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ゲスでMな魔術師の野望(ドMではない。これ重要!)  作者: 川口大介
第四章 爺が来たりて、事態急変
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 大した時間もかからず、岩壁は粉々に砕け散った。ソモロンの身長ぐらいの厚さと、見上げんばかりの高さのある岩壁だったが、所詮はただの岩壁。鉄壁ではないし、魔術壁でもないので、シルファーマの拳の前には無力なものだ。

 そのシルファーマが、叩いて砕き飛ばした岩壁の破片は、全て向こう側に落ちている。こちら側と同じように、壁は自然のものだが床だけは均されて、広い通路になっている。

「ソモロン、終わったわよ」

「ふむ」

 息も乱していないシルファーマの横を通り抜け、ソモロンが向こう側に足を踏み入れた。まずは、床と周囲をぐるりと観察する。

「こちら側と造りが同じだな。多分、もともとはこんな壁はなくて、ひと続きになってたんだ。それを、わざわざこんな壁を造って塞いだ。厳重な鍵付きの扉ではなく、合言葉がないと解けない魔術の結界でもなく、であるが故に開けようのない、突破の困難な壁で」

 シルファーマの豪快な暴れっぷりに少し面食らいながら、ミミナもソモロンに続く。

「確かにそうね。壁の向こうに何かあると判っていれば、強い魔術師を何人も連れてくるとか、大掛かりな工事をするとかで、この壁を突破することはできる。けど、何かあるという確信がない限り、ただの壁を相手に、そんなことする人がいるわけない」

「そういうこと。だから、完璧な隠しになる。しかも、おそらく昨日までなら、壁を魔術で調べたりしても、何も判らなかったと思うよ。この先の何かが、起動してないから」

「その、起動のきっかけになったのが、私の中のエルフの血なの?」

 ソモロンは頷く。

「じーちゃんの推測によると、古代戦争の末期、敗色濃厚となったエルフ軍が、一発逆転の為に総力を結集させた最終兵器……かもしれないってさ。でも実戦投入する前に戦争の決着がついてしまって、開発者たちは遠い未来での復讐戦に備え、隠したのではないかと」

 シルファーマも、今度は理解した。戦いの場面が想像できるシーンだからだ。

「つまり、今ミミナが、エルフがここにやってきたことで、遂に我々エルフ軍の再起の時だ~! と思ったわけね。その最終兵器さんは」

「おそらくね。さ、行ってみよう」

 三人は連れ立って歩を進める。すると間もなく、壁を越える前と同じような部屋に出た。天井も高く、普通の建物なら三階分はありそうだ。

 そんな広い空間の真ん中に、いた。いや、「あった」と表現するべきか。

 意外性という意味ではシルファーマにとって期待外れな、サイコロイドが一体。直立不動で三人を迎えた。

 一応、過去二体のふざけた姿とは違い、頭がサイコロなだけで、そこから下は漆黒の、重厚な甲冑姿。体格的にも過去二体より大きめで、手に武器こそないが筋骨隆々だ。

 そのサイコロイドから、低い重い声がした。

「警告する。今すぐ、ここから去れ。何もせずに去るのであれば、追いはしない」

「って言ってるけど」

 シルファーマが、傍らのソモロンに尋ねる。

「どういうこと? わたしたち、というか、ミミナは歓迎されてるんじゃないの?」

「いや。よく探れば君にも判ると思うけど、こいつは僕らが目指している最終兵器ではない。例の、起動の気配は、もっと奥からだ。つまりこいつは番人だね」

「だとしても、鍵であるミミナが来てるのに、去れってのはどういうことよ」

「前に言っただろ? 今あるサイコロイドはどの陣営の発明品か判らない、敵の物を回収して改造して使うこともできるって。……おそらく、こういうことだ」

 推論を纏めて、ソモロンはシルファーマとミミナに説明した。

「古代戦争の決着後、ここまでやってきた人間たちは、ここの最終兵器を利用しようとした。が、失敗。壊そうとしても、失敗。どうにも歯が立たなかった。で、いつかエルフに利用されて逆襲されることを恐れて封印することにした。壁と番人の二重封印で厳重にね」

 去ろうとしないソモロンたちに対し、サイコロイドが動き出した。

「戦闘モードに移行。敵・エルフとそれに与する者と判断。抹殺する」

「ふん。やれるもんなら、」

 シルファーマが、

「やってみなさいっ!」

 突進、跳躍、蹴撃! サイコロイドの胸板に跳び蹴りを叩き込もうとしたが、

「サイコー!」

 巨体に似合わぬジャンプで回避された。シルファーの蹴りは何もない空間を貫通し、そのまま奥へ行ってしまう、と思いきや、隕石のような振り下ろしパンチに叩き落される!

