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ゲスでMな魔術師の野望(ドMではない。これ重要!)  作者: 川口大介
第四章 爺が来たりて、事態急変
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「その第三勢力と戦争全体についての、かつてない詳細な資料なんだ、あの本は。おそらく世界中、どこの国の研究機関にも知られてないレベルの。あんな本がなければサイコロイドを操れはしない、あれば操れる。つまり、黒幕があれを使ったことはほぼ間違いない」

「ちょ、ちょっと待って。だったらその黒幕さん、何でそんな希少な、大事な本を手放すのよ。内容を全て書き写してるのかもしれないけど、だとしたら何でそんな面倒なことを」

「言ったろ? じーちゃんは世界的に有名な、優秀な魔術師だって。黒幕さんの実力では、訳したくても訳せない部分があったんだろ。そこをじーちゃんに訳してもらいたかった」

「でないと、さっき言ってた、サイコロイド以上のブツが手に入らないってこと? なら、素直に翻訳を依頼すれば済むでしょ。ただの考古学者か何かを装って」

「とんでもない。あんな本をそんな風に持ち込まれたら、入手経路とか怪しんで、そいつのことを調べて辿って確かめるよ。僕でも、じーちゃんでも、その他の誰でも。多少、魔術や歴史に詳しい者なら必ずね」

 そういえば確かに、さっきパランジグも言っていた。間に何人も挟んでアシがつかぬようにしていた、と。パランジグは既に怪しんで出所を探ったが、探りきれなかったのだ。

 だが、大事なのは経路や出所ではなく、黒幕自身と、その最終目標だとソモロンは言う。

「サイコロイドをあんな風に暴れさせたことからして、黒幕が良からぬことを企んでいるのは間違いない」

「でしょうね」

「で、その為の、大事な戦力であるサイコロイドを、君が二体も潰してしまった。そこで黒幕は、自力では無理だがどうしてもあの本のあの部分を訳したい、多少の手間やリスクは覚悟してでも、と思った。それはなぜ? そんなにまでして、何を得ようとしてる?」

「……サイコロイド以上の兵器?」

 ソモロンが頷く。

「さっきの、じーちゃんが翻訳済みの部分。あそこの記述から、おそらく間違いない。地図に記されてた場所に、その兵器があるんだ。黒幕はそれを入手しようとしてる。けど、あの地図も大雑把なものだし、どんな隠し方をしてあるかもわからない」

「それをわたしたちに調査させて見つけさせて、横取りでもしようっての? でも、だったら、まだ翻訳が済んでない今、わたしたちが行ってもどうしようもないんじゃないの?」

「大丈夫。そのことについても、さっきの翻訳部分の記述にあった。ただ……」

 また、ソモロンの顔が、らしくなく締まる。

「それ以上のことは、じーちゃんも僕もまだ確信してない。大外れの可能性もある。でも、もし大当たりで、しかも万一、どうにかして、黒幕の方が僕らより先にそれを入手したら」

「さっき言ってたわね。面倒とか厄介とかでは済まないかもしれないって」

「ああ。だから、じーちゃんにはしっかりと翻訳をしてもらって、僕らは念の為に現地へ行く。ねーちゃんも連れてね。大当たりなら、ねーちゃんが鍵になるだろうから。けど大外れなら、それはそれでめでたしだ。さ、話はここまで」

 ぱちん、と両頬を両手で張って、ソモロンはいつもの、締まりのない顔に戻った。

「じーちゃんの頼みで研究のお手伝い、と言えばねーちゃんは来てくれる。いやぁ、ねーちゃんとこういう仕事するのは初めてだなぁ。さ~両手に花両手に花♪」

 嬉しそうに旅支度を始めたソモロンに、さっきまでの張りつめた様子はもうない。

 シルファーマはちょっと気になったが、

『うーん。まぁわたしは、契約者であるソモロンに従って強敵と戦うことが、そもそもの目的なんだしね。何だかよくわからないけど、きな臭くなってきたのはいいことだわ。サイコロイド以上の兵器とやら、会えるといいなあ。戦えるといいなあ』

 あまり深く考えず、先行きに希望を抱くことにした。


 ヨサイシの街から半日ほどの距離に、レウタモカという遺跡がある。規模的にも価値的にも、この辺りには同程度の遺跡がたくさんある。珍しくないものだ。

 レウタモカもとっくの昔に踏破され、全容が解明され、調査も発掘もし尽くされ、罠なども全て解除され、もう何も残っていない。だから今となっては、誰も調査などしない。

 だが本日、ソモロンの祖父パランジグによって、新資料による新事実がもたらされた。レウタモカのどこかに、まだ誰も見つけていない何かが、隠されているらしい。というわけで、ソモロンとシルファーマはミミナに声をかけ、三人で向かうこととなった。


