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004:隠れたら捕獲

捕獲。

それは動物などを捕らえる、いけどること。


・・・・・


黒い光沢のある平べったいボディ。

前方を探るように忙しなく動く2本の長い触覚。

苔の絨毯を猛スピードで疾走していたその姿は私の見覚えのある虫に似ていた。


「でかい」


思わずそう呟いてしまう程にそれは巨体だった。

外壁の上から隠れて見ているのに地上を走るその姿が完全に分かる時点で私の知っている虫の大きさとは比較にならない事だけは確かである。


異世界では馬車を引くのは巨大なゴキブリらしい。

この場合は馬車よりも虫車と言うべきか。

ゴキブリの大きさと言ったら…背後の荷台の2回り以上大きいのではないだろうか。

ゴキブリが牽引する荷台自体も小さくない。

大型のバス程はあるだろうか。

ならばそれを牽引するゴキブリは象の大きさをゆうにこえているだろう。

前世の私は虫が苦手だったようであのゴキブリの殺し方しか思い浮かばない。

あの大きさじゃ踏んだり叩いたりしても殺せないと思うが。


向こうも私が今いる二周目の外壁が見えたのだろうか。

まだまだ外壁から距離がある位置で止まっている。

虫車を操縦していたらしい生き物もちらほらと出てきた。

荷台の大きさからしてまだ入っているだろう。

もしくはなんらかの道具が積んであるかもしれない。

生き物はパッと見で灰色だが遠過ぎて服か皮膚の色か分からない。

外壁の上からでは、はっきりと分かるゴキブリの大きさと比べてまるでゴマのような小ささだ。


「アレは何?」


一応、魔本に問いかけてみるが開く様子は無い。

予想していた事だがやはり植物以外は反応しないか。

望遠鏡でもあれば生物の姿を確認できるがそういった道具は作っていなかった。

作り方が分からないし、植物だけで作れるとは思えないからだ。


しかし…この状況で思い浮かぶ手段が皆殺しなのはいかがなものか。

前世の私はよほど苛烈な人格だったのかもしれない。

もしくはゲームの影響か。

侵略者、防衛戦などの言葉と共にゲームのタイトルがチラリと浮かぶ。


しかし、これから本当にどうするべきか。

様子見するにしてもこの場では草木が凍る夜を明かすなど自殺行為も同義だ。

対して向こうはこの世界の住人であるから凍てつく夜を越える術を持っているだろう。


夜を越す準備自体は簡単だがあちらに気付かれれば攻撃してくるかもしれない。

魔法のある世界だ。

火の魔法なんてざらにあるだろうし遠距離攻撃なんて魔法の得意分野であろう。

この外壁ごと焼き尽くされても困る。


似たような理由になるが先手を打つのも反撃される事が怖いからやりたくない。


様子見も攻撃もダメならば撤退すべきかと判断に迷っていたからだろうか。


「うん!?」


突然、身体が何かに挟まれたかと思ったらそのまま全身を覆われてしまった。


「お?」


さらに私を覆った何かはどんどん狭まっていき私はただ身体を縮こめるしかできなかった。

手足を折りたたみ胎児のような丸まった体勢になるとようやく止まりそろそろと背後へと引っ張られてユソウボクの外壁から離されゴキブリの方へと引き寄せられていた。

何かに覆われている感覚はあるが触れているはずの箇所には何も触れた感触はなく、見渡しても何かあるように見えない。


急だったから変な声を出してしまったが落ち着いて考えてみれば何かしらの魔法であろうと予測が立てれた。

記憶の中で思い当たるものとしては空気や空間などを操る魔法だろうか。


既に私はあのゴキブリに乗って現れた者達に見つかっていて魔法で囚われてしまったようだ。

丸まった姿勢から身動きが一切できない。

せいぜい首を横にふるぐらいしか動かせない。

これはもう抵抗しても逃げられそうにないから大人しくしておこう。


数分の不恰好な飛行を体験して、ゴキブリの後方にある荷台まで運ばれた。

そこには灰色の謎の箱が準備されておりその中へと入れられてしまった。

箱の蓋を閉められたら身体の自由は戻ったが箱の広さはギリギリ座っていられる程であまり身動きできない。

明かりは無く、壁に耳を当ててみたが外の音も聞こえない。

あとは触った感じ私の力では壊せそうにない。

脱出は無理そう。


どうやら私は何も抵抗もできずに囚われの身になってしまった。

まさか前世の記憶の対応が正解だったとは思いもよらなかった。


しかし収穫はある。


まず、彼らが灰色に見えた理由はフード付きのローブがその色だったからだ。

全員、同じように頭から足先まですっぽり隠せる灰色のローブを着ているが体型がバラバラなのは色々な種族が居るからだろうか。

顔や手足の先は黒い布のような物で覆われて見えなかったが明らかに人とは違う形だった。


つまり彼らは種族を超えた文化を作り上げている証拠だ。

私と仲良くなれる可能性はある。

果物でも出せばいけるかもしれない。

文化的な接触ではなく一方的な今の扱いでは期待が薄まりつつあるが諦めてはいけない。


それと運ばれていた間、何も聞こえなかった。

私を運んでいた魔法に音を遮断する効果があったのかもしれない。

せめて彼らの言語でも聞けたら良かったのだが。


不幸中の幸いで服や荷物が取り上げられなかったから魔本やナッツ類も手元にある。

この暗さと狭さではカゴから出せないし読めないから意味はないが取られるよりはマシだ。


とりあえず、今はお腹は空いてないし寒くもない。

何もできないのだから寝ていよう。

彼らがなにかするまで私にできそうな事はなにも無いのだから。

体力と気力の温存をしていた方が良いだろう。


…隙があれば逃げよう。


私は現実を見ないようにそっと目を閉じた。

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