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第119話 『告白! 舞翔の秘密』




 アニメ本編でも、最終決戦を前に世界大会出場選手大集合はお決まりの展開として描かれた。そこで全員一致団結して打倒エフォートを目指す事となり、そのキーパーソンとして元ベルガの仲間だったソゾンとペトラが活躍する、予定だったのだが。


(ソゾンはエフォートだし、その代わりなのかベルガと関りを持ったベンとサイモンがアレクセイに召集されてて、でもそれは士騎監督は知らなくて、むしろ来てほしくなかった? あぁぁぁもう!)


 結論として、舞翔はもう何が何だか分からなくなっていた。


(何が武士が戻って来て元通り、よ! 過去の私!)


 世界大会出場者一同は、ひとつのデスクを中心に円陣を描くようにして、各々持ち寄ったエントランスの様々な椅子に座っていた。

 その中心の応接椅子に、ベンとサイモンが。

 対面に士騎とアレクセイが、舞翔を真ん中に挟んで座っている。


(そして何故私が中心に?)


 舞翔は人知れず目を閉じ思わず天を仰いだ。

 その横で、アレクセイが話を切り出す。


「単刀直入に言うよ。ベン、サイモン、君達には“ファントム”の情報を共有してほしい」


 舞翔は驚いてすごい勢いでアレクセイを見やる。

 それは士騎も同じなようで、ほぼ同時にアレクセイに視線を向ける。

 そして三人の正面に座っているベンとサイモンは、聞かれる事を分かっていたかのように落ち着いた様子でアレクセイを見やった。


「“ファントム”はベルガから開発とちゅうの新パーツとして受けトッたよ」

「人体に影響を及ぼす代わりに、まるでドローンを自身の手足のように操れる。それだけじゃなく、本来の性能の更に上を引き出せる、ってねぇ」


 場がざわついた。

 勘付いていた者も居たのだろう、ルイやユウロンなどは周囲に比べれば冷静に、けれども意味深な視線をサイモンに向けている。


「ここまでは、お嬢さんも知ってる話だろぉ?」


 と、急にベンはそう言うと舞翔に視線を向けた。

 突然のことに驚きながらも、舞翔は素直にコクリと頷く。

 それにカランは心底驚いたように表情を強張らせ、士騎を睨んだ。

 その視線から、士騎は逃げるように顔を背ける。


「そうだね、そこまでは僕達も情報として手に入れる事が出来た。エフォートでは、“ファントム”の実験に多くの子供達を使っていたらしい」

「まさかあの実験が“ファントム”ってやつだったとはな。その件については俺がみんなの話をまとめて報告してあるぜ」


 アレクセイの言葉にペトラが続けた。

 元エフォートとして、抜けた孤児たちをまとめる役割を引き受けているらしい。

 そのことに舞翔が少し驚いている横で、ベンが続ける。


「知りたいのは“適用者”について、かねぇ?」


 ベンは意味ありげに口角を上げ、言った。

 それに舞翔はハっとする。

 確か以前にも、ベンは同じことを言っていたのだ。

 自分は“適用者”にはなれなかった――と。


「うちのサイモンは、正確に言えば“適用者”ではなかった。だけどねぇ、“適用者に近い”こと、“肉体への負担に耐えること”で何とかファントムを使ってたって訳だ」


 ベンは口角を上げ、お道化た様子で片目を閉じる。

 しかしその瞳を突如鋭くすると、刺すような視線を士騎に向けた。


「“適用者”については、アンタが一番よぉく知ってるだろぉ? 士騎監督」


 皆の視線が一斉に士騎に集中する。

 士騎はそれにも動じず、ただじっと険しい表情を浮かべ座っていた。

 誰もが息を呑んで士騎の言葉を待っている。

 けれども士騎は口を開かず、それどころかまるで逃げるように立ち上がったのだ。

 舞翔はその行動に信じられない風に目を瞠る。


「監督?」


 舞翔は思わず、士騎の手を掴んでいた。

 士騎は本当に苦し気な表情で舞翔を見やると、眉間に強く皴を寄せる。

 そんな士騎を、舞翔はただ真っ直ぐに見つめた。

 そのまま少しの間、二人はじっと見つめ合う。

 

「はは、大人のくせに、情けないな」


 やがてその視線に負けたように、士騎は再び席に着くと情けなく肩を丸めてみせた。

 

