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第112話 『ソゾンの回想、揺れるBDFチーム!』




 ソゾンは与えられた一室で灯りもつけず、静かにベッドに座っていた。


 窓の外はもうすっかり日も暮れて、街の夜景がぼんやりと浮かんでいる。


 その遠い景色を眺めながら、ソゾンは世界大会決勝戦、武士に敗北した時のことを思い出していた。


『お前とのバトル、スッゲェ楽しかった!』


 アイブリードを撃墜した武士は、直後弾けるように笑顔を浮かべると、握手を求めるように手を差し出した。


 ソゾンは悔しくはあったが、その敗北は思いのほか腑に落ちて、気付けば握手を受け入れていた。

 まるでこれで良いのだ、これが正解なのだと、何かにそう言われているように。


 けれどそれを自覚した瞬間、ソゾンは激しい憤りを覚え、同時に()()()()()()()()()()()を思い出した。


 決勝戦直前、現れたのが舞翔では無く武士だったことに、ソゾンははじめ愕然とした。

 武士から“舞翔は日本へ帰った”と聞かされ、まるでかけた梯子を外されたような気持ちになり、よく分からない失望感が胸にぽっかりと穴を空けたようだった、のに。

 不思議と直ぐに気持ちを切り替えることが出来た。

 それはまるで最初から“空宮舞翔”など存在していなかったかのような感覚。

 何もかも全てが、夢幻だったかのような、錯覚。


 けれどもソゾンは思い出した。


 夢でも、幻でも無い。

 ソゾンの脳裏には、舞翔との記憶がしっかりと焼き付いている。


 例えこの世界がこの結末を望んでいたとしても、ソゾンは、ソゾンだけは、この結末を許せない。


『空宮舞翔』


 気付けば彼女の名を諳んじるように呟いていた。

 その名にソゾンの胸は灼けるように熱くなり、拳を痛いほどに握り締める。


 自分では抑えきれないほどの激情が体内で暴れ出し、痛みと共に舞翔の記憶が浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。


 何故、どうして。この場に彼女はいないのか。


 目の前に立つ武士に舞翔の姿が重なり、ソゾンは知らず内に痛いほど奥歯を噛み締めていた。


 それに、スタジアムを埋め尽くす歓声の中、ソゾン武士だけが気が付いた。


『ソゾン、舞翔のこと責めないでほしい。あいつは俺の為に、決勝を譲って日本へ帰ったんだ』


 そう言った武士の瞳は真っ直ぐに輝いていて、それはどこか、舞翔に似ていて。


 ソゾンは激しく舌打ちをすると、気付けば武士に背を向けていた。

 腹が立った。

 彼女のことを、訳知り顔で言われることも、どこか似ているその瞳にも、何もかもに。


『俺には関係ないことだ』

『あ、おい!』


 だから吐き捨て、ソゾンは歩き出した。


 その背に武士が手を伸ばし追いかけようとしたのを、隣に居たカランが肩を叩き止める。

 戸惑ったように武士がカランを見れば、カランはただ静かに首を横に振った。

 追いかけるなと言っているのだろう。 


 ソゾンは立ち止まる事無く会場を後にして、控室へと戻った。

 分かっていた事だが、ベルガはそこで見るからに激怒した顔で待っていた。


『最後の最後に敗北するなど! 今まで積み上げてきたものが全て無駄になったではないか! この損害、どれほどのものか分かるか!? 貴様らには失望した!』


 ベルガの手が上がる。

 その手がソゾンを打ち付けようとした刹那。


『そこまでだ、ベルガ!』


 士騎とアレクセイが、現れたのだ。

 そこからはあれよあれよの内に事が進んだ。

 ベルガは捕まり、ソゾンやペトラを始めとするエフォート所属の児童は警察に保護され、事実上エフォートは解体となる。

 いいや、なるはずだった。


「ソゾン、入るぞ」


 ぼんやりと回想していたソゾンの部屋に、その言葉と共にベルガが入って来た。

 ベルガは暗い部屋に少しだけ顔を顰めたが、窓際に立ち窓の外を見下ろすと「実に良い景色だ」と恍惚と笑った。


「ふふ、まさかお前が自ら私に頭を下げエフォートへ戻って来るとはな。あの馬鹿な監督のアホ面が思い浮かんで実に愉快だ」


 ベルガは振り返ると、俯いているソゾンを見下ろす。


「もう二度とあの決勝のような敗北は許さん。貴様の体がどうなろうとも“ファントム”は必ず使用してもらう。いいな?」

「わかりました」

「殊勝なことだ、ふふ」


 ソゾンは決してベルガの方を見ようとはしなかった。

 しかしそんな小さなことは気にならないのか、ベルガは窓の外の景色を再び満足そうに見つめる。


「しかし、警察如きで何とか出来ると本気で思ったのなら奴等もおめでたいことだ。私にはファントム社という後ろ盾があるというのに! そうは思わないか? ソゾン」


 その言葉通り、ベルガを救ったのはファントム社だ。

 士騎を出し抜いたことがよっぽど愉快ゆかいだったのか、ベルガはいつにも増して饒舌だ。


「私こそが誰よりも上手くバトルドローンを使い金を産むことが出来る! 金があれば全てを支配出来る、警察を丸め込むことも容易いことだ。それをBDFはこんなに金の成るビジネスを子供のためだと無価値におしやっている。奴等の考えこそが間違いであることを証明してやらねばな。奴等の穴の開いた顔を思い浮かべるだけで、ふふふ、あぁ愉快だ!」


 そうして言うだけ言って、ベルガは出て行った。

 静かになった部屋で、ソゾンはゆらりと顔を上げる。

 ベルガの見ていた街を、ソゾンもまた座ったままぼんやりと見やった。

 エフォートに拾われる前、家の無い子らで身を寄せ合い、いつだった遠く見つめていた、温かな街の光。


「金、か」


 この街の明かりのどこかに、舞翔が居る。

 ソゾンは立ち上がり、窓の外を見下ろした。


「そうだな。俺も日本へ来るためにベルガ、貴様を利用させてもらった」


 全てを賭けて、ソゾンはここに居る、それなのに!

