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第14話 『伝家の宝刀! エントランスでの煽り合い!』




 朝から雲一つない快晴、うだるような夏の暑さが街を包む。

 空調のいた家から一歩外に出ると、舞翔は焼けるような陽射しに、思わず目をすがめた。


 世界大会、初戦当日。 

 

「舞翔!」


 士騎の運転する、スーパー浦風と書かれたハイエースから、武士が手を振っている。


「いってきます!」

「暑いから小まめに水分とるのよ!」


 舞翔は母に手を振ると、元気よくハイエースに乗り込んだ。


「ちゃんと寝られたかい?」

「い、一応」

「大丈夫か舞翔? ちゃんと朝飯食べたか?」

「それは食べたよ!」


 士騎と武士に心配をされながら、舞翔は少し気まずそうにハハハと笑う。


 実を言えばプレッシャーからか中々寝付けず、今も緊張で心臓が痛い。

 自分は武士のように上手く戦えるだろうか、きちんと勝利できるだろうか。

 弱気になるたびに、ソゾンのことを思い出して何とか自分をふるい立たせた。


 会場に着くとすでにカランがエントランスで待ってくれていた。


「舞翔! 武士!」

「カラン、早いね」


 カランが手を振り、舞翔が駆け寄ろうとした時だった。


 急に舞翔の前を誰かが横切って、思い切りぶつかってしまった。

 反動はんどうで尻もちをついてしまった舞翔に、気付いたぶつかった相手がくるりと振り向く。


「今何かぶつかったかい?」


 舞翔の目の前で派手目のポンチョがひらりと舞って、橙色の癖っ毛が揺れる。

 つばが広い大き目のハットから目をくりっと覗かせ、真っ白い歯を見せて笑っているその左頬に、特徴的な大きな傷跡。

 

 『陽光の漁夫』の二つ名を持つフリオ・マリオ・カルバーリョ・アロンソ!


 舞翔も前世ではフルネームを覚えるのが大変だった、本日の対戦相手、南アメリカ代表選手である。


「フリオ、あれ」


 隣でぼそぼそと、フリオにしか聞こえないのでは、という小声で話すのが、パートナーであるエンリケ・ラウル・ルイディアス・ミシティッチ。


 二つ名は『陰裏の鉱夫』。


 フリオよりずっと高い背を猫背で丸め、目は深めに被ったカラフルな毛糸帽子と長い薄紫の前髪に覆われていて、表情が読めない。

 フリオと同郷と思えない白い肌が、二つ名通りの陰気臭さをかもしている。


「君ってあれさね、えーと、マイナ?」

「マイカだよ、フリオ」

「あーそうマナカマナカ!」


 フリオは言いながら日に焼けた手を舞翔に差し伸べた。

 しかしその手を誰かの手が思い切り払い除ける。

 カランである。


「お前、舞翔にぶつかって倒しておいて詫びも無ければ名前まで間違えるとは、無礼にも程があるが?」


 慣れた動作で舞翔を助け起こしてくれたカランは、かなり怒った様子でフリオを睨み付けた。

 フリオはそんなカランに少しだけ驚いた後、何とも不敵にニヤリと笑ってみせる。


「か弱い姫を守る王子様気取りかい? こいつはラッキーさな、エンリケ」

「そうだね、フリオ」

「こんな奴等に負ける訳がない」


 挑発的ちょうはつてきな物言い、二人してくっくと小さく笑っている不遜ふそんな態度。


 舞翔の中でアニメのシーンがフラッシュバックする。

 エントランスでのあおり合い!