「兄ちゃん、どうしたんだよ? らしくないぜ」


 見かねたように武士が口を挟み、士騎は力なく苦笑する。

 らしくない、本当にその通りだ。

 舞翔は気付けば、そんな士騎の背にそっと手を添えていた。


「! 舞翔くん……」


 士騎は膝に置いた拳をぎゅっと握り締めると、静かに舞翔に向き直った。

 突然自分の方に体を向けられ、舞翔は少し驚く。

 けれども舞翔は直ぐに真剣な表情を浮かべると、自身も居住まいを正した。

 ここまで来れば、舞翔も気が付く。

 この話には、自分が関わっているのだと言う事に。


「言って下さい、士騎監督。私はあなたを信用していません。だから驚きません」

「は、はは。それは手厳しいな」

「はい。だけど私は、あなたを“信頼”しているので」

「!!」


 舞翔はまるで悪戯が成功した子供のように、にやりと笑った。

 その笑顔に、士騎の目はこれでもかというほど見開いて、そして直後、これでもかというくらい眉間に皴を寄せ、情けなく眉をハの字に下げる。


「……っそうかい」

「はい」


 士騎の緊張が緩んだとともに、周囲の空気もその瞬間和らいだようだった。

 けれどもすぐに、再び緊張が走る


「これから話すことは、どうか君達の心の内だけに止めて欲しい」


 士騎がそう、切り出したからだ。


「これは舞翔くん、君に関わることだ。この場の皆にも話して聞かせて構わないかい?」

「構いません。私は、みんなを信じています」


 士騎の言葉に舞翔は一切の迷いもなく答えた。

 それにその場に居た世界大会出場者全員が、目を見開く。

 当然だと頷く者、嬉しそうに笑う者、困ったように溜息を吐く者、反応はそれぞれだ。

 士騎は舞翔を見やった。

 本当に、誰一人疑っていない真っ直ぐな栗色の瞳。

 その輝きを、守らなければならなかったのに――


「……俺は君に、謝らなければならない」


 士騎はそう切り出したと同時に、舞翔に向かって、深く深く頭を下げた。


「君は、“ファントム”の適用者なんだ」

「!?」

「そして“適用者”だけが、“ファントム”の真の性能を引き出すことが出来る」


 士騎の言葉に、舞翔の視界がぐらりと揺らぐ。


「舞翔くん!?」

「舞翔!」


 士騎の手が舞翔を支え、カランが駆け寄って来たのが分かった。

 舞翔は、思い出していた。


(そうだ、私は、知ってる)


 ドローンがまるで自分の手足のように動く感覚。

 いつもよりもずっと速く、どこまでもいけるようなあの万能感。


「っ、“ゲイラード?”」


 舞翔は呟いた。

 その言葉に、士騎は眉を顰め、カランは目を瞠る。

 その場に居た全員がハっとして、一斉にその人物へと視線を向けた。


「ん? 俺?」


 武士は一人、よく分かっていないのか呆気に取られた顔で自分を指差している。

 ゲイラードは、武士の相棒だ。

 そして士騎は武士の兄なのだ。

 舞翔は急速に繋がっていく点と点にくらり、眩暈がした。


(そんな、そんな、そんな! まさか、武士のゲイラードは!)


 舞翔は士騎を仰ぎ見た。

 縋るような、嘘だと言ってくれと謂わんばかりの顔をして。

 けれども士騎は舞翔の視線を受け止めると、瞬き一つせず見つめ返し、真剣な顔で、その口を開いた。


「そうだ、ゲイラードには“ファントム”に相応するパーツが組み込んである」

「っ!!」


 場がどよめいた。

 戸惑い、困惑し、憤る者も居る。

 騒然とする中、まず最初に口を開いたのはカランだ。


「そのことを、武士は知っていたのか?」

「知らない。これは、俺が独断でやっていたことだ」


 カランの問いに士騎はきっぱりと答える。

 直後、カランが士騎に掴みかかった。


「ちょ、カラン!」

「お前っ、実の弟に何をしたか分かっているのか!?」


 舞翔は慌てて止めに入ろうとしたが、それよりも先に誰かが二人の間に無理矢理に割って入った。

 士騎と同じ青く光る黒い髪。

 武士が、思いのほか飄々とした様子で「喧嘩は駄目だろ」と二人の間に立ったのである。


「っだが武士!」

「俺、体は全然大丈夫だぜ? みんなと違う条件で勝ってたのは正直ショックだけどさ」

「! そうだ、武士くんはどうして平気そうなの?」


 思わずといった風に出たキリルの言葉に、その場に居た全員が頷く。

 そう、武士はゲイラードで数多とバトルをしてきた。

 だが、ただの一度もサイモンや、ゲイラードを使用した後の舞翔のように体調を崩した様子は見られなかった。


「それは、武士が“完全なる適用者”だからだ」

「完全なる、適用者?」

「そうだ。どういう訳か、武士は“ファントム”による人体への影響を一切受けない体質だったんだ。そしてこれは武士を基準に造られたパーツ。その所為で、実用段階で他者にテストをさせるまで、このパーツが人体に影響を与えると言うことに気付けなかった」


 舞翔は驚きすぎて、開いた口が塞がらない。

 他の誰かが使おうとすると体に負荷がかかる、主人公だけが何の影響もなく使うことが出来るパーツ。


(それって、めちゃくちゃ主人公補正というか、チートじゃない!)


 その時、舞翔は相反する感情が同時に湧き上がり何とも言えない表情を浮かべた。

 チートを含めて主人公だと肯定する気持ちと、そんなのは他者があんまりではないかと否定する気持ち。


「で、でも、それでどうして、私が適用者なんですか? 私だって、影響を受けて倒れたのに」


 舞翔はその気持ちを無理矢理に話題を変えることで押し込めた。

 この気持ちの蓋を、本能が開けてはいけないと言った気がしたから。

 けれどその蓋は、無情にもすぐにこじ開けられる。


「それは君が、ゲイラードを使いこなしてしまったからだ」



お読みいただきありがとうございます!

ここまで変わらず読み進めてくださる皆様のおかげで、やる気満々で連載を続けています、本当に嬉しいです!


さてはて、少し前に第一章を改稿したのですが、お読みくださった方はいるでしょうか…?

もし良ければ、改稿後の感想をお寄せいただけると私が喜びます!!!笑


そんなこんなで、さぁようやくやって来ましたーー!!

第一章から張っておりましたこちらの伏線…気付きましたかね?


続きもぜひ、楽しみにお待ちください!

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