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第139話 『反撃の狼煙を上げろ!』




「“我が裁きを受けよ!”」


 マカレナの叫びと同時に、フォーリエルから次々と星が放たれる。

 それは流星群となってエレキストへと襲いかかった。


「こ、これはすごい! フォーリエルの攻撃も規格外だが、エレキストはその全てを完全に避け切っているぞー!」


 流星群をくぐり抜け、エレキストはフォーリエルの前になんと無傷で現れた。

 それを見てマカレナは少しだけ目を見開いたが、すぐに口角をにやりと上げる。


「ふふ、こうでなくっちゃね。さすがは舞翔」


 マカレナは舞翔を見やった。

 しかし舞翔はマカレナなど目もくれず、応答もない。

 そんな無反応の舞翔にマカレナは小さく嘆息した。

 それからバトル中だというのに、急に舞翔の方を体ごと向く。


「ねぇ舞翔! この勝負、僕が勝ったらエフォートに来てくれるよね? そうじゃなくっちゃ、こんな勝負つまらないもの」


 マカレナのその突然の言葉に、舞翔の米神がぴくりと反応した。


「つまらない?」


 顔を上げ、舞翔の視線はようやくマカレナの方を向く。


「じゃあ、あなたはどうしてバトルドローンをやってるの?」


 その声色は心なしか怒気がこもっているように重かった。

 しかしそんなことよりも舞翔が自分の方を向いたことが嬉しいのか、マカレナはご機嫌な笑みで舞翔を見つめ返す。


「そんなの暇つぶしに決まってるだろ! 人生なんて全部暇つぶし。僕みたいに最初から全て持ってる人間にとって、生きることってイージーすぎて本当退屈なんだよねぇ」


 まるで鼻歌でも歌うようにマカレナは言った。

 直後、エレキストがフォーリエルに凄まじい勢いで突っ込む。

 あはや直撃と思われたが、直前でフォーリエルは軽々とその攻撃を交わしてみせた。


「あは、もしかして怒った?」


 マカレナは本当に嬉しそうに目を細める。

 人を小馬鹿にして、見下した顔。


「ねぇ舞翔、僕本当に君のことが気に入ってるんだ。こんな幸運は中々無いよ? いい加減素直になったらどう?」


 フォーリエルはまるで懐いた犬のように、エレキストの周りをぐるぐると飛び始めた。


「あんな生まれながらの負け組なんかより、僕の方が絶対に君は幸せになれると思うんだよね! ソゾンは親に捨てられた孤児、生まれた瞬間から奪われ搾取される側なんだよ。でも僕は違う、僕は特権階級なんだ。下々の奴らが出来ないことが出来るし、何をしたってたいていは許されちゃう。みんな上手く騙されてるけどさ、この社会はそれが真実だろ?」


 エレキストはフォーリエルを振り払うべく急スピードで上昇した。

 しかし最高速度で逃げたつもりが、フォーリエルは容易くその後を着いて来る。


「あぁ、逃げるなんてっ! 本当に君は僕を愉しませるのが上手だね!」


 マカレナの表情が再び恍惚と歪む。

 自分で自分を抱くように震えるその姿に、舞翔は思わずぞっとする。

 けれども己を奮い立たせ、舞翔は毅然とマカレナを睨み付けると、エレキストで再びフォーリエルを攻撃するべく急旋回した。

 そして今度こそ攻撃は直撃した、と思われたのだが。


「!?」


 エレキストのアームが、フォーリエルのアームに器用にも絡み取られている。

 絡まり合った状態で、エレキストは半ば無理やりフォーリエルとダンスでも踊るようにくるくると飛び回る。


「っ、エレキスト!」

「おっと、逃さないよ」


 抜け出そうと舞翔が試みるも、どういう訳か離れられない。

 まるで弄ばれるように、次々とフォーリエルにエレキストのアームを絡み取られてしまうのだ。

 こちらは必死なのに、マカレナは本当にただ遊んでいるかのように楽しそうだ。

 それを見たら、認めざるを得なかった。

 確かに彼は天才で、並の相手が敵う相手ではない。

 こんな技術テクニック、見たことがない。

 舞翔の持つ技術テクニックなどは全ていとも容易くファントムに圧倒されてしまう。

 血の滲むような努力を重ね、ようやく培った技術が全て!

 舞翔は悔しさに思わず拳を握り締めた。


「ねぇ舞翔、もう意地になるのはやめなよ。君は選ばれたんだよ! ファントムに、そしてこの僕に!」


 気付けばマカレナは展望台アウトルックタラップの手摺りを超え、舞翔のすぐ横へとやって来ていた。

 そして気付いた時にはもう腰に手が回り、エレキスト同様舞翔自身もダンスを踊るように腕を絡み取られる。


「っ、離して!」

「ねぇ、君もこちら側に来れるんだよ? だって君は特別なんだ。いい加減認めて楽になろうよ?」


 耳元で囁かれ、舞翔は目を瞠った。


「僕が君に梯子をかけてあげる。こちら側に来る梯子を。さぁ、僕に身を任せてよ」


 マカレナはまさに勝ち誇った笑みを浮かべていた。その確信めいた瞳はゆっくりと眇められ、一片の曇りもなく舞翔だけを見つめている。

 気が付けばマカレナの顔は舞翔の鼻先まで近付いていた。

 舞翔の視界は、マカレナのぎょろりとした瞳でいっぱいになる。


「っ」


 身が震えた。

 昨日の出来事が思い起こされ、全身が強張る。

 このままでは、今度はこの大衆の中でキスされることになる。

 それはまるで、服従の証ではないか?

