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第25話 『さらば日本! アメリカシアトルへ』



 舞翔は震えていた。

 瞳は爛々と輝かせ、目の前の光景に思わず気絶しそうな程に興奮している。


「惚れなおしたか? 舞翔」


 鼻高々にカランが微笑み、その横で武士が「すっげー!」とはしゃぐ。

 逆に士騎はひとりびくびくと真逆の反応を見せていた。


「さぁ、プライベートジェットでアメリカシアトルまでひとっ飛びだ」


 舞翔の目の前には今、飛行機の中とは思えない豪華なリビングのような空間が広がっている。フカフカの大きなシート、高級そうなテーブルには果物や飲み物がお洒落に置かれている。前世ではひっくり返っても見られなかった光景だろう。


 軽率にお金持ちが居るホビーアニメの世界観に舞翔は改めて打ち震えた。




※・※・※・※





「さて、いよいよアメリカシアトルでの大会が始まる訳だが」


 飛行機が離陸し上空で安定した飛行を始めた頃合いを見計らったように、テーブル席に座った士騎が口を開いた。


「舞翔くんのパスポートが間に合って良かったよ」

「世界大会で海外に行くって言った時の母の虚無の顔が忘れられないです」


 舞翔はしかしながら娘の為にパスポート作成や荷造りなど、なんだかんだとサポートしてくれた両親に感謝しか無かった。


 関係者以外は自腹で渡航しなければならない為というのもあるが、舞翔を信じて一人送り出してくれたことにも、親の愛を感じ胸がじんわり熱くなる。


 一応、安全のためにGPS搭載のスマートフォンは持たされたが。それも舞翔にとってはずっと欲していた為、嬉しい副産物だ。


「ご両親にも頼まれているし、何かあればすぐに俺を頼るんだぞ、舞翔くん!」

「何ででしょう、不安しかないです」

「なんでだい!?」


 そもそも世界大会に舞翔を引き摺りだしたのは士騎の策略である。


 いや、もともとは舞翔が武士に怪我をさせてしまったことが全面的に悪いのだが、それでも士騎に対しては釈然としないものが残っている。


 舞翔はじとりとした目で士騎を見つめた。


「あー、と、とにかく。今BDFチームは一勝一敗の状況だ。今のところ全勝しているのはロシアにアジア。ヨーロッパがまさかの黒星ひとつとなっているが、他に全敗しているチームもあるし、決勝戦の切符を手に入れられるかどうかはまだまだこれからにかかっているからな」

「勝てばいいのだろう」

「まぁその通りなんだが」


 士騎はどこからか出したのか、小型のホワイトボードをテーブルの上に乗せ説明を始めた。


「アメリカで最初にお前たちが対戦するのはなんとアメリカ、完全なるアウェイ戦になる」


 ホワイトボードにはアメリカチームの情報が細かく書かれており、士騎による解説が始まってしまう。


 舞翔はその話を正直退屈に思いながら聞いていた。


 何故ならアニメファンだった舞翔は当然全て知っている情報ばかりだからである。


(アメリカ戦で気を付けるべきは、むしろ)


 舞翔は黙って士騎の話を聞いていた。


 対アメリカ戦。


 アニメ本編でアメリカは完全なるヒール役である。

 それというのも、アメリカチームのマリオンが武士のゲイラードを破壊するからだ。


 しかもバトル内で破壊する訳ではない。


 なんと試合前、武士の手からゲイラードが離れた隙をついて再起不可能なほど物理的に壊すのだ。


――試合に出られなくするために。


 ドローンバトラーにあるまじき不正行為である。だが証拠がない為に糾弾する事も出来ず、失格になることもなかった。


(このエピソード、ちょっと乱暴だけどホビーアニメとしては必須なんだよね)


 そんなことをぼうっと考えていた時だった。


「舞翔!」

「ひゃい!?」


 突如横に座っていたカランに両手で手を握られ、舞翔は驚きすぎて思わず声が裏返ってしまった。


「もうキミひとりに背負わせるようなことはしない。見ていてくれ!」


 熱い眼差し、強く握られた手。


 舞翔はカランの様子に目をパチクリさせていたが、すぐにアジア戦での事を言っているのだと気が付いた。


 たった一人残され負けてしまったことで舞翔が落ち込んでいる、とカランは考えているのだろう。


 そのことに舞翔は人知れずほっと胸を撫で下ろす。


(少なくともカランや監督にはわざと負けたことがバレてないみたい)


 あれから舞翔は非常階段に居た人物をずっと考察していた。


 カランか、士騎か?


 もしかして武士が、とも思ったが。


「舞翔、これ美味しいぞ! 食べてみろよ!」

(うん、絶対にないな)


 テーブルに置かれたぶどうを無邪気に差し出してくる武士に、舞翔は愛想笑いを浮かべながら「ありがとう」と自分もぶどうを口に放り込む。


(でもだとしたら、誰だったの?)


 今のところ誰からも、何のアクションも無い。


 テレビや雑誌でスクープとして報道される事も無い。

 でもだからこそ舞翔はそわそわと落ち着かないでいた。 




※・※・※・※




 長い飛行機での旅路を終え、BDFチームは無事アメリカシアトルのホテルに到着した。


 世界大会関係者が一同に泊まるホテルである。

 その中のシングルルームを宛がわれた舞翔は、荷物を開けながら思わず深いため息を吐いていた。


「駄目だなぁ」


 全く気持ちの切り替えが出来ていない。


 このままでは今後のバトルに支障をきたす可能性がある。

 次のアメリカ戦、アニメ本編では勿論BDFの勝利だ。


 と、いうよりも。


(もうヨーロッパ戦以外絶対に負けられないんだよなぁ!)


