15、伸如と塗手
「おはようございます」
「おっ、おはよう。伸ちゃん、学校はどうだ。馴染めそうか」
塗手が植木の水やりをしていると、信如が後ろにいた。
「はい。皆さん、良くしてくださってありがたいです」
「ふふふ、大人だね~。伸ちゃんなら、大丈夫だろう。ふふ、小学校の教科じゃ物足りないのじゃないかね」
「うん、いや、学ぶところが多いです」
「遠慮することはないよ。能力のある者の芽を、摘んではいかん。飛び級を進言しとくよ」
「ありがとう。嬉しいわ」
「うん」
「ところで、その不思議な形の葉は何なの」
伸如は、塗手の如雨露で水やりしている平たく丸く散開している、密集した小葉の植物を指さした。
「これはね、イワヒバというんだ。葉っぱがヒバの葉に似てるだろ。だからイワヒバ」
「ふ~ん。で、花とか、実は成るの」
「いや、イワヒバは花も咲かなきゃ実も成らない」
「えぇ~ジミぃ~」
「うん、ジミといえばジミかな。葉の形を観賞するんだ」
「うえぇ~、良さ分かんない。年寄りじみてる~。変化がなくちゃ面白くないでしょう」
「変化はある。秋から冬にかけて、寒くなると葉を閉じて丸くなるんだ。暖ったかい時期でも水を枯らし乾燥すると葉を丸め枯れた感じになる。その場合は水をやると元のように、ぱぁ~と葉が開く。冬の場合は、水をやっても元には戻らない。いわば、冬眠するのだな。春先、桜の花が咲く頃雨とともに冬眠から目覚める」
「へぇ~、草のくせに冬眠するんだ~」
「ふふ、草のくせには良かったな」
「何か動物みたい」
「うん、植物もいろいろな性質があって、面白いものだよ」
「この変なものはなあに」
「これはね、ヤブレガサというんだ。柄が伸びて、その先に折りたたんだ葉があるだろ。それが、破れた傘に見えるからヤブレガサ。その葉がぱあ~と開くのだよ」
「へぇ~、シャレた名前ね」
「うん、上手い命名だ」
「また、来ていい」
そろそろ、学校の準備とかの時間があるのだろう。
「うん、いつでもおいで」
「はい」
伸如は駆け出して行った。
次の朝も伸如は来た。
「ねえ、塗手って変わった名前ね。先生は遠い外国の人なの」
「いや、遠い祖先のことは分からないが、名前の由来なら分かる」
「へぇ~、由来って何なの」
「これだよ。ヌルデという木だ」
塗手は、庭の一画に植えられた一叢の木を指した。
人の背丈よりも高いが、見上げる程の高さではない。上の方に葉があるが、柄がやけに目立っていて披針形、卵型の葉が奇数羽状複葉に付いている。一般的な木の型じゃない。漆類に見られる形だ。
「何か変な形の木ね」
「うん、そういえるかな。それが家にあったから、塗手となった」
「花は咲くの」
「咲くよ。8月ごろ、淡く白い円錐花序が上向きに咲く」
「ふ~ん」
「そんな、感動するほどの花じゃない」
「ねえ、普通に咲く、キレイな花ってないの」
「あるよ。これだ」
塗手は、切れ込みのある丸い葉の草を指した。
「トリカブトというんだ。秋口、変わった鮮やかな青い花が咲く」
「それって、毒草じゃない」
「良く知ってるねぇ~。たいしたもんだ」
「名前だけはね」
「トリカブトはね、三大毒植物の筆頭なのだよ。トリカブト、ドクゼリ、ドクウツギのね。
特に根が毒性が強い。人間なんて、一ころだ。
キレイな花にはトゲがある。キレイな花にもドクがある。でもね、トリカブトは附子という薬にもなるんだ。植物って不思議だろう」
「そぉ~ねぇ~、トリカブトの花が見てみたいわ」
「いずれ、見られるさ」




