9、開祖の死 2
「浄如はどう出るだろう」
光如は不安顔で傍らの儀典長の荒巻照代を見た。公的、私的面での助言役を荒巻照代が請け負っている。軍事面は木村朝男参謀長だ。
「先ずは、浄光様の葬儀です。喪主は光如様、当然後継者は喪主の光如様と内外に知られる事でしょう。先ずは、粛々と葬儀を取り行うことです」
「うん」
「浄光様は将来敵対する可能性のある者、身近だった兄弟、そして親までも屠ってきました。その点は、浄如様も承知でしょう。何せ、平気で我が子真如様を差し出すお人ですから。何食わぬ顔をしてますが、その心、氷のように非情です。すでに真如様は捨て駒と思っていると思います。後継車争いの対策は練っているはずです。その点は、慎重にやらないと」
「真如か・・・・」
光如は、むずがゆい顔をした。
真如は浄如と謀殺された浄光の弟、悌如の娘、信如との間に生まれた6歳の男の子だった。光如への忠誠の証として差し出されて、今は光如の養子となっていた。
無邪気な真如を見てる時、思わず頬が緩んでいる時がある。それは、自分でも意外だった。
「浄如様、伸如様がおむずかりのようで、いかがいたしましょう」
浄如は一瞬イヤな顔をしたが、すぐにそれを打ち消すと「橘はどうした」と言った。
「はっ、所用で雑貨店に」
「すぐ呼び戻せ。代わりに誰かをやらせろ」
「はっ、直ちに」
浄如は伸如が苦手だった。3歳の女の子というのもあるが、我が子ではないという複雑な思いもある。
伸如は信如が真如を人質に差し出す時、一緒に付いていって、その時光如に犯され妊娠して出来た子だった。父を浄光に殺され、浄光の子浄如の愛を受け妊娠、出産。その愛息を浄光の子光如に奪われ、そして光如に犯され、又、子を産んだ。濃い血の中で翻弄された信如は、一切を放棄し尼寺へとはしった。
代わりに、伸如の面倒をみているのが侍女の橘瑛だった。伸如は、なぜか橘瑛にだけはなついでいる。
そして、シン如ばかりで区別が付かないので、信如は母様、真如はシン様、伸如はノブ様と呼ばれていた。
「伸如か・・・・」
今は光如の手にある我が子『真如』、尼寺に去った『信如』そして今は自分の手の内にある光如の子『伸如』。
浄如は『伸如』という変数が、今後どう作用するかを考えていた。