1、女御国、牛の腹 1
*満地破魔娘・・・・連合軍総司令官(女御国)
*塗手金玉・・・・連合軍総参謀長(羅漢国)
*笠原光如・・・・笠原国第一皇子
*笠原浄如・・・・笠原国第二皇子
『女御国の攻防 1』をお読みいただけますと、より理解が易くなります。
―女御国・牛の腹―
笠原浄光国の第一軍、通称『光如軍』三万が骨山を背に重厚な布陣を構えていた。
対する女御国、羅漢国連合軍一万がなだらかな丘に布陣していた。
―連合軍本部―
女御国と羅漢国は同盟を結び、侵攻して来た笠原浄光国軍と対戦すべく牛の腹に結集していた。
連合軍本陣には満地破魔娘総司令官、傍らには塗手金玉総参謀長が骨山裾に広がる光如軍の重厚な偉容を見ていた。
「いよいよですね」
「ああ、この戦いで女御国の命運が決まる」
「震えが止まらない」
「ああ、俺も胴震えが止まらないよ」
二人は、厳粛な眼差しで骨山前の陣を見ていた。
―光如軍本営―
「浄如様は間に合いませんでしたね」
「構わん。浄如に手柄を分けてやることもない」
笠原浄光の第一皇子、光如には、負けることなど全く念頭になかった。
予定では、浄如軍2万が女御、羅漢連合軍の側面を突く予定だった。その浄如軍は、まだ到着していない。
「いよいよだな。始めよう」
光如は高揚していた。笠原浄光の第一皇子として生まれ、将来は約束されている。
堂々とした偉容を誇る国軍の指揮を任され、文字通り光の如く輝く存在となるのだ。
「敵は少人数、押し包んで一機にかたを付けましょう」
皇子付きの木村朝男参謀長は、しごく簡単に言ってのけた。これまでに、幾多の戦いを指揮してきていて、全て勝ってきている。光如様について行って、自分も輝く存在の一員となることを夢想していた。
「かかれー!」
采配が振られた。
4月23日、午前6時、光如軍から団扇太鼓が響き、「南無妙法蓮華経」と一斉に題目を唱える声が轟き、威風堂々と進軍が始まった。
―連合軍―
連合軍は、一隊から四隊まで整列していた。
「かねての打ち合わせの通り『車掛かりの戦法』で行く。目指すは笠原軍の本陣、笠原光如の首だ。心して行け」
「おうー!」
「沼地副長の弔い合戦だー。光如の首を沼地副長の墓前に供えてやる」
阿郷高志は、塗手、沼地と共に活動し、今は連合軍の第一隊、隊長を拝命し先陣を任されていた。
「阿郷さん頑張ってね。沼地さんの仇をとって下さい」
「はい。今日のこの日を、どれほど待ったことか・・・・。阿郷、命にかえても光如の首を取って来ましょう」
「頼もしい、頼みましたよ。皆も頼みますよ。この戦いで、女御国の命運が決まります。心して掛かりなさい」
「おうー!」
連合軍から一斉に、鬨の声が挙がった。
―一時間前、連合軍―
連合軍、第一隊から第四隊の隊長と副長が集められ、作戦会議が始められていた。
「光如軍は大まかにいうと、題目、団扇太鼓隊、弓隊、槍隊、騎馬隊、本営、遊撃隊で出来ている」
塗手参謀長が、黒板に配置図を書き入れながら説明をしていた。
「敵は約三万、我々の三倍だ。まともに正面から戦っても勝ち目はないだろう。かといって、裏に回り込むとか、挟み撃ちとかは、牛の腹台地ではムリだ。そこで、こういう作戦を考えた。名付けて『車掛かりの戦法』。
まず、隊を第一隊から第四隊まで二千人づつ四つに分けてあるのは、理由がある。そして、それを説明しよう。まず、第一隊の騎馬五百が突入し、その後を徒士が追う。騎馬隊は徒士隊が到着したら、右に迂回して第四隊の最後尾に着く。こういう風に、渦巻き状になって攻めるのだ。
笠原軍にとっては、一か所に次々と連合軍の新手が現れ、一局に戦いが集中することになる。一局に集中されたら、その部署の笠原軍は持ちこたえられないだろう。混乱を作り、笠原軍の崩壊を誘発するのだ。むろん、笠原軍も黙ってはいない。押し包んでくるだろう。我軍は攻撃するのは正面のみ。移動中は戦うな。移動中の戦闘は必要最小限でいい。ここまでは、理解できたかな。何か質問はあるか」
「はい」
阿郷が手をあげた。
「阿郷」
「攻める時は、勢いがついているから良いように思えますが、退却時はどうですか。正面に敵をうけたら、乱戦になりませんか」
「そこが『車掛かりの戦法』のキモなのだよ。退却とは考えない方がいい。激しい勢いの流れを作り、ゴミを弾き飛ばす感じで流れを作りだすのだ。激しく回転する渦巻きとなって、相手にぶつかるのだ。どうかな、イメージ出来たかな」
「はい」
「攻め、迂回の切り替えは、隊長と副長の笛で指示をしろ。分かったか」
「はい」
「それでは急ぎ各隊に戻り、作戦を説明し、指示を徹底させること。急げ」
「はい」
隊長、副長たちは各隊に散って行った。
「さて、それでは、我々は予備隊の役割の説明に行こう」
塗手は、傍らの破魔娘を促した。
「はい」
―三日前―
4月20日、午後8時、塗手連合軍総参謀長が西部方面軍、牛の尾に駐屯している佐伯孝子司令官を訪ねていた。
「相談があります」
「はい」
二人は、夜遅くまで密談をしていた。