第120話『士騎の誓い! 一致団結、BDFチーム!』
「へ?」
真っ直ぐな視線と共にきっぱりと言い切られた士騎の言葉に、舞翔の時が止まる。
「武士以外が謂わば“ファントム”のオリジナルであるゲイラードを使いこなせたことは、あの時あの瞬間、君がゲイラードでソゾンに勝つまではただの一度も無かった」
「っ!!」
舞翔の心臓がドクリと大きく脈打った。
(そうだ、私は)
舞翔はソゾンと初めて戦ったあの時、ゲイラードを使って勝った。
それはつまり、“ファントム”を使って勝ったということだ。
(そんな、それって)
舞翔の中で、全ての前提が覆る。
文字通り死ぬ思いで努力をし、己の力のみで全てを勝ち取って来たソゾンに、舞翔はあろうことか“チート”を使って勝ったことになる。
彼が自分に固執しているのは、あの時のあの勝利があったからだ。
それなのに、それは“まやかしの強さ”だったとなれば。
(幻滅、される)
けれどもそれを言えば、武士の全てを否定することになる。
舞翔は喉まで出掛かった言葉をぐっと腹の底に呑み込んだ。
胃が焼かれるように熱い。それほどに、舞翔の中に憤りが膨れ上がっていく。
「舞翔くん、君は現時点で正真正銘、武士に次ぐ“ファントム”の“真の性能”を引き出すことが出来る“適用者”なんだ。それは、アメリカチームとのバトルで証明されてしまった」
「!!」
「ハァ!?」
士騎の言葉にマリオンが激昂して立ち上がった。
右耳のピアスが揺れて、派手な金髪が舞翔の前を横切っていく。
そのままマリオンは士騎に詰め寄ると、先が二つに割れた眉を吊り上げて、胸倉に掴みかかった。
「シット! 舞翔に許可も得ず、勝手に実験体にしたってぇのか!? あぁん!?」
言い放たれたその言葉に、舞翔は思わず目を瞠った。
舞翔は“ファントム”を使って勝ったことを非難されると思っていた。
けれどもマリオンは逆に舞翔の体の事を心配してくれたのだ。
舞翔は思わず呆然と呟く。
「マリオン……私が、憎くないの?」
そんな舞翔の肩を、マリオンと鏡映しの容姿をしたジェシーが背後から優しく叩いた。
振り返ると、烈火のごとく怒っているマリオンとは対照的に、優しく細められた碧眼が静かに舞翔を見つめている。
「君の強さがパーツだけのものでは無いことは、ここに居る全員が分かっていると思う」
舞翔はハっとしてジェシーを、そしてその後ろに居る他の皆を見回した。
その誰一人として、舞翔を責めも、憐れみも、怒りもしていない。
「そうさね、舞翔! 糾弾すべきは士騎監督の横暴のみさ」
「フリオ…!」
「本当ネ! 最低の鬼畜アル!」
「ユ、ユウロン、なにもそこまでは……」
「許すなんて論外でしょ。訴えた方が良いんじゃない?」
「エンリケ!?」
「空宮さんが望むなら、おいらが制裁する」
「ユ、ユルやめて! 拳を下ろして!」
「ベルガは言わずもがなだが、士騎さんもそこそこ下衆いよなぁ」
「ペトラ! しぃーっ!」
「社会的に潰しちまいますか? 姉御」
「アキームは本当にやめて?」
「僕もう帰ってもいーい?」
「ごめんモレアもう少し居て!」
次々に士騎を囲み糾弾し始めた面々に、舞翔はいつの間にか自分のショックや憤りなど忘れて、皆を止めに入っていた。
しかし、彼らの非難などまだ甘い方だったのである。
凄まじい怒気を感知して、舞翔はハっとする。
気付けばたらりと額から汗が垂れていた。
振り返りたくない。
背後から感じる憤怒のオーラに、先程まで非難を甘んじて受けようという態度を取っていた士騎ですら、思わず怯えた顔で震え出している。
「士騎、貴様……」
「それってベルガと何が違うのさ?」
「アレを舞翔に、強要シタの?」
凄まじい怒りを滾らせて、カランは影がかった顔で瞳孔の収縮した瞳を光らせる。
キリルはバキボキと拳を鳴らしながら絶対零度の笑みを浮かべ、サイモンは無表情で目を見開き士騎をじっと凝視している。
「あ、ああああれはその、偶然が重なった末に否応なくというか」
「でも舞翔に真実を隠してゲイラードを使わせたんですよね?」
「そそそそそれは、どうしても、お、俺の中の開発者の血が!」
「いいわけは見苦シイよ、士騎カントク」
迫り来る三つの影にさすがの士騎もたじたじと後退する。
しかし壁際に追い詰められたところで、真正面に最も怒り狂っているカランが立った。
「歯を食い縛れっ、士騎ぃい!!!」
「す、すみませんでしたぁああああ!」
※・※・※・※
「武士、舞翔くん、本当にすびばべんでした」
「い、いえ」
「兄ちゃん、大丈夫か?」
目の前で顔を腫らしながら正座をし、頭を下げた士騎に、舞翔は思わず引き気味で返事をした。隣で武士は呆れたように兄を見下ろしている。
「さっきまでシリアスな空気だったのに何だかもうどうでも良くなっています」
「ぞれはよがっだ」