「がふっ!」

 巨大な硬い拳が、凄まじい力と速さで、シルファーマを捕らえた。

 完全に不意を突かれたので防御できず、まともに顔+胴体(拳一つでそれぐらいの面積がある)に喰らってしまった。シルファーマは地面に叩きつけられ、その激突でもまたダメージを受ける。濡れ雑巾を勢いよく床に叩きつけて水飛沫を飛ばす、その雑巾になったような気分だ。

 しかし、今の一撃を空中で喰らったのは幸いだった。もし、地面に倒れている状態で、圧し潰すようにして受けていたら、と思うと流石にゾッとする。

 着地したサイコロイドが、拳を振り上げて吼えた。

「サイコーオオオオォォ!」

「サイコ……いや、サイコーロイド、ね」

 地面に張り付いた体を引き剥がして、シルファーマは立ち上がった。

「なるほど、少しは手応えあるわ。最終兵器の門番って肩書きはダテじゃないわね。けど、」

 加勢しようとしたミミナを手で制し、シルファーマはニヤリと笑って、

「まだまだ、わたしの伝説を彩る強敵としては足りないっ! わたしの妄想の中の、わたしを従わせるかっこいい魔術師の方が上よ!」 

 ぐっ! とアツく拳を握って、

「ああ。前に聞いた、君のM妄想の?」

 振り向いてソモロンをドツき倒した。

「え。シルファーマちゃんって、そんなに可愛いのに実は」

「聞きたいなら後で説明してあげるから、その同情しつつ興味ありげでキラキラしてる目はやめてっ! わたしは、あんたに鞭打たれて悦びはしないからっっ!」

 自身の戦意の高揚で熱を持ち、サイコーロイドに殴られて腫れ、ソモロンとミミナへの怒りと恥じらいとで紅潮した、シルファーマの顔は赤い。かなり赤い。

 そんなシルファーマの事情などもちろん関係なく、サイコーロイドが向かってきた。恐ろし気な地響きを立てて走り、その勢いを乗せて、拳を繰り出してくる。

 先ほどシルファーマ自身が「倒れている状態で受けていたら」とゾッとさせられたその巨大な拳を振り被り、そして振り下ろしてきた。シルファーマ一人どころか、シルファーマが店番をしているソモロンの店を屋根から床から地下書庫まで貫通して、粉砕できそうな一撃だ。が、

「魔力!」

 シルファーマの拳に、黒い光が灯った。

「シャレオさんやミミナが囚われてるサイコロイド相手には、できなかったけどね! わたしの、本当の本来の本気の本分は、こっちなのよっ!」

 前方斜め上から落ちてくる巨岩、いや鉄塊の如き拳に対し、シルファーマは真っ直ぐに駆け、己の、黒い光を纏わせた拳で迎撃する!

「突進粉砕・ぶっ壊しパーーーーンチ!」

 遺跡全体、いや遺跡の外、昨夜ソモロンが疎外感に悶えたところまで届くであろう大轟音が響いた。誰がどう見ても、百人分ぐらい束にしてもあっけなく「ぷちっ」と潰されそうなシルファーマの体が、腕が、拳が、サイコーロイドの拳にぶつかり、その衝撃を完全に受けきって動きを止めた。その、一瞬後。

 サイコーロイドの拳は砕け散り、そこから大きなヒビが幾筋も幾筋も、太い腕を駆け上がり、肩を、胸を、更には頭まで、一気にヒビで埋め尽くした。そして、

「サイコーオオオオォォ……」

 頭部のサイコロと、上半身の右半分をほぼ全て粉砕され、サイコーロイドは倒れていく。

 だがその時、砕かれゆく頭部のサイコロが、最後の声を絞り出した。

「アンチ・エルフフィールド展開!」

 サイコロの中に、ぎゅうぎゅうに詰め込まれていたものが、サイコロが砕けることで解放されたように。灰色の煙のようなものが出現し、大きく膨らんだ。そしてそれは、

「っ?」

 意思をもつ蛇が獲物を捕らえるように伸び、瞬く間にシルファーマたち三人を飲み込んだ。そのまま、やはり蛇のようにとぐろを巻いて、灰色のドームと化す。

 危険を感じ、シルファーマとミミナは脱出しようとしたが、灰色のドームの壁に阻まれ、弾き返されてしまった。見た目はただの、空中に漂う煙のようなものなのに、触れた実感は強い竜巻か、大きな滝のよう。硬い感触はないが、反発力が強く、体も腕も貫けない。

「な、何なのよ?! この、このっ!」

 見上げんばかりの分厚い岩壁を易々と砕いた、シルファーマの拳が叩き込まれたが、それでも灰色の壁はびくともしない。

 サイコーロイドが破壊された時に発動する最後の罠、か? 三人は、謎の煙に閉じ込められてしまった、と思ったら。

「うわっ!」


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