃げ出した直後、誰かに思い切りぶつかった舞翔は反射的にその相手を見上げる。


「フリオ!」

「小さい鼻がもっと小さくなったら大変さ」


 言いながらフリオが舞翔の鼻を摘まんだ。

 それを見たカランが瞬時に舞翔を抱き寄せ、フリオを睨み付ける。


「番犬がレベルアップしてるさな?」

「それって本人の許可は得てるの? 逆に嫌がられてるんじゃない?」


 フリオの横からひょっこり顔を出したのはエンリケである。


 前髪で目は隠れているものの、冷たい声色から不機嫌であることが伺える。


 舞翔はカランから無理矢理離れると、改めてフリオとエンリケの前に立ち微笑みかけた。


「ごめんごめん、何か用だった?」


 フリオは満足そうに笑い、エンリケは少し照れたように顔を背ける。


「BDFの次の相手がアメリカさね? ちょーっと忠告に来たさ」

「忠告だと?」


 いつの間にか舞翔の隣に来ていたカランが顔を顰めた。

 何の事だと謂わんばかりに不満そうな顔をしている。


 今にも追い返しそうなカランを宥めながら、既に何の事だか知っている舞翔は「それで?」と話を促した。


「アメリカチーム、今でこそセレブみたいに振舞ってるが元々はギャング上がりさね」

「あいつらはどんな汚いことでも勝つためなら何だってやる、そうやってのし上がって来たかなりの危険人物だよ」


 フリオとエンリケはあくまで声を落として舞翔とカランの耳元でこそりと囁いた。


 危険人物、二人がそう言うのも仕方がない。

 アメリカチームのマリオン・キングとジェシー・キング。


 見た目がそっくりで左右差のバランスで見分けをつける双子のチームである。


 マリオンは長い前髪で左目だけ隠していて、右耳にピアスを付けている。吊り目の三白眼に中性的な見た目に反して、眉毛の先が二つに割れていてそこだけ男らしいのが特徴的だ。


 ジェシーは長い前髪で右目を隠し左耳にピアスを付けている、マリオンとは左右が反転した形である。目と眉毛は全く同じと言って良いほど似ており、両者とも鮮やかな金髪碧眼。二人並べば見た目は非常に華やかである。


 だがこの二人、性格が全く違う。マリオンは「荒野の流浪者」の二つ名の通り、実に無法者の自由人。明朗快活に悪事を働く厄介なタイプである。


 対してジェシーは「荒野の悪党」の二つ名を持っているが、どちらかというと冷静沈着で表向きは善人を装っている策士タイプだ。


 と、ここまでは舞翔が持っている前世の記憶による情報である。


(アニメで彼等はゲイラードを破壊する完全なる悪役。二つ名もその為の分かりやすいネーミングになってる)


 彼らの行動は百も承知だった舞翔は、シアトルに到着してから片時もエレキストから離れないよう細心の注意を払ってきた。


 物語の遵守を考えれば、破壊させるべきと思われるかもしれない。


 しかし主人公が武士から舞翔にげ変わった瞬間から、それは不可能となったのだ。


 このアメリカ戦、BDFは絶対に勝利しなければならない。


 だからこそ勝つためにも、舞翔はエレキストを破壊される訳にはいかなかった。

 舞翔にとって愛機はエレキストたったひとつである。


 破壊されてしまったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 つまり、壊されてしまったらアメリカとのバトルは棄権する他なくなってしまう。


(絶対、壊される訳にはいかないわ)


 さらに舞翔にはもうひとつだけ、アメリカ戦の懸念があった。


「俺達は既にあいつらとはバトルしたけど、プレイヤーにまで危害を加えて来るプレイスタイルだったさ」

「砂つぶてとか嫌がらせみたいな攻撃だよ」

「特に舞翔は気を付けるさな。あいつらは相手が女だからって手加減するような奴等じゃないさ」


 そう、ドローンにではなく選手への直接的な攻撃。


 アニメで見ている分には熱い演出に興奮するだけだったが、実際に自分が選手として直面した時、これほど嫌な妨害も無い。


「とにかく気を付けて」


 フリオとエンリケはそこで監督に呼ばれ、急ぎ足で練習場を去って行った。

 

「大丈夫だ舞翔、今度こそ俺が絶対に君を守る」

「ありがとうカラン。でも実際、心配だよ。妨害されながらの操縦なんて練習したこともないし」

「まぁ、それはそうだな」


 舞翔の言葉にカランも押し黙ってしまった。

 その暗い空気を取り払うように、士騎が大きく手を叩いた。


「さぁ! 今日はもう練習はおしまい、ホテルに戻って明日に備えよう!」




※・※・※・※




 ホテルに戻り夕食も終え、あとは寝る準備だけとなった夜。

 舞翔は窓際のテーブルでエレキストの最終調整を行っていた。


(何とか無事今日まで壊されなかった! あとは明日もバトルまで肌身離さずトイレにも持って行って守れば)


――コンコン。


「?」


――コンコン。


「え、あ。はーい?」


 それはホテルの扉をノックする音だった。


 舞翔は深くも考えず、士騎かカラン、武士だろうと警戒心無く扉へと向かう。


 まさかBDFのメンバー以外だとは夢にも思わなかった。


 だからのぞき穴も確認せずに、舞翔は扉を開けたのである。


「!?」


 扉の向こう、無言で立っていたのはソゾンだった。


 その事に声も出ない程に驚いて、舞翔は咄嗟に扉を閉めようとした。


 しかしソゾンの足が閉まる扉を乱暴に押さえたかと思うと、次にソゾンの手が舞翔とは比較にならない力で扉をこじ開けた。


「なっなに」


 扉は全開である。


 しかし舞翔は叫びそうになるのを本能的に自ら口を抑えることで阻止してしまった。


 相手はソゾンだ、犯罪者という訳では無い。


 ただちょっと人相が悪いのと今は気まずいというだけで叫んで騒ぎを起こすのはよろしくない、そういう意識が働いてしまった。


 舞翔の中にある前世での大人の記憶もその気持ちに拍車をかけたのだろう。


 だがそれは悪手だったと、舞翔は後に死ぬほど後悔することになる。


「着いて来い」


 感情の読み取れない無表情でそれだけ言うとソゾンは歩き出した。


 相変わらず有無も言わさず強引だが、決して無理矢理連れて行く訳ではない後ろ姿に舞翔は慌てて「ちょっと待って!」と追いかけてしまった。


 ルームキーを引っ掴み、後ろ手に扉を締めて、振り返り確認もせずにソゾンを追いかける。


 それがいけなかった。


 それが、油断だったのだ。


 影が閉まりかけた扉の間にするりと滑り込んだことに、舞翔は気付くことが出来なかったのだから。







突然の推しの訪問に冷静でいられる人間はいない!!はず!!笑

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