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16、伸如と塗手と珠子

 伸如は、とびぬけた天才だった。力こそ、ヒエラルキーの源泉というべき小学校の低学年で、誰も伸如にちょっかいを出す者はいなかった。異様なオーラを放つ伸如に、教師はおろか軍の士官や国の役職の者たちも遠慮がちだった。

 そんな伸如は教室では、3歳児とも思えぬ端正な姿勢で授業中も何やら帳面にびっしりと字を書いている。それを見た者は、授業の主旨、問題の要点、話しの進め方、次なる課題などがあって、とても小学生のレベルではなく、考え方は教師のレベルだと驚愕した。

 そんな伸如は、毎日のように塗手の植木場に顔を出して楽しそうに話しをしている。

そして、授業が終わると方々見学して、橘瑛の待つ官舎に帰る。

橘の話しによると、伸如は人が変わったように明るくなり社交的になったという。



 塗手がその事を聞いたことがあった。それによると、


「私は病弱で、いつも悪心が絶えなく苦しかった。人と口をきくのもおっくうだったの。人はそんな私を、気難しいとか、陰気だとか、偉ぶっているとか、陰で面白くないとか言っていたみたい。ほんとはね、か弱い病弱な子でほんとに内気だったの」


「ほほう、そうだったのかい」


「ふふ、そ~なの」


「今は、良くなったのかい」


「うん、自分でも不思議。ここの水が合ってるみたい」


「うん、それは良かった」


塗手は、目を細めて伸如を見た。



「おはよ~」


「おう、珍しい。(たま)じゃないか。おはよう。今日は、どうした」


「おはようございます」


「おはよう、伸ちゃん。今日は、棒剣術の朝練なの」


「そうか」


「伸ちゃん、私、知ってる?」


「知ってます。塗手先生の妹さんで、塗手珠子さん。美人でモテモテ、言い寄る男ども大勢。成績中の上。性格、明るく活発。みんなの人気者」


「ふふふ、よく知ってるわね。うん、美人って罪作りなのよね」


「おい、美人は、自分から美人とは言わないものだぞ」


「分かってないわね~、身内だから本音で言ってるの。人前で私は美人なんて、そんなはしたないこと言わないわ。奥ゆかしくしてます。それに、伸ちゃんなら何を言ってもいいような気がする」


「ありがとうございます。それに、橘瑛のこと気にかけてもらって、ありがとうございます」


「うん、どっちが保護者だか分からないな~。はははは」


「ふふふ」


「あははは」


「それに、瑛さん阿郷さんのこと好きみたいよ」


「そういえば、良く阿郷さんの話しが出て来るわ。そう~瑛がね~。瑛にも春が来たのか~」


「でもね。阿郷さんモテるから、ライバルは大勢いるよ~」


「う~ん」


「珠、朝練はどうした。遅刻するぞ」


「いいの、遅刻したら『参謀総長に呼び止められた』と言えば、誰も何も言わないわ」


「あまりワシを、ダシに使ってはイカンぞ」


「またね」


珠子は、速足で去っていった。



 ―次の日―


「おはよう」


「おはようございます。珠子さん」


「あれ、今朝は金玉(きんたま)兄は休み」


「ええ~、き、金玉(きんたま)!」


「あれ、兄貴の名前知らないの」


塗手金玉(きんぎょく)でしょう」

「うん、でも普通に読めば金玉(きんたま)。だから金玉(きんたま)兄」


金玉(きんたま)・・・・いや、金玉(きんぎょく)兄さんは羅漢国へ出張です」


「金玉兄、出張かあ」


「珠子さん、うら若き乙女が金玉、金玉言うのはいかがかと、思いますが」


「ええ~、伸ちゃん3歳だよね。ほんとは90のばあ様が3歳児の皮を被っているのじゃないの。信じられない~」



「おはようございます。楽しそうですね」


阿郷が顔をだした。


「あっ、阿郷さんおはようございます」


「おはようございます。珍しいですね。また、なぜ・・・・。ははあ、金玉兄に頼まれたのね。そうでしょう。密に伸ちゃんを見守るようにと」


「あは、金玉兄はまずいよ。珠子さんには適わないなあ。その通り、隊長に頼まれました。見守るようにと。笠原にもここにも、どこにでも分からず屋、馬鹿はいますからね。百人いれば、必ず一人や二人馬鹿がいます。だから、気をつけないと」


「お気遣い、ありがとうございます。阿郷さん」


「はっ、どういたしまして」


阿郷は、信じられないという顔で珠子を見た。


「信じられないでしょう。90歳のばあ様が3歳児の皮を被っているみたいでしょう」


「うん、その通りですね」


「あのね~、私をバケモノみたいに言わないで欲しいんだけど」


「あははは」


「はははは」


「ふふふ」



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