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第136話 『星、落つる! ソゾンの秘策』

これが漢の晴れ姿、と思ってます。




 隕石は無慈悲にもアイブリードに直撃した。

 誰もがソゾンの負けを確信し、DJの勝敗を決する声を待つ。

 しかし。


「!?」


 初めにマカレナが気付いた。

 モーターの回る音が隕石を微かに振動させて響いている。

 そして気付いた瞬間、マカレナは目を見開いた。

 その視線の先で、アイブリードが隕石の表面を走るように飛行していたのだ!


「貴様にだけはっ、負ける訳にはいかない!」


 瞬間、ソゾンの心臓が大きく高鳴った。

 それに呼応するかのように、アイブリードのモーター音が加速する。


「なっ、なんだ!?」


 マカレナは動揺した。

 それもそのはず、目の前に居たはずのアイブリードが姿を消してしまったのだ。

 けれども次の瞬間、フォーリエル近くの隕石の表面が弾け飛ぶ。


「!? お前、まさか!」

「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!」


 ソゾンが叫び、その全身に血管が浮かび上がっていく。

 瞳はぎらり眼光が輝いて、瞳孔が収縮する。


「っファントム!?」


 マカレナは信じられないものを見るように叫んだ。

 急激なドローンの性能の向上、ソゾンは明らかにファントムを使用している。

 しかしその“ファントム”とは比較にならない程の負荷が、今、ソゾンにのしかかっている。

 それは今にも気絶しそうなほどで、精神力だけでソゾンは持ちこたえていた。


(これが、“オリジナル”の力なのか!?)


 ソゾンの表情が苦痛に歪む。

 少しでも気を抜けばアイブリードのコントロールを失ってしまいそうなほど、内から激しい力が湧き上がって来る。

 アイブリードの中でギラリと光るのは、()()()()()()()()()()()()()()()()

 それはソゾンが前日に士騎から譲り受けた、武士が使用していたまさにファントムのオリジナル。

 出力調整など存在しない、純度百パーセントの感覚共有パーツである。


「兄ちゃんっ!」

「分かってる! ソゾン、持って二分だ! それ以上は()()()()()()()()!」


 士騎の叫びはソゾンに届いたのだろうか。

 ゲイラードの感覚共有パーツを使用すること。

 これはソゾンから提案されたが、士騎は承諾した。

 だからもう信じるしかない。

 士騎は拳をこれでもかというほど握りしめ、表情を引き締めた。


「勝ってくれ、ソゾンッ」


 視線の先では、ファントム同士の常軌を逸したバトルが始まっている。


「おっとー! アイブリードはまだ生きている! だが、その姿を肉眼で捉えることが出来ないぞぉ!?」


 DJの叫びの通り、アイブリードは目では追えない速さで攻撃を次々と繰り出していた。

 しかしフォーリエルはぎりぎりのところでその見えない攻撃を交わし続けている。

 隕石の表面を、二機のドローンが激しく岩を砕きながら這いずり回る。

 そして一分が経過しようという時、フォーリエルが削れた岩陰の凹凸で一瞬バランスを崩した。

 その隙を、ソゾンは見逃さない。


「終わりだ、マカレナ! “貴様の全て、奪い尽くしてやろう”!」


 アイブリードの真っ向からの攻撃がフォーリエルに直撃する。

 鈍い音が響き、直後フォーリエルのプロペラが二本、折れたと同時に彼方へと弾き飛ばされた。

 ぐらり、フォーリエルの機体が反重力の中でコントロールを失って宙へと放たれる。


「や、やったーーー! アイブリードがフォーリエルの翼を折ったぞぉ!」


 会場が湧き上がった。

 二つのプロペラとフォーリエルが宇宙の海に浮かび、誰もが勝敗は決したと思った。

 しかし。


「!?」


 ソゾンの全身をびりりと静電気に似た感覚が走り抜け、ハっとしてフォーリエルを見上げた。


「あははっ、僕をここまで追い詰めるなんて、中々やるよね、よね」


 フォーリエルは()()()()()()

