7、女御大付属軍学校
塗手金玉の名前の秘密が明かされます。
女御国に、士官候補生の学校ができる事になった。当分は女御大学の一隅の仮住まいとなる。その校長に、総参謀長の塗手金玉が就任することになった。
「俺でいいのかな」
塗手は、少し煩わしそうだ。
「あなたしかいないですよ」
「う~ん」
「塗手さんが直接指導しなくとも、指導教官を見てるだけでいいのよ。楽じゃない」
「いや、そうでもないよ。ところで、珠子がそこに留学するんだって」
「そうらしいわ。会えるのが楽しみだわ」
「う~ん、珠子はわがままで、気が強くて、気分屋で、何を考えているか分からん女だぞ。ん、そうだ。破魔娘さんとそっくりだ」
「私ってそんな女。でも、気が合いそう」
5月15日、正式に『女御国軍学校』が発足した。
自薦他薦の20名の生徒が校庭に集まり、女御国幹部、羅漢国幹部の注目のもと整列していた。女が12名に男が8名、女御国らしい男女比だ。
塗手が登壇した。
「諸君、おはよう。僭越であるが壇上から女御国、羅漢国の代表の方々を紹介しよう」
塗手が次々と要人を紹介した。
「挨拶は無しだ。どうせ話しをきいても、すぐ忘れるだろ」
生徒は笑い、代表たちも苦笑していた。
「女御国、羅漢国の命運は君たち選ばれた者の双肩にかかっている。これから、厳しい修練が始まる。皆、身命を賭して励むよう。皆、宿舎に戻り、整理、準備に掛かってくれ。健闘を祈る」
学生たちは、一列に並んだ要人たちの握手と励ましの言葉を一人一人受けながら、宿舎へと戻って行った。
学生は全員寮生活となる。男女の寮は全部個室だった。
珠子が寮室を掃除してるところへ、破魔娘が訪ねてきた。
「こんにちは。珠子さん」
「あっ、総司令・・・・さま」
「よろしく、珠子さん。総司令はイヤだな~、破魔娘でいいわ」
破魔娘が微笑みかけた。
「そんな、畏れ多い。破魔娘さま」
「うふふふ」
「珠子と呼んで下さい」
室内は雑然としていた。
「むさくるしいでしょう。今、掃除してるところです」
「ほんと・・・・あははは」
「はははは」
伝説の淑女といわれているわりには、ひどくざっくばらんな人だと珠子は思った。
破魔娘はいったん廊下に出ると、お茶セットを持ってきた。
「そんなことは、私がやりますよ」
「いいの、任せて。私は侍女にかしずかれて暮らしているのじゃないのよ」
「へ~、そうなんだ~」
「へ~って、どう思っていたの」
「どうって、大勢の侍女にかしずかれて、箸の上げ下げから、おめし代えまで全部侍女任せで暮らしていると」
「バカおっしゃい。今時そんなのないわ」
「はあ」
「あははは」
「はははは」
「ところで、お兄さんのことなんだけど」
「はあ、金玉兄にことですか」
「ぶぶっ!」
破魔娘がお茶を吹いてしまった。
「そんな風に呼んでるの」
「あは、まさか、表では『お兄さま』と呼んでます」
「ふふふ、そうなの。その金玉兄のこと、よくわからない事が多いの。教えてくれる。何でもいいのよ」
「金玉兄のことね。で、いいお嬢様が金玉、金玉言うのは、どうかと思うな」
「何言ってんの、金玉、金玉言ってるのは、あなたでしょう」
「若い身そらで、金玉、金玉言うのは、よしましょう」
「そうね」
「はははは」
「あははは」
若い身そらで不適切な単語の連発は、いかがなものかとの認識に至ったようだ。
「そもそも、なぜ金玉・・・・いや、金玉なの」
「それはね、祖父、おじい様が『三四郎』といったの」
「わあ~、かっこいい」
「そう、かっこいい名前を貰ったおじい様は、そうとうプレッシャーがあったと言っていたわ。かっこいい名前に合わせるようかなりムリして頑張った、とも。で、父が亀吉」
「亀吉⁉」
「おじい様は我が子に名前で余計な負荷を掛けまいと、庶民的な名を付けたのよ」
「三四郎の子が亀吉。違和感あり過ぎ」
「父も、釈然としないものを持っていたみたい。小学生の頃、友達を家に招待したらびっくりしたと言っていた。貧乏人の子と思われていたみたい。それが、豪壮な家だし。友達は『ひょっとして、カメって貰いっ子なのか』と真顔で聞かれたそうよ」
「うん、そうなの~」
「それが、あるかどうか、我が子に『金玉』。そうとう、歪んでしまったのかしら。屈折しちゃったのかなあ。その兄は小学生のころ、名前でそうとうからかわれていたみたい。一度『何で、金玉何だよ』とくって掛かったそうよ。そうしたら『自分の名前を金玉と崇高なものにするか、金玉とゲスの呼称に甘んずるかは、自分の行い次第だ。悔しかったら、自分で金玉と崇高なものにするがいい』と言ったって」
「そうなの~」
「それからは開き直ったみたい、金玉目指して頑張った。その点だけは、尊敬してるわ」
「うん」
ちっとも、ファンタジーっぽくないなあと思っております。(反省!)
そもそも、ファンタジーってなんなのでしょう。(迷)