 ソゾンの拳に自然と力が入る。


――せっかくだけど、私はもうバトルドローンは辞めたので。


 スーパー浦風、ソゾンはそこで()()()()()()()()()()()()()()()()

 いいや、聞こえてしまった。


「バトルドローンをやめただと?」


 ぎりり、奥歯を噛み締める。その瞳は怒りに満ちていた。


「空宮舞翔、貴様は必ず俺が引きずり出してやる」




※・※・※・※




 バトルセレモニーへの招待状、そこに記されていた舞翔の名をキリルが口に出した途端、カランと武士が明らかにぎくりと体を揺らした。

 その様子に、全員がいぶかしげにBDFチームを見やる。


「まさか、舞翔さんにこのことは?」


 切り出したのはアレクセイだ。

 士騎は少しだけ困ったように眉を下げ、けれども黙っている訳にもいかないと判断したのか、小さく息を吐いて口を開いた。


「もちろん、彼女もBDFチームの大切な仲間だ。けれど」

「俺は反対だ、これはただのバトルじゃない。こんな危険なことに彼女を巻き込みたくない」


 きっぱりと断言したカランに、その場に居る全員が沈黙した。

 カランの言っている事は独善的だがもっともでもあり、チームメイトでは無いキリルやアレクセイ、ペトラでは是非を問い難かったのである。

 士騎はカランに賛成らしく、「そういうことだから」と書類をまとめ話を終わらせようとした。

 その時だった。


「だけど俺、やっぱり舞翔に直接聞いてみるよ」


 武士が、口を開いた。


「武士!」


 すぐに反応したのはカランだ。

 立ち上がり、目を見開いて武士を見下ろす。

 対して武士はカランの金色の瞳を真っ直ぐに見据え、いたって冷静に答える。


「だって、行くか行かないか決めるのは舞翔だろ」


 しんとその場が静まり返った。

 カランも士騎も武士の言葉に言い返すことが出来ずに押し黙る。

 武士は落ち着いていた。

 けれどもその青く光る黒い瞳は、とても強い意志で輝いているように見える。

 まるで彼の言う事が最も正しいと証明するかのように。 


「でも、なんか俺避けられてるみたいで、会えないんだよなぁ」


 しかし、張り詰めた空気は直後武士本人がそう言って項垂れることで霧散した。


「それは、そうだろうな。あんな別れ方をしたんだ。俺だって本当は死ぬほど会いたい! 会いたいが、彼女の気持ちを思うと軽率に会いに行くことは出来ない」


 言いながらカランも椅子に座り直し、がっくりと肩を落とした。

 知らず緊張していた一同はBDFチームのその様子に思わずほっと一息吐くと、改めて武士達を見やる。

 武士もカランも見るからに悄然として、見ている方が悲しくなってくるほどである。


「あ、あの」


 そこに、おずおずとキリルが手を上げた。


「それじゃあ、オレが行きましょうか?」


 その発言に武士は瞳を輝かせ、カランはあからさまに嫌そうに眉を顰めた。


「お二人は色々あって気まずいみたいだけど、オレなら舞翔も会ってくれると思うから」

「その自信はどこから来るんだ?」

「はーいはいはい、ひがみやっかみは格好悪いぜ王子様」


 明らかに威嚇するような表情でキリルをじとりと見やるカランに、ペトラが突然割って入った。


「何だお前は!」

「ん~? まあちょっと、俺も一緒に行こうかと思ってね」

「は!?」


 ペトラの発言に、武士以外の全員が素っ頓狂な声を上げた。

 当の本人のペトラは余裕の様子で、相も変わらず眠そうな半目に眉は大きく弧を描き、黒子ほくろの印象的な口元は何処か愉快そうに口角を上げている。


「元リーダーからの伝言もあるんでね」


 そして投下されたその爆弾発言に、キリルとカランが同時に「はぁ!?」と立ち上がった。


「ソゾンから!?」

「どういうことだ!?」


 キリルとカランがわめき立てる中、ペトラは「さーてね」と然も愉快そうに微笑んだ。

 そしてその様子を焦って見ていたのは、カランだけでは無かった。

 士騎が難しい顔で眉根を寄せていたのである。

 そしてそれを、アレクセイだけが静かに見つめていた。


 まるで何かを、訝しむように。



主人公が出て来ないターン!!!


色々とブラッシュアップ中ですが、こうしてここまで読んでくださっている皆さまには感謝しかありません!

もっともっと楽しんでもらえるように、最後までブラッシュアップしながら突き進みたいと思います!


完結まで、今しばらくお付き合い頂けたら嬉しいです!


読んでくださる皆さまのおかげで頑張れています!

感謝感激雨嵐です!!!!

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