 二本の羽を折られ、その姿はゆっくりと、けれども確かに四枚羽(クワッドコプター)へと変わっていく。

 星々の輝きを背負い変化するその姿に、ソゾンは一瞬エレキストの影を見た。


「舞翔」


 フォーリエルは眩しく輝く、まるで宇宙に浮かぶ一等星のように。

 それはソゾンにとっての舞翔だ。

 常に輝きそこにあるのに、決して手の届かない遠い遠い光。


「はは! お前みたいな何も持ってない虫けらが、手に入れられるものなんかあるはずないだろ?」


 マカレナは笑っていた。

 至極愉しごくたのしそうに、目を細く歪め、口角は三日月のように吊り上げて。


「舞翔は僕のものだ! お前はしょせん卑しい生まれの孤児なんだよ!! さっさと消えろ!!!」


 叫び声と共に、フォーリエルが動いた。


「な、なんてことだー! フォーリエルがクワッドコプターに変形してアイブリードに突っ込んでいくぞぉ! まるで空宮舞翔選手のエレキストのようだ!」


 悲鳴と歓声が同時に会場に響き渡る。

 しかしソゾンは、アイブリードへと正面から向かって来るフォーリエルに、その口角を挑発的に吊り上げた。

 もう肉体はとっくに限界を迎えている。

 けれども次の瞬間、アイブリードは再びその姿を消しフォーリエルの攻撃を交わした。


「あぁそうだ、貴様の言う通り。だが、だからこそ俺は勝利に貪欲でいられる!!!!!」


 アイブリードは宇宙の果てへと、一筋の光となって高く高く飛翔していく。

 フォーリエルもまた、同じスピードでその後に続いた。

 光速の世界で二機は宇宙を駆け抜ける。

 しかしそれを見ていた士騎が、動揺を顔に張り付けて立ち上がった。


「これはっ、感覚共有パーツの出力が、限界を超えている!」


 武士とカランも士騎の尋常でなく焦った様子に、表情を強張らせて立ち上がる。


「ど、どうなってるんだよ兄ちゃん!」

「どうもこうもっ、こんな高い共感覚のままドローンが破壊されでもしたら、ソゾン自身にも影響が!!」


 直後士騎はハっとして、手元に握り込んでいたスイッチを思い出した。

 そして焦ったように停止ボタンを押す。

 それは感覚共有パーツをもしもの時のために強制停止するボタンだった。

 しかし。


「!? 停止、しないっ?」


 士騎はフォーリエルとアイブリードを仰ぎ見た。

 まさにその瞬間、激しい衝撃音と衝撃波が同時に会場を包み込む。

 二つの流星がぶつかり合い、最後の輝きのように真っ白く閃光する。


「ソゾンッ!」


 士騎は走り出す。

 しかしもう遅かった。ソゾンの体はぐらりと揺れて、ふらり手摺に倒れ込んだかと思うと、真っ逆さまに展望台アウトルックタラップから地面に向かって落下していく。


「あはは、馬鹿なやつ! 才能もない癖に無理するからだよ、だよ!」


 マカレナの高笑いが響き、その勝利を享受するようにフォーリエルは宇宙の真ん中で優雅に滞空していた。

 そしてその周りには、砕け散り藻屑と化したアイブリードの欠片が漂っている。

 勝敗は、火を見るより明らかだ。


「しょ、勝者、マカレナ選手ーー!!」




※・※・※・※




 舞翔はその光景をテレビ画面越しに見ていた。


「っソゾン!」


 そして直後、悲鳴と共に立ち上がったかと思うと、気付けば玄関へ向かっていた。

 後ろから三都子が何か叫んだが、舞翔には届いていない。

 舞翔は気付けば玄関から飛び出して、無我夢中でスタジアムへと走っていた。

 瞳にソゾンが落ちて行く姿が焼き付いて離れない。


(ソゾンッ、ソゾン、ソゾン!)


 頭の中は、ソゾンのことでいっぱいだった。

 他のことなど何もかもがどうでもいいほど、舞翔はソゾンのことだけを想い、ひたすらに走る。

 足がもつれ、転んで、膝と腕を擦りむいて。

 それでも舞翔は走り続ける。

 そしてついにスタジアムへと辿り着き、観客席からステージを見下ろした。


「ソゾンッ!」





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