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ゲスでMな魔術師の野望(ドMではない。これ重要!)  作者: 川口大介
第四章 爺が来たりて、事態急変
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10

 闇の渦が少しずつ薄れ、消えて、それと入れ替わるように、DIE蛇の根が姿を現した。

 それは、ソモロンの身長の二倍近い直径がある、巨大な紅い珠だった。表面は水晶のように滑らかで硬質で、肉質なものではない。だというのに、まるで心臓のように、ドクンドクンと鼓動しているのが不気味だ。その鼓動とともに、じわりじわりと、先ほど砕かれたDIE蛇の牙が再生していく。

 宙に浮いて脈打つ、大きな紅い珠。不気味だが、明らかにこれはDIE蛇の根だ。力の源、核だ。これを破壊すれば、DIE蛇を倒せるだろう。ソモロンもミミナも、そしてシルファーマもそう思った。

 だからシルファーマは、気合いを入れて攻撃しようとした。が、

「……っ!」

 凄まじい重圧に、シルファーマの気合いは圧し潰された。今の今までの、DIE蛇からは考えられない、巨大な力が珠から感じられる。いや、のしかかってくる。

 一体何事かと考える間もなく、その力の正体は、爆発的に一同の前へと晒された。

「こ、これは?!」

 ソモロンは目を疑い、ミミナは言葉を失い、シルファーマは顔色を変えて戦慄した。

 突如、DIE蛇と全く同じ巨大な蛇が、珠から何匹も生え、伸び、四方八方に向けて一斉に、炎を吐いたのである。

 たった一匹でも易々と山を貫通して土砂を消し去る爆炎が、同時に何匹分も吐き出され、しかも蛇たちは、炎を吐きながら首を大きく振った。常識を遥かに超えた力と熱の大瀑布が辺りを薙ぎ払い、炎の生んだ熱風と閃光が、空間を埋め尽くしていく……


 ソモロンの店の地下室。

 翻訳作業の九割方を終えたパランジグは、大戦争時代の最終兵器についての記述に、度肝を抜かれていた。古代戦争の実態、エルフ星人の存在にも驚かされたが、最終兵器の前ではそれらのインパクトも霞んでしまう。

「こ、これが使用されていたら、「エルフ星人との戦争でチキュウ星人が負ける」では済まんぞ。この世界、チキュウ星全土が、生物の住めぬ死の世界になる。そうなれば当然、エルフ星人も、チキュウ星の支配統治などできはしない」

 それほどまでに、この兵器は恐ろしい。こんなものを、しっかり制御できるのか? いや、製作者であるエルフ星人にも難しいはずであり、そのことが解らぬはずもない。つまり、敗色濃厚となった彼らは、かくなる上はチキュウ星人も道連れにしてやろうと、いわば自爆装置のようなつもりで、この兵器を造り上げたのではなかろうか。あるいは遠い未来において、制御できるようになるかもしれない、と期待したのかもしれないが。

 おそらく、後者だろう。それなら当時起動させなかったことにも、すんなり説明がつく。

 パランジグはここまで訳して、そう推測した。だが、この本をパランジグに送りつけた奴はどうか? おそらく、ここまで訳せてはいまい。もっと手前の段階で、最終兵器の強さに目が眩んだに違いない。そして自分になら制御できると踏んで、動き出したのだ。

「きっと、この兵器の名前を「ダイジャ」とでも誤訳しているのであろうな。だが、そうではない。この兵器の、本当の名は……」

 パランジグは、作業を続けた。この本に書かれている、古代戦争関連の記述の中に、何か使えるものはないかと。

 エルフ星の最終兵器が起動してしまっても、何とかそれに対抗できるものはないかと。

 

 そこはもう、山奥でも洞窟でもなかった。明るい朝日に照らされる、平らな台地だ。

 少し前までソモロンたちは、山中の洞窟の奥にいた。だが今、山は丸ごと吹っ飛び、山を構成していた木々も岩も小川も動物たちも、跡形なく消滅した。昨日ソモロンたちが登った分、その高さの台地があるばかり。洞窟の中のレウタモカ遺跡、その遺跡の面積分の台地だ。もちろん壁も天井も消滅しているので、遺跡としての名残は全くない。

 その台地にいるのは、ソモロンたち三人とラカート、そしてDIE蛇。

 ソモロンたちは、紅い珠から無数の蛇が生えたと思ったが、それは錯覚だった。あまりにも強大過ぎる圧力に、そう思い込んでしまったのだ。実際には十匹にも満たない。

 が、それがどうした、だ。かつての赤錆色ではなく、ツヤのある黒鉄色に変化したDIE蛇は、たった今、山を完全に消し飛ばしてしまった。その途方もない力はどこから来ているか? それを思えば、DIE蛇の本数がどうとか、そんな細かいことは気にならない。

 ミミナには「そのもの」ズバリ、ソモロンとシルファーマは「それ」に付随している魔力の流れで、読み取れる。山を消し去るほどの力が、絶えずDIE蛇に供給されている、その出所はどこか。いや、どこもクソもないのだ、これは。

「せ、世界全部……? この……チキュウ星? の、チキュウ星人全ての、精神……」

 この辺り一帯の、近くの街の人間全員の、精神を吸い取っている。などというレベルではない。最初はそうだったが、それによって土台を整えたDIE蛇は、今、遂に完全に、本領を発揮したらしい。その捕食対象は街ではなく、世界。全ての大陸、全ての海上の島々、を覆って世界全土の全員に喰らいついている。チキュウ星の全人類の精神を吸い上げている。その全てが今、ソモロンたちの目の前のバケモノに、結集し凝縮されているのである。

 本数の増加により、精神吸い取りの範囲を拡大でき、それによって吸い集めた精神で、増えた首を維持するという、ソモロンたちにとって絶望的な循環ができ上っているのだ。

 そうして得た力の一端を今、山ごっそり丸ごと消滅という形で、ソモロンたちは見せつけられた。当のDIE蛇は全く疲労しておらず、今の攻撃をいくらでも連発できるぞと言わんばかりに、平気な顔をしている。

 DIE蛇が今、境界の壁までも越えて魔界人たちの精神をも吸っている、かどうかは判らない。が、そんなことはどうでもいい。「1」から見れば、「100000」も「1000000」も、遠すぎて果てが見えないという点では同じなのだ。

 ラカートが、思いきりのけぞって高笑った。

「はっはっはっはっ! 遂に! 遂に完成したぞ! 古代戦争時代、エルフ星人たちはここまで起動できず、使用できなかったようだが! 当時の地上人たちは、こいつの使用法が解らず、仕方なく封印したようだが! それを今、俺が、この手に握ったのだ!」

 ラカートが仰ぎ見る、本数の増えたDIE蛇。その彼は、世界中から吸い集めた精神により、この時代の地上界の言葉を学び取った。そして、発言した。

「……M……MY NAME……マ、マ……」

「ん?」

「……ムイ……ズ……OK!」

 DIE蛇は、増えた自分の首を振り上げ、ラカートとソモロンたちを見下ろして、

「マイ・ネーム・イズ、【オロチ】! 我が名は、スネーク型ビィィッグ兵器、【オロチ】! 我こそ、全スペースでナンバーワンにストローング! チキュウ星人ども、デストローイ!」

 古代エルフ語訛りの入った言葉で、高らかに名乗りを上げた。

 伝説の彼方の最終兵器、エルフ星人のもたらした破壊の権化、8匹1体のDIE蛇・オロチ。それが今、ここに動き出したのである。


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