 これぞお決まりにしてホビーアニメの伝家でんか宝刀ほうとう


 一瞬にして舞翔の瞳が輝いた。


「なんだと?」


 カランが明らかにムっとした様子で、眉間に皺を寄せる。

 フリオとエンリケは、それすら愉快そうに眺めて笑っている。


「まずは謝ったらどうだ?」

「いやーこれは悪かったさ、お姫様。怪我する前におうちに帰んな?」

「っ!! 貴様!」

「わーっ! カラン、いいからいいから!」


 今にも飛びかかりそうなカランを、舞翔が慌てて抑えた。


「私は気にしてないし、とりあえず行こうよ」


 これ以上二人と会話をしてはカランがまずい。

 アニメ本編では武士とフリオの肩が接触し、少し煽り合っただけだったのだが、何故だか今は殴り合いの喧嘩にでも発展しそうな勢いだ。


 舞翔は自分が尻もちをついてしまったせいでカランの怒り具合が変わったのかも、と何とか場を収めるべくカランの背を押して強引に立ち去ろうとした。


「それでは私達はこれにて!」

「お姫様だと思って甘く見たら負けちまうぞ? 舞翔はすっげー強いからさ」


 しかし、そうは問屋とんやもとい武士がおろさなかった。

 舞翔は思わず「あちゃ〜」と天を仰ぐ。


 こんなにも善意満載ぜんいまんさいの煽りを舞翔は初めて見たかもしれない。

 悪気や悪意を一切感じない爽やかな煽り、さすが武士、天然である。


「へぇ?」


 フリオの表情が変わった。

 幕を下ろしたように、先程までの能天気そうな笑顔が真顔に変わる。

 隣に立つエンリケの雰囲気も、先程までと違いピリリとしたものに変わっていた。


「それは楽しみさな。()()()()()がどこまでやれるのか」

「どれだけ強いか知らないけど、世界大会はタッグバトルだってこと、忘れないでよね」


 フリオとエンリケは、それだけ言い残すと、自分たちの控室へと去って行ってしまった。


 「また後でなー!」


 武士は呑気に手を振っている。

 本当に大物である。

 けれども舞翔は、そしてカランまでも、最後にフリオが残した言葉に図星を突かれた気がして、押し黙ってしまった。


 “即席コンビ”。


 個々の実力は申し分ないはずの二人だが、フリオとエンリケの言う通りである。


 世界大会は、タッグバトル。


 舞翔とカラン、二人のコンビネーションはまさにまだ即席の域を出ていない。


 対してフリオとエンリケは、大会で一二を争う程の抜群ばつぐんのコンビネーションを誇るチームだ。

 一対一ならば、舞翔とカランの方が恐らく実力は上であろう。

 しかしタッグバトルとなった時の彼等の強さは、恐らくそれをしのぐのである。


 二人は明らかに意気消沈いきしょうちんしてしまった。


「ほら、控室で準備しよう」


 そんな二人に士騎が移動を促す。

 しかし内心、士騎もまた焦っていた。


(王子様とお姫様、か。まさにその通りかもしれない)


 平時へいじから気遣きづかい合っている二人だが、カランの行き過ぎたエスコートに舞翔がたじたじとすることも多い。


 士騎は少し前を歩く二人を見つめた。

 と、そこへ不意に武士がやって来た。


「兄ちゃん、どうしたんだ?」


 あっけらかんとしているが、前をいく二人に聞こえないようにこっそりと話しかけて来た武士に、士騎は思わず驚いて目を瞠った。


「カランと舞翔のことか?」

「ん、あぁ。ほら、カランは比喩ではなく本当に王子様だろう? だから幼い頃から紳士の教育を受けているし、兄弟が多くいる中の長兄にして、後継ぎだ」

「うん? それがどうしたんだ?」


 眉を顰める武士に、士騎は声をひそめて顔を近付ける。


「カランは一番上に立つ者として、強引かつ行き過ぎているくらいに面倒見が良い。こと舞翔くんに対しては過保護なくらいだ」

「ふんふん」

「対して舞翔くんは一人っ子独特のマイペースさを持っている。気が弱い割にはそのじつ行動原理こうどうげんりが自分本位で猪突猛進ちょとつもうしん

「はは! それは確かに!」


 少し大きな声を出した武士の口を、士騎が慌てて押さえた。

 舞翔が少しだけ不思議そうに振り返り、士騎はとりあえず誤魔化そうと不自然な笑顔を作ってみせる。

 それを見た舞翔は、明らかに訝しそうに顔を顰めてみせたが、自身も考え事があったようで、すぐにまた前を向いて歩き始めた。


「ふう。とにかく、舞翔くんはバトルとなると、さっき言った性質が更に色濃く出る。だがそのスタイルが武士に似ていたからこそ、俺は彼女をスカウトしたんだ」

「へぇ〜だったら問題ないんじゃないのか?」


「そう上手くいけばな。実際、武士とカランの時は、両者のの強さが不思議と噛み合って、良いコンビネーションを生んでいたんだよ」


 士騎は当然、舞翔にもそれを期待した。

 しかし、士騎の目論見もくろみは外れた。


「普段の様子からすれば、強引なカランに舞翔くんが振り回されているように見えるだろう。しかしバトルではその図が逆転する」


 士騎の表情が曇る。


「いや、バトルが本質的な問題をあぶり出すと言った方が正しいかもしれない」

「本質?」

「そうだ。カランの女性は守るもの、という固定観念こていかんねんもあるんだろうが。武士の時とは違って、舞翔くんとタッグを組むとカランは彼女を()()()()()()()してしまう」


 士騎の表情はどんどんと険しくなり、そんな兄の表情を見て、武士は少しだけ困ったように眉を下げた。


「その所為でカランは自分の持ち味を発揮できていないし、舞翔くんはそんなカランを上手くフォローすることが出来ない」

「ううん? じゃあさ、二人にそれを話して気を付けてもらえばいいんじゃないのか?」


 武士は首を傾げる。

 士騎はそれに、ゆっくりと首を振った。


「この事を指摘してしまっては、舞翔くんの性格上、今度は舞翔くんが尻込みをして、持ち味が消えてしまう予感しかしない」


 士騎は思わずどうしたものかと目を閉じ、溜息を吐いてしまった。

 その様子を、舞翔が不安そうに見ているのに、気付かずに。




いよいよ世界大会が始まります!

熱いバトルも乞うご期待!


熱い感想や評価なども、お待ちしております!



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