18、鉢伏山 1
「雨の日は、水やりが無くて楽だな」
「あら、そんな重労働には見えませんけど」
「気分的に楽なんだ。何かズルしてるみたいで」
「ふふ、そうなの」
塗手と伸如は、庭や棚が見渡せる東屋に居た。
「ああ、来た来た」
侍女が、紅茶のセットを持って現れた。
「紅茶が好みと聞いたんでね。さっ、紅茶を飲みながら庭木をのんびり眺めるのも、いいもんだぜ」
侍女は去り、塗手自ら紅茶をカップに注いだ。
「ありがとう」
伸如は、一口飲んでジッとカップを見つめていた。
「どうした」
塗手が見ると、ポタリとしずくがカップに落ちた。
「母さんが・・・・・」
後は、言葉にならなかった。堰を切ったように、涙がポタポタとこぼれ落ちた。
紅茶には、母親との懐かしい思い出があるらしい。
「ここは、誰も来ない。好きなだけ泣くといい」
伸如は塗手の腿に顔をうずめて、声を上げて泣いた。
3歳児というのに、大人びた姿ばかりが目立つ伸如だが、それ相応の子供らしさに安心したと同時に、塗手には痛ましさが胸をえぐった。
―次の日―
「おっはよ~」
珠子が顔を見せた。
「おはようございます」
「おはよう。珠、日曜空いてるかい。日曜日に伸ちゃんと鉢伏山に登るんだけど、どうだい。一緒に行くか」
「うん、行く」
「そうか、今は、五葉ツツジが咲いてきれいだぞ。弁当持ちだ。頂上で昼飯を食おう」
「そう、楽しみだわ」
―日曜日―
塗手、伸如、珠子は、馬で標高5百m程の山が連なる低山群の中の鉢伏山の麓に着いた。
「やあ、権じいさん、しばらく」
「塗手の旦那、久しぶりです」
山の麓には、権じいが待っていた。
「おや、かわいい嬢ちゃんだ。旦那のお子さんで?」
「いや、残念ながら違う」
「ん、そうすると珠子さんのお子?」
「残念ながら、違うわ」
「伸如といいます。お世話になります」
伸如のしっかりした物言いに、驚いた権じいの顔がみるみる不快に歪んでいった。
「じいさん、伸如は確かに笠原のゆかりの者だ。だけど、笠原国の犠牲者でもあるんだ。伸如はこの歳で笠原国から逃れてきたんだ」
「ご迷惑をかけております。すみません」
「いや・・・・」
権じいは、改めて驚いた。
「いや、嬢ちゃんを責めるつもりはないよ。その歳で責任があるわけじゃない。
それに、塗手の旦那のなさることだ、我らは信頼している」
「ありがとう。馬をよろしく頼むよ」
「へい、お気を付けて行ってらっしゃい」
いよいよ『女御国の攻防 2』大詰めです。
後、2話ぐらい。




