4、軍事会議
笠原浄光宮殿、第一会議室で笠原浄光教主臨席のもと、軍事会議が始められていた。
正面には大きな机があり、その後ろに車イスを半分倒した状態で座る浄光がいた。不摂生が祟り、糖尿病が悪化して目がかすんでよく見えないらしい。
その傍らに、第一皇女の満如と伝説の参謀長といわれていて、現、笠原浄光国軍事大学校の校長、笠原浄光国軍事顧問の宇佐美貞夫が座っていた。現、将校の殆どが、宇佐美の弟子たちである。
右側には、光如、木村参謀長、各士官。
左側には浄如、小島参謀長と士官たち。
真ん中には女御国、牛の腹全体の大きなジオラマが据えてあり、その上に女御、羅漢国連合軍の本隊、第一隊、第二隊、第三隊、第四隊、と黒い凸形の木型が置かれてあった。
そして、骨山を背に本営、遊撃隊、第一隊から第六隊までの凸形の白い木型が置かれてあった。
「ジオラマ長、説明を」
「はっ」
ジオラマの傍らにしゃがんでいた黒子の一人が敬礼をして立ち上がり、メモを手に指示棒で両軍の真ん中を叩いた。
「四月二十三日、午前六時戦闘開始。と、同時に連合軍第一隊騎馬五百光如軍第四隊に突入する」
黒子の一人が連合軍の1キと書いてある凸型の一つを、光如軍の4と書いてある凸型まで移動させた。
「続いて第一隊の徒士隊が第四隊に突入。第一隊、騎馬隊は第五隊に突入した後、自軍に戻る」
時々刻々と変わる戦況を、ジオラマを使っての説明がなされていた。時々刻々と連合軍の凸型は、渦巻きとなって光如軍本営に肉薄。それに蹴散らされるように、光如軍の凸型は乱れ4と書かれた凸型は反対方向に向き、その後取り外されてしまった。その後はすべての凸型は、軍の崩壊、潰走を示していた。
「こんな説明がいるのか!」
光如が悲鳴をあげた。敗戦の模様を立体的に具現、晒されているのだ。屈辱以外のなにものでもない。
「こほん。負け戦だからこそ、きちんとした検証が必要なのじゃよ。何が足りて何が足りなかったのか、配置は良かったのか、事前の情報は十分だったかなど、どんなにイヤなことでも屈辱的なことでも、詳細な検証をしなければならない。これは、必要なことですぞ。それを怠れば、同じ轍を踏むことになる」
伝説の参謀長、軍事顧問の宇佐美貞夫の言葉は重かった。
目を瞑っている浄光教主も、ゆらゆらと頷いていた。教主の、浄光国をここまで大きくしてきた元参謀長への信頼は厚かった。
「浄如様の軍はどうしていたのか」
木村、光如付き参謀長が叫んだ。予定では、光如軍と浄如軍で挟み撃ちするはずだったのだ。敗戦の一端は浄如軍の未着にあるのだ。
「ここ、牛の尾で膠着状態になっていました」
ジオラマ長が、牛の尾に対峙する凸型を指した。
「どういうことだ」
「はい。ここに展開する佐伯連合軍は、4月20日にはすでに塹壕を掘り、櫓や柵を設け防御一辺倒に徹していました」
「防御に徹した敵を破るとなると、多大な損害になる。それで、敵を引きずり出そうと、いろいろとやったのだが、敵はまったく乗って来なかった。それに、光如軍は敵の三倍。まさか、負けるとは夢にも思わなかった」
浄如付き小島参謀長が木村参謀長を見て、しれっと言い放った。敗因は、木村参謀長の作戦ミスだと。
「くそ~」
木村参謀長は、真っ赤な顔で屈辱に震えていた。
「要は敵の作戦が優秀だった、ということかな。敵の将は何者かな」
「お手元の資料に」
「なに、なに、総司令官、満地破魔娘。総参謀長、塗手金玉。金玉にマ○コか強力なコンビだな」
「あははは」
「あははは」
「あははは」
会議場は爆笑に包まれた。ちょうどお茶を運んで来た女給仕の一人が、『ガチャン!』と盆ごととり落としてしまって、慌てふためいている。
「先生、金玉です」
満如がイヤな顔でたしなめた。満如も初見の人に『満如様?』と聞かれることがある。その度に『満如です』と訂正するが、何でこんな紛らわしい名前を付けるのか・・・・。
満如は父、浄光を睨んだ。
「その金玉にやられたのか」
「金玉ですってば~。先生」
「先生、先生が総参謀長になって指揮をとってくれんかな」
珍しく教主、浄光が発言した。誰もが納得する、誰からも文句のでない人選と思えた。
「いや、待ってください。参謀は激務です。知力、判断力、洞察力など膨大な情報を収集し、果断に判断し、行動する。それを支えるには、強靭な体力が必要なのです。この老体には、その体力が残っていません。将棋士を考えればいい。老人の第一線戦士はいません。
それは総合的な知力、胆力は、体力が必要とされているからなのですよ」
「ううむ」
浄光は唸った。