 そう思った瞬間、舞翔の中の本能が動いた。


「っっやめて!!!!」


 乾いた音がスタジアムにこだまする。

 会場中が一瞬の静寂に包まれて、舞翔は怒っているのか、泣いているのか、怯えているのか、よくわからない表情で呆然と立ち尽くした。

 マカレナを打った手の甲が熱い。

 舞翔の肩はその動揺を物語るように、呼吸と共に大きく上下した。

 マカレナはゆっくりと自身の頬に触れる。

 赤く腫れ、鈍い痛みが残る、頬に。


「っあは!」


 そして直後、目を見開いて笑い出したマカレナに、舞翔はびくりと全身を跳ね上げた。


「どうしてそこまで、僕を拒むのかなぁ? これで君も特別な存在になれるんだよ? 支配する側、物語の主人公になれるんだ! ねぇ、僕と一緒に、ずっと楽しく遊ぼうよ。僕の退屈を、君が吹き飛ばしてくれよ! なぁ、なぁ!?」


 マカレナの元々赤い双眸が、更に真っ赤に血走っていく。

 彼が纏っていた雰囲気が、その瞬間ガラリと変わったことに舞翔はハッとした。


「中々言うことを聞かないのは猫みたいに気紛れで良かったけど、ここまで反抗的なのは、仕置きが必要だよなぁ!? よなぁ!」


 直後、激しい熱波がスタジアムに吹き荒れた。

 太陽がまるでマカレナの怒りに呼応したかのように、轟々と燃え盛ったのだ。

 その表面には数多のプロミネンス(紅炎)が立ち昇り、地獄の業火の如くスタジアム中を熱で呑み込んでいく。

 それはまるで人々に恐怖を植え付けるように。


「さぁ! “僕が裁きを下してあげる”!」

「!?」


 次の瞬間、ひとつのプロミネンス(紅炎)がフォーリエルへと襲いかかった。


「な、なんとー! フォーリエルが炎に包まれてしまったぞぉ!?」


 地獄の業火に身を焼かれ、フォーリエルは不気味に沈黙する。

 スタジアム中の誰もがその光景に固唾を飲んだ。

 フォーリエルを包む炎はまるで生きているかのように蠢いている。

 刹那、フォーリエルが動いた。炎などものともせずに、それどころか炎を味方につけて、エレキストに襲いかかったのだ。


「っエレキスト!!」


 舞翔はギリギリのところでその攻撃を避けた、しかし。

 炎がぐねりと曲がる。

 次の瞬間、フォーリエルはまるで生きた蛇のように炎の尾をくねらせてエレキストに追い縋った。

 焔を身に纏い、フォーリエルはそのまま何度も、何度もエレキストに襲いかかる。

 けれどもその度にエレキストはぎりぎりのところで攻撃を交わし続けた。

 手に汗握る、一瞬たりとも気の抜けない攻防。

 それはまるで永遠にも覚えるほど長く、延々と続いた。

 凄まじいスピードでスタジアム中を飛び回りエレキストは逃げる。それを付かず離れず、炎のとぐろを巻きながらフォーリエルが追走する。

 しかしついに、フォーリエルの炎が先に尽きた。

 そのままフォーリエルは動きを止める。

 エレキストは逃げ切ったのだ。

 その頃には舞翔も、そしてマカレナも、互いに肩で息をしていた。


「あぁもう、つまんないなぁ」


 そしてぼそりと、マカレナから聞こえたと思った直後。


「つまんない、つまんないつまんないつまんないつまんなぁい!! 」


 その絶叫に、舞翔はびくりと体を震わせると、思わず眉間に深く皺を寄せた。

 マカレナは不機嫌そうに舞翔を睨んでいる。まるで駄々を捏ねる子供のように。


「いい加減に空気読んだら!? 逃げてばっかり、君みたいなモブに誰も勝利なんか期待してないからさぁ!」


 舞翔の瞳が見開かれる。

 唇が震え、思わず顔を俯けた。

 その舞翔の姿に、マカレナは遂に弱みを掴んだと目を輝かせる。


「っマカレナ、貴様!」「舞翔!」「ガッデム、許さないよ!」


 カランが、キリルが、マリオンが、他にも多くの者達が、遂に辛抱堪らず声を上げ、今にも飛び出して行きそうな勢いで立ち上がった。

 しかし、その時。


「つまんないね、あなた」


 舞翔が、顔を上げた。

 その瞳にマカレナは息を呑む。

 舞翔の瞳は死んでいない。ましてや諦めても、屈服もしていない。

 それどころか、まるで夜空を支配する満月のように輝いている。


「ソゾンは貴方が暇つぶしと言ったバトルドローンに全てをかけられる。他のみんなだってそう。夢中になって、ただ貪欲に勝利を求めて、真剣にバトルドローンに向き合ってる」


 舞翔は一歩踏み出した。

 その一歩に、今度は後退したのはマカレナの方だ。

 舞翔は臆さない、もう何も恐れない。

 毅然とマカレナの前に立ち、真正面から睨み付け、そして――


「貴方がつまらないのは、貴方がつまらない人間だからだよ」


 静かに、けれども明確に突き付けた。



さぁ、反撃です!

どうぞ舞翔の成長を見届けてください!

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