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ゲスでMな魔術師の野望(ドMではない。これ重要!)  作者: 川口大介
第四章 爺が来たりて、事態急変
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 DIE蛇の攻撃から逃げて逃げて逃げ回っていたソモロンは、シルファーマの声を聞き、振り向いてシルファーマの姿を見て、シルファーマが何を考えているかを察した。

 そして一瞬、躊躇したが、次の瞬間にはもう動いていた。どうせこのままなら三人ともやられるのだ。ならば、シルファーマを信じるしかない。

 ソモロンは走った。そこに、DIE蛇の炎がくる。ソモロンは走って、転がって避けた。

 ギリギリでソモロンに当たらなかった一撃必殺の炎は、そのまま直進して、ソモロンの背後にあったものに命中する。それは灰色の壁、その向こうにシルファーマがいる!

「ええええぇぇいっ!」

 炎が壁に命中したのとタイミングを合わせて、シルファーマの全力の拳が叩き込まれた。

 魔界の王女の、黒い光を帯びた必殺の魔力拳と、エルフ星の最終兵器の、紅蓮に燃え盛る高熱高圧の火炎が、同じ一点を表と裏から挟み込んで、双方の威力を同時に炸裂させる。

 この一撃には流石に、古代の人類が異星の技術を応用して造り上げた結界も、耐えきれなかった。灰色のドームの壁全体に大きなヒビが走って広がったかと思うと、一拍の間をおいて、堅牢無比を誇るアンチ・エルフフィールドは粉々に砕け散った。

 だが壁が砕けた時、というのは、言い換えれば、盾が消滅した時である。

 DIE蛇が、ソモロンを蒸発させんとして吐いた炎を、アンチ・エルフフィールドが受け止めていた。そのフィールドを、シルファーマは砕いたのだ。

 荒れ狂う大雨の洪水の只中、堰き止められていた濁流が、堤の決壊と共にドッと溢れ出したようなもの。だがこれは水ではなく、炎。山の岩盤を易々と貫通する、巨大兵器の爆炎だ。

「っ!」

 覚悟をキメて、シルファーマは両腕を交差させて踏ん張った。

 その後ろには、両膝をついて疲労困憊のミミナがいる。動くわけにはいかない。

「もちろん、そうなると思っていたぞ。纏めて死ね」

 ラカートの操作により、今まではソモロンをいたぶる目的だったDIE蛇の炎が、本気の破壊殺戮モードに切り替わる。炎の色と勢いが、明らかに変わった。

 横合いから駆け込んできたソモロンが、ミミナに抱き着いて掻っ攫って転がった。

 シルファーマはソモロンの足音と声を聞いてその動きを察した、いや、最初からソモロンのその動きは予測していたのだが、どうせもう遅い。今動けば、シルファーマの横っ腹にDIE蛇の炎が突き刺さる。ここは受け止めるしかない! とシルファーマは、交差させた両腕に魔力を集中させる。

「ぬああああああああぁぁぁぁっ!」

 エルフ星人の最終兵器、遥かな時を越えて蘇った炎が、魔王女の華奢な体を飲み込んだ。


 ウチュウの彼方の超技術によって造られた兵器生物とはいえ、生物は生物。息が途切れれば、当然、呼気が途切れる。

 DIE蛇の炎が途切れた時、地面には、左と右とに大きく分かれて抉られ掘られた、二筋の溝があった。その溝の分岐点に、一人の少女が立っている。この少女が炎の怒涛を、その強烈な圧力を、正面から受け止めて左右に切り開いたのだ。激流の中に突き出た岩のように。

 その岩の名は、魔王女シルファーマ。

「……わたしの」

 シルファーマは、組んでいた腕を解いて下ろしながら、言った。

「夢見ていた、理想の契約相手の炎は、もっと熱く、もっと強かったわよ」

 そういうシルファーマの両腕は真っ赤に焼け爛れて、幾筋もの煙を上げている。

 そのシルファーマに、ミミナが駆け寄った。そして後ろから抱き着くようにして、

「生命を育む大地の神様、御力を与え給え!」

 自分と、シルファーマとを、同じ一つの光で包み込んだ。

 すると、シルファーマの両腕の火傷が、少しずつ治っていく。

「っ……ぁ、ありがと。でも、あんたは大丈夫なの? もうずっとこういう術を使ってるけど」

 シルファーマが肩越しに振り向くと、ミミナはしっかりと力強く、微笑んでいた。

「シルファーマちゃんが守ってくれたおかげで、今、私自身も回復できてるから。心配無用よ」

 そういうミミナの顔色を見る限り、先ほどまでの消耗が、跡形なく消えたというわけではないようだ。だが確かにフィールドによる妨害がなくなったおかげで、神通力によってミミナ自身の回復もできているらしい。少なくとも、もう命の危険はないだろう。