 思わず頭を抱えた。


 決勝に行くためにも、負けて良いのは二敗までだ。


 そのうちの一敗を本編通りとは言えこんな序盤に使ってしまったことに胃がきりきりと痛む。


「気分転換しよう、気分転換!」


 舞翔は思い立ち、荷開けもそこそこに部屋を飛び出した。


 ホテル内を散策してみようと、何とはなしに歩き出して暫く進んだ頃。


「あ」

「げ」


 丁度十字路のようになっている通路の曲がり角から、ルイとユウロンが現れた。


 思い切り鉢合わせしてしまったような状況に思わず顔を顰めた舞翔だったが、正反対にユウロンはパァっと嬉しそうに満面の笑みを浮かべてみせた。


「舞翔、会えるなんて奇遇アルネ!」

「そ、そうだね。あ、私は急いでるからこれで」

「まぁまぁまぁまぁ、ちょーっと待つネ」


 気まずさからさっさと立ち去ろうとした舞翔の手首を、絶妙な力加減でユウロンが掴んだ。


「買い物なら付き合うアルよ、女性の一人歩きはおすすめしないネ」

「あ、いや、えっと。気分転換にホテルの中を散歩してるだけだから」

「へぇ!」


 やけにぐいぐい距離を詰めて来るユウロンに舞翔はたじたじである。ちらりとルイに助け求めるように視線を向けるが、ルイはルイで我関せずといった様子で憮然と立っている。


「気分転換なら良い場所知ってるヨ、案内するアル!」


 そうこうしている間に、手首を掴んでいた筈のユウロンの手はいつの間にか舞翔と手を繋いでいた。その手に強引に引かれ、ユウロンが歩き出すままに舞翔の足も動き出しそうになる。


 まずい、そう思いその場に踏みとどまろうと踏ん張った舞翔だったが、誰かに背中を押されたと同時に呆気なく動き出す。


 振り向けば、ルイが舞翔の背を押していた。


(なんでルイまで!? ユウロンの言う事は絶対ってか!?)


 武術の達人である二人に、その身一つで抵抗したところで無意味である。


 舞翔がその事に気付いたのは、結局二人に連れられてエレベーターに乗り込んだ後だった。そこまで無駄な抵抗をし続けていたせいで、気分転換のつもりが余計に疲れてしまったことに舞翔は激しく後悔する。


(こんなに疲れるなら部屋に居れば良かった!)

「はいはい、到着アルヨ~!」


 ぐだぐだと項垂れている内にエレベーターが到着した音がして、扉が開く。


 その扉の向こう、眩しさに思わず目を細めた舞翔だったが、エレベーターを降りた瞬間に広がった景色に思わず息を止めた。


「屋上アル」


 視界いっぱいの青い空、遠くに見える水平線。


 ソファやテーブルに観葉植物が置かれた屋上には、気持ちの良い海風が潮の香りを運んで来ていた。


「すごい!」


 気付けば駆け出し、手摺から身を乗り出すようにして景色を眺めていた。


 と、誰かの腕が無言で舞翔の体を後方へ引いた。ルイである。


「危ない」


 それだけ言って、ルイの手はパっと離れる。


 舞翔はその行動に目をまん丸くしながら驚いていたが、そっぽを向くルイに思わずぷっと笑いが零れ落ちていた。


「?」

「あはは、優しいね。ありがとう」


 心配しなくても落ちたりしないのに、けれども思っていたより良い子なのかも、と舞翔は思う。


 ドローンバトラーに根っから悪い奴はいない、というのは大前提で分かってはいるが、男子ばかり出て来る本編でこういった女性に気を遣うような場面は基本的に存在しない。


 その為、意外な一面を知ったような気がして舞翔は嬉しくなった。


「元気、出たみたいで良かったアル」


 ルイとは反対側から声がして振り向けば、ユウロンが舞翔の横で同じように手摺に触れ立っていた。


 相変わらずの糸目だが、その目が舞翔を見てにっこりと笑っている。


「も、もしかして心配されてましたか、私」

「そうアルよ~! 僕が負かせちゃってから倒れるわ元気ないわ、責任感じてたアル~!」

「嘘くさいな?」

「酷いネ~!」


 ユウロンはわざとらしく泣いたふりをしてみせた。


 その様子に舞翔はまた思わずくすりと笑ってしまう。


 けれども不意に、ユウロンの糸目が僅かに開き、細い目が舞翔をじっと見つめた。


 それはルイも同様で、まるで何かを探るように二人は舞翔を凝視している。


(な、なに? まさか、わざと負けたことに気付いて?)


 そう思った瞬間、ひゅっと喉が引き攣り舞翔は全身を硬直させた。


「? 舞翔?」


 舞翔の様子が急変したことにユウロンは直ぐに気が付いた。


 手のひらに、額に、嫌な汗がじんわりと滲みだし舞翔の鼓動はどくどくとうるさく響き出す。


「どうしたネ? 落ち着いて……」


 そう言ってユウロンが舞翔の肩に触れようとした瞬間。


「舞翔に触るな!」


 エレベーターの方から怒声が響いたと思った直後、速足で近付いて来た何者かに舞翔の体はぐいと引かれ、気付けば抱き締められていた。


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