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第27話 『大ピンチ! ソゾンの怒り』



(なんで、どうして!?)


 今ソゾンはわざと負けたことを断定した言い方をしていた。


 わざと負けたのではないかと問われたのではない。

 何故わざと負けたのかと問うている。


 その事に急速に指先が冷えていき、舞翔のようやく収まっていた鼓動が再び早鐘を突き始めた。


 喉が渇く、言葉が出てこない。


 ただ動揺に目を見開き、ソゾンを見返していた。


(これじゃあ、わざと負けたことを認めてるのと一緒じゃない)


 だがもう手遅れだ、ソゾンのシアン色の瞳は全てを見透かすように舞翔を見つめている。

 下手な誤魔化しも嘘も通用しない、その鋭い目線が明確にそう言っているように感じた。


「ど、うして、それを」


 苦し紛れに舞翔の口から出たのは、そんな情けの無い言葉だった。


「試合後に、お前が自分で呟いていただろう」


 舞翔の瞳孔が収縮する。


 あの日、非常階段に居たのはソゾンだったのだ。

 雷に打たれたような衝撃と激しい後悔が舞翔に押し寄せる。


 知られたくなかった。


 この人にだけは、絶対に、誰よりも、知られたくなかった。

 胸に沸き上がってくる思いに舞翔は自分自身が困惑する。


「ち、がう。わざと負けたんだって、思い込んで、自分を慰めてただけだよ」


 空々しくうそぶいた言葉はざらりと嫌な味がした。 


 目線を下げる。ソゾンの方を見る事が急にできなくなる。

 一歩後ろに下がろうにも、倉庫の壁がそれをさせてくれなかった。


「そんな嘘がこの俺に通じると思っているのか?」


 言葉に怒りがはらんだのが分かった。


 だからますます逃げるように、舞翔はソゾンから苦し紛れに態勢ごと目を逸らす。


 震えそうになる手をえるように、右手で左の二の腕を強く掴んだ。


「貴様の目的は何だ?」


 ダンッと、鈍い音に舞翔の肩がびくりと跳ね上がる。


 ソゾンの足が舞翔のすぐ横の倉庫の壁を踏みつけた音だった。


 舞翔が逃げようとしたとでも思われたのだろうか。

 俯いた視界の中で、更に間近になったソゾンの身体が見える。


(駄目だ、逃げられないし誤魔化せない)


 舞翔はごくりと息を呑み込んだ。


 意を決して顔を上げたそこに、逆光で表情が隠れたソゾンの、獲物を狙う様なぎらついた瞳が浮かんでいる。


「っ、あ、あのネジ、ソゾンが持ってたんだね」

「黙れ、答えろ」


 ソゾンの眼光が舞翔を射るように捉えたのが分かった。


 思わず怯みそうになる。


 けれども舞翔は自分を奮い立たせるように拳を握り締めると、眉間に力を入れ、大きく息を吸った。


 言い訳は出来ない、話を逸らすことも許してもらえない。


 ならばもう、突き放すしかない。


「貴方には関係ないでしょう?」


 覚悟を決めて言い放ったものの、胸が締め付けられるように苦しくなる。

 かと言って、真実を話して何になる?


(物語通りに進めるためだなんて、言っても信じてくれるわけ無い)


 不意に横に伸びていたソゾンの足が降ろされた。


 その事にほっとしたのも束の間、次の瞬間舞翔の頬を何かが掠る。


 バンと鈍い音が耳元で響き、ソゾンが今度は壁に手を付いたのだと分かったのは、ソゾンの顔が鼻先まで近付いた時だった。


「貴様はバトルを愚弄ぐろうしている」 

「!!」


 全身が粟立つような冷淡な声。


 喰い入るように見つめられ、舞翔は視線を外すことも出来ない。


 間近に迫った彼の瞳の奥に、燃え滾る業火ごうかのような感情が揺らめいている。


 それは恐らく、怒り。


 その怒りの炎は、やがて彼女の胸をもじりじりと焦がし始めた。

 適当に流せば良かったのに、そうすべきはずなのに。


 忘れていた後悔が、忘れていたかった少年のあの瞳が、過去から舞翔を責め始める。


――どうして、お姉さん。

 

(やめてっ、やめてやめてやめて!)


 仕方が無かった、ああするほかなかった。あれが一番良かったのだ。


 けれど。


 “バトルを愚弄ぐろうしている”。


 ソゾンが放ったその言葉が、鋭い牙となって舞翔の心を突き刺し、喰い込んでいく。


 胸が苦しい、胸が熱い、胸が痛い!


「まともにバトルも出来ないのなら今すぐに日本へ帰れ」

「っ、だって、……る、……しょ」


 舞翔の口から気付けば何かが零れていた。

 微かにしか聞こえなかったその声にソゾンが顔を顰めた直後。

 

「負けた方が、良い時だってあるでしょう!?」


 舞翔はえるように叫んだ。


 その瞳にソゾンは息を呑む。


 まるで遠くを見ているように、自分を見つめているはずの瞳と視線が合わない。


「私が勝っても、誰も幸せにならないっ、誰も望んでない! だって私は主人公じゃなかった、だったらいさぎよく負けるのが私の役割でしょう!?」


 舞翔の瞳は、まるで誰にもすがるものかとこらえるように、震えているようだった。


 その目をソゾンは知っている。


 孤独の中で、たったひとり耐えるしかなかった、惨めさの染みついた仄暗い色。


 同じだと、ソゾンの本能が囁く。


 ぬくぬくと育ち、吐くほど甘ったれで、大切に育てられたお姫様、のはずなのに。


 その中に、ソゾンと同じ渇望かつぼうが確かに見える。


「貴様は、何の話をしている?」


 けれども同時に、彼女の存在がひどく遠く思えた。


 ソゾンを通してまるで別の誰かを、何かを見ているような遠い瞳。遥かな視線。

 そう理解した瞬間に、ソゾンの胸で焦燥感がじわりと動き出す。


「ふざけるなっ!」


 話しかけているのは俺だろう、俺を見ろ。気付けば抑えきれないその思いから、ソゾンは舞翔の首元を衝動のままに掴み上げていた。


「っソゾンには、分からないよ」


 苦しげな表情を浮かべながら吐き捨てた舞翔に、全身の血の気がカっと沸き上がったような感覚を覚えた、直後。


「おーっとそれ以上は駄目アルよ!」


 何かが空から舞い降りて、舞翔とソゾンの間を引き裂いた。



お読みいただきありがとうございます!

どんどん盛り上がっていく予定です、どうぞお付き合い下さい。

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