ゲスMの 野望は大きく 果てしなく
あの日。山一つ吹っ飛ぶという異常事態が発生したので、最寄りの街であるヨサイシから騎士団の調査隊が派遣された。彼らはその道中、現場から引き揚げて来た冒険者一行と遭遇して話を聞き、何があったかを知ることになる。
それは荒唐無稽な内容であったが、その一行の中には有名な一流の魔術師がおり、しかも事態はその魔術師の専門研究分野であった。そのため騎士たちは彼らの話を信用し、且つ容易ならざる事態と判断。首都へ、国立研究機関による大がかりな調査を要請する騒ぎとなった。
今も大勢の学者たちによって、あの戦いの跡地は調査されている。何か、エルフ星の情報に繋がるものはないかと。だが、なにしろあの場はもう更地だ。それでも地中に何かが埋まっている可能性はあるが、今のところ何の成果もないようである。
オロチとの戦いから数日が過ぎた、ソモロンの店。店は休業にしてゆっくり休んだので、ソモロンもシルファーマもパランジグも、もうすっかり元気だ。
同じく、しっかり回復したミミナもここに来ている。パランジグがまた旅立つというので、その見送りをするためだ。
まだ休業の看板を出しているので、店内に客はいない。
「さて、約束通りわしは行くぞ。ソモロン、お前のハーレム建設の邪魔はせん。頑張れよ」
「感謝してるよ。流石は僕のじーちゃん、と誇りに思う。ハーレム建設、必ず成し遂げる」
既に旅支度を整えているパランジグが、ひとつ咳払いをした。パランジグはこの数日、あの本と地下書庫の資料を突き合わせて調べ直していたが、それでまた何か判ったらしい。
「出発前に、言っておかねばならんことがある。このヨサイシの周辺には、小規模ながら多数の遺跡があるのは知っているな?」
「うん」
「実はな。どうやらこのチキュウ星には、エルフ星人だけではなく、他にもいろいろな異星人が来ているようなのだ。この辺りの遺跡群は、その異星人関係のモノが多いらしい」
「……つまり?」
なんとなく予想がついたソモロンの声、その考えを読み取ってパランジグは頷く。
「あのオロチのようなモノ、異星人の兵器などが、ここいらにどれほど埋もれているか判らん。今回の件で噂が広がって、ラカートみたいな奴がまた来るかもしれん」
「……だから?」
「今回のような、世界が危ない級の事件が、もしかしたら今後何度も、ここいらで起こる可能性があるというわけだ。なかなかに高めの確率でな。それに対抗する為にも、わしはまた、資料を求めて世界を旅する。お前はここにいて、何かあったらまぁ頼む」
と言われて。ソモロンの顔が、露骨に嫌そうになる。
「そう言われても。僕は別に、伝説のナントカの血を引くカントカではないんだから。そういうのは、もっとこう、担当する人がいるんではないかと」
どむ、とシルファーマが、ソモロンの腹に拳を叩き込んだ。
うげ、とソモロンが、呼吸を潰されて体をくの字に折る。
「ナントカカントカ言ってんじゃないわよ。文句言わず、あんたはこれからもどんどん、今回みたいな事件に首を突っ込みなさい。そして戦って、かっこよく勝つ! わたしの英雄伝説に、ページを加えていく!」
騎士団に事態を説明するにあたり、パランジグは事前の打ち合わせ通り、「マジカルワールドの魔女っ子戦士」が活躍したと告げた。それがそのまま、騎士団の公式発表となり、街にも知らされた。
みんなのヒロイン・魔女っ子戦士の新たな活躍に、街はまた沸き立っている。この騒ぎは、街の外までも広く轟くだろう。
「そもそも、それがわたしたちの計画でしょ?」
「それはそうだけど……」
「こういうのを積み重ねた後、どどーんと正体を明かして、魔女っ子戦士ブームをそっくりそのまま、わたしの英雄伝説にすり替える、と。あんただってハーレム建設の為、多くの女の子との出会いの為に、冒険の機会があればしていきたいって言ってたでしょうが」
「それはもっとこう、何と言うか日常的一般的な、普通の冒険者の仕事のことで。こんな大規模な、異星やら何やらのことなんかは遠慮したいというか」
「だったらどうして、今回は? 異星はともかく、大規模っぽいことは判ってたでしょ?」
「それは、ねーちゃんの身の上に関わりそうな話だったし……っと」
ソモロンは、ちょっと「びくっ」としたミミナの方を向いた。
興奮気味なシルファーマと対照的に、ミミナはあまり元気がない。
