13、変事
笠原浄光教国を東西に貫く中央道の沿線に、居酒屋『久遠』があった。
夜の10時、異様に盛り上がっている一団があった。浄如付きの侍女たちであった。
彼女たちは、月一の割合で定期的に居酒屋『久遠』で飲み会を開いていた。
話題は、自然と伸さまの事になる。
「それがね~、伸さまが池の周りを散歩していたら、何かにつまずいて転んだのよ」
「あそこはいろんな木や変な物が植えてあって、危ないのよね~。私なんて木の根っこにつまずいて転びそうになったわ」
「伸さまが転んで池にポチャ、誰かが悲鳴を上げると橘さんがすっ飛んできたわ。それでね、伸さま泣きもしないのよ」
「3歳の子供なのにね~」
「可愛げがないわ~」
「母さまも、逃げ出したくなるわ」
「やっぱり、光如さまの子よね」
「インチキ教祖の子だものね~」
ガタンとイスがなった。
「聞き捨てならん!」
「何という不敬だ」
黒い服を着た一団が、立ち上がっていた。
「詰所に連れて行って、拷問にかけてやる」
「ひえぇ~」
侍女たちが凍り付いた。
「待てよ!」
その時、カーキ色の一団から声が上がった。4、5人が立ち上がっている。
「何の権限があって、しょっ引くって言うんだ」
「貴様ら、インチキ教祖の者か」
「何~」
険悪な空気となった。
亭主がすっ飛んできた。侍女たちはオロオロするばかりだ。
「まっ、まっ、ま、ここは穏やかに」
「オヤジ、引っ込んでいろ」
「まっ、まっ」
「表に出ろ」
光如の者たちと浄如の者たちの、殴り合いのケンカが始まった。
その内、詰所の光如派の軍が駆け付けて来た。多勢の無勢、侍女たちと散々に痛めつけられた浄如派たちは、詰所に引っ張られていった。
知らせを受けた浄如付きの者たちは、光如軍の居る詰所を急襲、侍女たち、浄如派の者たちを奪還した。
光如と浄如は元々仲が悪い。小さな小競り合いがしょっちゅうあった。
今回の騒動は、起こるべきして起こったのだ。
浄如の館には、続々と兵隊が集まって来ていた。光如の新殿にも続々と兵が集結しつつあった。