「何て言うか、むしろ、すいません」
大の大人が肩をしゅんとさせてボコボコにされている状況に、舞翔は本当に可哀そうになって同情の視線を向けた。
余りにも哀れである。
「舞翔が同情する必要は無い! むしろもっと反省させるべきだ」
と、舞翔の横でカランが腕組みしながら憮然と言い放った。
それに苦笑しつつ、舞翔は改めてその場で士騎を取り囲むように立つ仲間達全員を一人一人見渡していく。
「あの、こんな状況で言うのもあれなんだけど、みんなにお願いがあるの!」
皆の視線が一斉に舞翔に集まった。
その注目に緊張しながらも、舞翔は一度深呼吸をしてから再び強く前を向く。
「私がここへ来たのは、みんなと一緒にエフォートに立ち向かう為」
舞翔は自身の胸に手を当てて、少しだけ視線を足元へと向けた。
覚悟を決めたつもりだったが、ここへ来る道中、歩きながら何度も引き返しそうになった。
更に自分が“適用者”なるもので、しかも“ファントム”を使ってソゾンに勝ったという事実に、目の前が真っ暗になりそうになった。
けれども、今、舞翔は自分の両の足で立っている。
舞翔は再び前を向く。
「みんなに、力を貸して欲しい。どうか、一緒に闘ってほしい!」
本当のことを言えば、覚悟など決まっていない。
舞翔は逃げ癖のある情けない舞翔のままだし、今もソゾンのことを思うと胸が痛いし、ファントムや適用者の事を考えると頭がこんがらがりそうになる。
けれど――。
舞翔は目の前に立つ皆を見渡した。
今はこんなにも、信じられる仲間がいる。
(ひとりじゃ、ないんだ)
それがどんなにか、舞翔を勇気づけただろう。
「勿論アルよ、舞翔」
「オレ達はその為にここへ来たんだよ、舞翔」
「オフコース! あいつらに負けて今も腹が立ってるしね」
「ワタシも、たすける。友達だから」
皆、笑顔を浮かべながらそう言って頷いた。
ベンだけは気まずそうだったが、サイモンの後ろで肯定もしないが否定もせずに立っている。
そして舞翔は、すぐ隣に居たカランと武士、そして立ち上がった士騎を見つめた。
舞翔は順番に、カラン、武士、士騎と目を合わせる。
そして口を開いた。
「もう一度、私をBDFチームに入れてもらえますか?」
声が震えた。緊張で胸がドキドキしている。
身勝手に、彼らを半ば捨てるようにして独断で日本へ帰って来たくせに、今更虫がよすぎることは分かっている。
けれど舞翔は目の前の三人が微塵もそんなことは思っていないであろうことも分かっていた。
それでも敢えて問うたのは、もしかしたら舞翔のわがままだったのかもしれない。
「舞翔はずっと、BDFチームだろ!」
武士が笑う。
「そうだぞ。おかえり、舞翔」
カランが舞翔を優しい眼差しで見つめる。
舞翔は二人のその言葉に、本当に嬉しそうに目を細めた。
きっとそう言ってくれるだろうということは、分かっていた。
それでも、舞翔は誰でも無い、二人にこの言葉を言ってほしかったのだ。
武士とカランもそれを分かっていたように、舞翔と目を合わせて微笑む。
「ありがとう、二人とも」
そして最後に、舞翔は士騎と目を合わせた。
士騎は真剣な表情で一度静かに瞳を閉じる。
それから瞼を開けた士騎は、その瞳にしっかりと舞翔を映していた。
「恐らく、ベルガは君を狙っている」
「っ、はい」
「十中八九、相手はファントムを使うだろう。君にとっては苦しいバトルになるかもしれない」
「はい」
「それでも今度こそ、“君の隣”で、君を守ると誓おう」
「は……へ?」
士騎は舞翔の前に跪くと、急に片手を胸に当て、頭を垂れた。
「戻って来てくれて嬉しい。俺の方こそ、一緒に闘ってほしい」
それはまるで、騎士が忠誠を誓うかのようだった。
士騎は顔を上げると、少しだけ眉を下げ泣きそうな顔で、微笑んだ。
舞翔はそんな士騎に少しだけ目を瞠ったが、すぐに自分も笑顔を作り、それでもやっぱり泣きそうになって眉を顰め、言った。
「嬉じいでず、がんとく」
「泣かないでくれ、保護者として居た堪れなくなる」
「保護者では無いべす」
「え?」
「あと、ギリ泣いてばてん」
舞翔は思い切り鼻をすすると、腕で乱暴に目をこすった。
お読みいただきありがとうございます!!
BDFチーム再結成!!
そして本当の意味でチームが一丸となった、と言う感じでしょうか?
士騎の名前を考えた時に、このシーンは入れたいなと密かに思っておりました…
さてはて、ここからは、いよいよ……最終章にもつれ込みます!!
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まだまだ最高潮に熱いバトルを用意してます、なんせホビーアニメですから!!笑
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