自分が、エルフという種族との混血であることは知っていた。だが、それがまさか遠い遠いウチュウの彼方から来た異星人だとまでは思っていなかったから。しかも、この世界を襲った侵略者、且つその中でも突出して凶暴な王族の末裔が、自分だと知ってしまったからだ。
そんなミミナに、ソモロンは言った。
「ねーちゃん。今回、境界の壁の話とかで、はっきりしたよね。ウチュウと繋がってるのはこの地上界だけで、魔界は繋がっていないと」
シルファーマが補足する。
「それは確かよ。魔界の空には、星なんて見えないもん」
「うん。つまり、地上界を真ん中にして、魔界と、エルフ星を含むウチュウとが、左右に並んでいるようなもの。まるで、僕たちみたいにね」
ソモロンはシルファーマとミミナとを、ぐいと両脇に抱き寄せた。
「エルフ星の他にも、星はある。このチキュウ星にも、魔界以外の異世界があるかもしれない」
ソモロンは両腕に、ぎゅむっと力を込める。
「目指すはそれらを股にかけた、超世界ハーレム! ……となると、そういう事件に関わっていくしかないか。あ、もちろん超世界ハーレムが完成しても、二人は別格に」
ごつっ、ばちっ、と。
シルファーマの拳とミミナの鞭が、ソモロンの頭部を左右から挟み込むように打った。これは痛い。かつ、僅かに時間差があったせいで、振動が左右に脳を揺らす。
「は、はおおおおぉぉっっ」
ソモロンはゆらめく。ゆらゆら。
「わたしをハーレム妄想に入れるなっつってんでしょ!」
「何がどうあれ、ふしだらなのはダメっ!」
ミミナの、ソモロンを見る目の力強さと鞭のキレが戻っている。
シルファーマが、ミミナと目を合わせて苦笑した。
「ったく。これだけの大事件を経たってのに、とことん成長しないわねこいつは」
「そうね。でも、何事も包み隠さず白状する正直さは、評価したいと思うわ」
「そ、そうかなああぁぁ? わたしにはただのゲスMだとしか」
女の子二人による、自分へのプラマイ評価を耳にしながらソモロンはゆらゆらしている。彼にとっては、これも気持ちいいのだろうか。それとも「ド」の領域だとして不満なのか。
パランジグは、ゆらゆらソモロンをとんと叩いて、
「さて、そろそろわしは行くとするぞ。新たな資料集めと、わし自身の夢、美幼女妖精や暗黒淫魔を求めてな。お前も頑張れよ」
「も、もちろんっ。超世界ハーレムを必ずや」
「まだ言うかっ!」
ミミナが鞭を鳴らしてソモロンを打った。
「よし、久しぶりにひとっ走りいくわよソモロン!」
「ちょ、ちょっと待って、じーちゃんの見送りを」
ミミナはパランジグの方を向き、自分と、引っ掴んだソモロンの頭を並べて、ぺこりと一礼。
「おじい様、またお会いできる日を楽しみにしてます! はい終わりっ!」
「ひええぇぇ~!」
鞭打たれて走るソモロン、怒鳴りつけながら追いかけるミミナ。
その二人を見ている、シルファーマとパランジグ。
「やっぱりあの子、楽しんでるわね。Sを。ほんと、SとMとのいいコンビだわ」
「わはは。若い者はええのう。……シルファーマちゃん、後はよろしくな」
「ん。あいつは、どーしよーもないゲスMだけど、どーにもこーにも行く道は重なるみたいだからね。しょーがないから、一緒にやっていくつもり。だから、任せといて」
シルファーマは、ぐっ! と拳を握って見せた。
ここまでご覧頂き、ありがとうございました!
冒頭でソモロンが言っていたドMに関する主張は、
まるっきり私自身の主張と同じでして。
「ド」をつけるべきではないところにまで「ド」をつけている
世間の風潮に異議を唱えたく……というのが、
本作のアイデアの根っこ、核、最初の一歩です。
いや、本当に。冗談ではなく。
長編小説を描く上で、最初の一歩を踏み出すのが一番難しいですからね。
キャラもストーリーも何もない真っ白な段階で、「何を描こうか」と
思い悩んでる段階が辛いんです。叩き台がないから。
だからそういう時は、どんなにくだらなくてもいいから、
世間に訴えたい何かを一つ取り出して(私にはそういうストックは多々あるので)、
それを種にして芽を伸ばす。それを風にして桶屋を儲からせる。
ってなもんです。
長編小説を描こうとしてなかなか描けない人、
こんな方法も試してみてはいかがでしょうか。
そんなところで。
次回作でお会いできれば光栄の行ったり来たりです。
では、またっ。




