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002:食べたら建築

味覚。

それは五感の一つで味を認識する感覚。


・・・・・


私の知っているミカンは瑞々しく甘酸っぱい美味しい果実。

しかし、今口にしているミカンには味がなく、爽やかな柑橘系の香りもしない。

ブニブニとした食感と噛んだ時に溢れる液体の感覚

しか分からず不味い。

喉の渇きは癒せたが美味しいには程遠いミカンだった。


原因はなんだろうか。

能力による促成栽培だろうか。

もしくは岩肌しかない環境だろうか。

はたまた私のイメージ不足なのか。

甘酸っぱいミカンを想像しながら木に触れて作っても同じように不味いミカンしかできなかった。

少なくともイメージで味に変化は無いようだ。


とは言えこれで食糧に関しては目処が立った。

不味くても食べる事ができるならばそれで良い。

味の問題は今後の期待としておこう。

改良で味はどうにかなる事を期待しよう。


衣食住のうち食には問題がない。

となれば次に取り組むべきは住、つまりは家だ。


倒れたミカンの木を更に生長させ枝や葉を生い茂らせて人一人が入れる小さな木陰を作った。

暑い日差しを避ける為に入ったは良いが…今度は寒い。


岩肌もずっと日差しを浴びているはずなのに触れてもあまり熱くない。

それどころか、木陰で日差しを防いだ岩肌は驚く程冷たい。

つまりこの足元にある岩は熱を逃しやすい性質なのだろう。


もしこのまま唯一の熱源である日光が無くなれば私は極寒の中で夜を過ごす事になってしまう。

さすがに最初の夜で凍死しては守ってくださった天使様に申し訳が立たない。


それに気温以外にも外敵から身を守る上で家は必要だ。

なんせ私が今居るここは魔法のある世界だ。

地球には存在しない化け物だって居てもおかしくはない。

こんな岩肌しか見えない荒野にも危険な生物が居るかもしれない。

ゴブリンとかスライムとか。

たとえ地平線の辺りまで遮るものが何も見えない荒野だからと言って防衛力を疎かにする訳にはいかない。

襲われた後では遅いのだ。


さて、どんな家を創るべきか。

まず私の腕力はさほど強くない。

試しに倒れたミカンの木を起こそうとしたが無理だった。

幹は私の腕と同じくらいのだからいけると思ったのだが想像していた以上に重かった。


つまり丸太を組み上げてログハウスを創る事は無理だ。

労力を解決できても組み方が分からないのだから意味はないけど。


だが私には天使様から与えられた能力がある。

植物に干渉できるのならばどうにかできるかもしれない。

先程の木陰を作った際に枝や葉を私が思った通りに生い茂らせる事ができた。

つまり、ただ生長させる以外にも私の望んだ形にする事もできるのではないか。


まずは小さいものから試す事にする。

そう、さきほど剥いたミカンの皮だ。

とりあえず立方体が作れるか試してみよう。


「…あれ?」


何も変化が無い。

原因は分からないが今は家を建てる事を優先しよう。

考えるのは後だ。


次にミカンの木に触れ立方体に形を変えられないか試す。


「…おぉ」


木陰を作った時のように私のイメージ通りに幹の形が円から角ばっていき…歪な形になった。

枝や根はそのままに幹だけが形を変わっている。

更に縦、横、高さがそれぞれ違う為、立方体ですらない。

形を揃えようと大きくし続けてしまったからだ。

最初は私の腕ほどの太さしか無かったのに今では私の目線より少し上まで大きくしてしまった。

私は私が思っていたよりも不器用だったらしい。


これでは積み木のように家を組み立てようと思ったがこうも歪な形では重ねた時に隙間や最悪の場合、崩壊しかねない。


やり直そうとミカンの木に触れたが元に戻らない。

能力では生長は促せてもその逆は無理なのかも。


能力の新たな一面を見つけた事は良いが家はどうしよう。

私の不器用さでは家は無理な気がしてきた。


とりあえず暖かい寝床を作る事に集中しよう。

木の寝床と言えば虫や小動物の巣だろうか。

木の穴のアレだ。

名前は分からないがアレを再現できれば良いかもしれない。


「…穴が空かない?」


残念ながら私の能力では木に穴を作れないようだ。

ならば生長させてそれらしいものを作れば…


作り始めてから何時間経過しただろうか。

既に日が地平線に沈みかけ、辺りの気温はすっかり冷え切っている。

目の前には奇妙と言わざるを得ない塊が一つ。

車が4、5台は入りそうな巨大で緑色の凸凹の塊に人が這えばようやく入れそうな穴が一つ。


これが私の今日の寝床だ。

大きさは形を整える為の経過でこうなった。

緑色なのは木の皮が素肌に当たって痛いからアラハシラガゴケという苔を生やしたからだ。

チクチクモサモサとあまり肌触りが良いとは言えないけれど硬い樹皮よりはマシ。


木の穴から身をよじりながら這って入り、少し傾斜を登ると体の向きを変えられる程度の広さと暖かい空気が私を迎えてくれる。


なんと驚きな事に魔本で調べると発熱する植物があったのだ。

それが天井からぶら下がっているザゼンソウという奇妙な形をした花だ。

花の割には匂いが全くなく、小豆色で楕円形という花とはとても思えない姿だがこれのお陰で木の中は大変暖かく過ごしやすい。

木の穴を苔で覆えば外から見れば分からないはずだ。


下には苔とは別にミカンの葉を大量に取って敷き詰めている為、寝転がっても肌触りはともかく痛くはない。

既に日が沈みきったのだろうか。

木の穴を苔で覆ってからは暗くて何も見えず聞こえもしないが暖かく居心地が良い。

少なくとも今日は凍えて夜を過ごす事は回避できたと言えよう。


今後の事を考えながら今夜を過ごすとしよう。


私は一度、死んで新たな世界に来た。

元の世界…地球は既に壊れていて戻る事はできない。

私を生き返らせてくれた天使様も生きる事を応援してくれただけで私になんらかの働きを望んでいる様では無かった。


私はどうやってこの世界で生きようか。

記憶が欠落しているせいか私自身、やりたい事が思い浮かばない。


食べ物に関しては能力でいくらでも作れるから問題は無い。


住居も不器用とはいえこうやって暖かい寝床を作れたのだから時間さえかかれば大丈夫だろう。


………時間か。

暇だし周辺の環境整備でもしようかな。

天使様から授かった能力があれば荒地を森に変える事も可能だろう。

やってるうちに別の事がやりたくなったらそれをすれば良いし。


当面の目標は地平線を緑に変える。

それと服も作ろう。


やる事が決まったからだろうか。

次第に意識がぼやけて私は眠りについた。

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