14、伸如
小競り合いが続き、小さな詰所の守りと奪還を繰り返している最中、不可解で衝撃的で重大な報告が双方にもたらされた。
「伸さまが居ません。行方不明です」
「何だと~、橘はどうした」
「橘も居ません。方々手を尽くして探しているのですが、見えません」
「そんな・・・・橘がそんな図り事をするはずないし、光如に連れ去られたのではないか」
「それが・・・・光如さまの方でも探しているみたいなのです」
「どういうことだ・・・・」
浄如軍は『小競り合い』そっちのけで、伸如の捜索にあたった。
「まだ見つからんのか」
「はっ、八方手を尽くして探しております」
「青厳尼寺、母親の下には本当に居ないのか」
「はっ、居れば分かります。信如母さまも心配なさっております」
「ううむ、何処へ行ったのか・・・・」
光如も、この突発時に戸惑っていた。
伸如の行方は、意外なところからもたらされた。
女御国に潜り込んでいた光如方の探索方が「伸さま、女御国に来ました」と報告した。
その報告は、浄如方にも知られた。
浄如は絶句した。真如を取られ、信如に逃げられ、またまた伸如までも逃げられた。
こちらの持ち駒が、全てなくなった。浄如は頭を抱える思いがした。
「ううむ・・・・」
光如は考え込んでいた。
「橘の図り事でしょうか。それとも、女御国が裏で糸を引いていたとか」
「いや、違うだろう。橘はただの侍女だ。女御国の関与はないだろう。伸だ。伸は想像以上の傑物だよ。おそらく、伸が主導して事を運んだに違いない。信じられない。とても、3歳児とは思えない。やはり、真と伸とを結婚させるべきだな」
「はあ・・・・」
女御国でも、伸如来訪は驚きをもたらした。
笠原家の内情、光如、浄如の兄弟の確執、信如、真如、伸如の関係、満如に宇佐美軍事顧問など、西沢則武元光如付き側人頭からもたらされていた。
その笠原浄光教国主の子供が、侍女一人を伴なって女御国に来たのだ。
当然、来訪の目的を質さなければならない。ただ、相手は要人であり、そして3歳児だ。付き添いは侍女一人。
質す人数は最小限の破魔娘、塗手で後ろに阿郷と佐伯が控えていた。
「こんにちは、良く来ましたね。伸如ちゃん」
「はい」
「え~と」
「あの、一ついいですか」
「うん、いいよ。一つでも二つでも」
「私は伸如、母は信如、兄は真如でややこしいので母は母さま、兄は真さま、私は伸と呼ばれています」
一同は驚愕した。理路整然とした説明。多少たどたどしくはあるが、漢字で信如、真如、伸如と紙に書いたのだ。とても3歳児とは思えない。
「すごいね。漢字が書けるんだ」
「名前ぐらいはね」
「で、率直に・・・・正直に聞くよ。なぜ、女御国に来たのかな」
「母さんと同じ、笠原家の内情は分かっているでしょう。ひどいものよ。養父と実父が争って殺し合いになるわ。そんな、争いの中に居たくない。か、と言って国内ではすぐ連れ戻されるわ。だけど敵国の女御国なら、おいそれと手は出せないでしょう」
「はははは」
「ははは」
「すごい。伸ちゃん、賢いねぇ~」
一同は、改めて伸如の子供らしからぬ聡明さを見た。
「ここへ来たからには、人質でも何でも言う通りします。牢屋に入れられても文句は言いません。どうぞ、すきなようになさって下さい」
「良く言いました。立派な覚悟です。それでは、言います。まず、女御国小学校に入りなさい。幼稚園じゃなく、小学校です。それから、橘さんは女御軍学校に入りなさい。それぞれ別行動になりますが、よろしいですか」
破魔娘は塗手、阿郷、佐伯を見た。三人は頷いた。
伸如は橘瑛をみた。
「いいです。ありがとうございます」
「異存はありません。よろしくお願いいたします」