 後は、目の前の敵を倒すだけ。と、正面に向き直ったシルファーマの、闘志に溢れた視線を向けられて、ラカートは少したじろいだ。

「ふ、ふん。流石に頑丈だなと言っておこうか、魔王女よ。だがな、こっちはそっちと違い、全く消耗していないぞ。今と同じことを、何度繰り返せるかな?」

 ラカートはDIE蛇を操って、また攻撃態勢に入らせた。が、

「はんっ! 二度三度、同じことをさせると思うの? 甘いっっ!」

 シルファーマがジャンプ! して、DIE蛇の横っ面に跳び回し蹴りを叩き込んだ。こういう時のシルファーマの打撃は、自身の何十倍もあるサイコロイドを一撃でブッ倒す威力がある。単純に体積や重量で比べれば、サイコロイドと大差ないであろうDIE蛇も、同様にブッ倒される。かと、思われたが、そうはならなかった。

 サイコロイドは、どれほど異様であろうとも、形としては人間。それに対して、DIE蛇は蛇である。くねくねしている蛇を強い力で殴っても、柳に風。暖簾に腕押し。糠に釘。

 シルファーマの蹴りが命中した部分、DIE蛇の鱗の何枚かにヒビが入り、少し驚いたような顔、ほんのちょっぴり痛そうな表情は見せたが、それだけ。蹴られた勢いでグニャリと曲がった首(というか胴体というか)を戻す、それでもう元通りだ。

 無論、蛇を相手に関節技は無意味であり、シルファーマの手足の長さとDIE蛇の太さからして、締めるのも不可能。打つ手はない。とは、シルファーマは一瞬も考えなかった。

 シルファーマは全く迷わずに再度、DIE蛇に跳びかかる。DIE蛇は炎で迎撃しようとしたが、シルファーマの方が一瞬早かった。

 シルファーマの打撃が通用しないことは、証明済みだ。が、今度はシルファーマは、蹴りではなく殴りにいった。

 跳躍の、上昇の勢いを真っ直ぐ乗せて、真下から真上へと、DIE蛇の下顎を、天まで届けとばかりに殴り上げる!

「ガフゥッッ!」

 シルファーマに殴られたDIE蛇の下顎が、激しく突き上げられて、上顎に激突する。顎と顎との垂直ぶつかり合い、これには体の柔軟性もクソもない。その、間欠泉さながらの突き上げにより、DIE蛇の牙の何本かが、何本かとぶつかって折れた。

 苦悶の声を上げるDIE蛇。DIE蛇の劣勢が信じられず、焦るラカート。

 着地したシルファーマは、間髪入れず二発目を打とうとした、が、

「ガァァオオオオォォォォォォォォォゥゥ!」

 尋常ならざるDIE蛇の咆哮に、動きを止められた。その咆哮に、これまでにない力を感じたからだ。

 人間で例えるなら、何年もに渡る厳しい修行の成果を、強さの大幅な向上を、いきなり一瞬で得てしまったような。もちろんそんなことは、人間に限らず、ゴブリンだろうとオーガーだろうとドラゴンだろうと不可能だ。普通の生物にはできないことだ。

 だが、普通の生物ではなく、兵器生物なら。それも、この世界……チキュウ星の常識を超えた、異星の技術の結晶であれば?

 DIE蛇の生えている根は、空間にできた闇の渦だ。DIE蛇は出現以来ずっと、この遺跡を越えた広範囲、周辺一帯の人々の精神を吸い続けて、自らの根である闇の渦に注いでいた。   

 その渦の回転が、速くなり、かつ明滅している。

「は……はははは! 専門用語でいうところの、「エネルギーチャージが終わった」ようだな! 解るかソモロン? つまり、DIE蛇の起動が完了したということだ!」


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