 大して深くない山中に、ぽっかり空いた洞窟の入口。この中に、レウタモカ遺跡がある。

 ソモロンたち三人がたどり着いた時には、もう日が暮れていたので、今夜は遺跡の真ん前で野宿して、調査は明日である。

 この付近は、血気盛んな冒険者の多いヨサイシの街が近いこともあり、そう大した魔物は生息していない。同じ理由で、人間の盗賊団なども滅多にいない。生活の苦しい冒険者たちが、騎士団から貰える報奨金を目当てに、盗賊たちを追い回すからだ。そして目の前の遺跡は、もう中に何もないと世間には思われている。つまり夜、ここで敵に襲われる心配はほぼない。

 という説明をソモロンから受けたからか、もともと呑気なのか、焚き火を囲んで座る女の子二人に緊張感は全くない。今日、ミミナは手作りのクッキーを持ってソモロンの店へ遊びに行こうとしていたところで誘われたので、そのクッキーをここに持ってきている。それを食べたシルファーマが、美味しさに感動してベタ褒めしていた。

「凄い! これ、ほんとにミミナが作ったの? わたし、こんな美味しいクッキー、初めて食べたわ! ウチの城の料理人たちじゃ、こんなの絶対作れない!」

「ふふ。ありがとうシルファーマちゃん」

「酒場のアップルパイも美味しかったけど、このクッキーも負けてないわ」

「それは光栄ね。私もあのアップルパイ、大好きよ」

「美味しいもんね~。あれを作るのには挑戦しないの?」

「実は、してるんだけどね。中身のリンゴもだけど、生地も難しくって。あの、サクサク感とホクホク感を両立させるにはどうすればいいのか? って」

「あ~、確かに難しそうね。あの生地なら、生地だけでも美味しく食べられそうだもん」

 などなど。女の子同士で、クッキーとアップルパイの話で明るく盛り上がっている。

「……」 

 いずれ劣らぬ美少女二人が楽しそうにしているのは、華やかで良い眺め、なのだが。

 しかし、この場は街路ではないので通行人はおらず、どこかの店内でもないので他の客などもいない。シーンと静かな夜の山の中、三人だけなのである。

 そんな状況で、女の子二人に、女の子らしい話題で盛り上がられるとどうなるか。

 ずばり、疎外感。ソモロンの額に、つうっと汗が流れた。

『い、いわゆる放置プレイ……いや、違う! それはあくまで、放置するという意思があってこそ成り立つもの! 「あんたなんか放置してやるわよ、ほーれほれ」があってこそ! 例えば今、シルファーマから勝ち誇った笑みでも向けられれば、いい! しかしこれは、』

 シルファーマは、ミミナとの会話に夢中。ソモロンの方など見ない。

 ミミナも、シルファーマとの会話に夢中。ソモロンには一瞥もない。

『ただの、「眼中にない」状態! これは嬉しくない責め、いや、こんなのは断じて、責めではないっ! これではMである僕はもとより、おそらくドMな人にとってすらも……』

 目に見えぬ疎外感圧力に押され、後ずさったソモロンは、地面に着いた後ろ手と、背中と後頭部だけ洞窟内に入った。その奥にある遺跡から、ひんやりとした空気が漂ってくる。 

 その空気の中に、ソモロンは異質なものを感じた。空気でも魔力でもない、何かの流れ。

『ん?』

 ソモロンは立ち上がると、洞窟の奥に向かって手を翳し、軽く探ってみた。微弱な魔力を薄く広く、投網のように洞窟内に放つ。術ともいえぬ単純なものなので、具体的なことは何も判らないが、「何かが、あるのかないのか」だけを調べるには充分だ。

 その結果、洞窟内には誰もいないと判った。簡単にそう断言できるほど、狭い洞窟、小さな遺跡なのだ。ソモロンも以前、一度入ったことがあるから、それは知っている。

 だが、そう。一度入ったからこそ判る。あの時とは何かが違っている、以前とは違う何かが「起動」していることが、判るのだ。

 中に誰もいないのにそうなっているということは、人が何かをしているのではなく、ここに仕掛けられているものが、つまり何らかの設備が、動き出したということ。

 それは、ソモロンとパランジグの推測が正しければ、ミミナがここに来たからだ。ミミナの接近に反応して、ここで何かが起こっているのである。

『……さて。鬼が出るか蛇が出るか、だな。できれば、ねーちゃんやシルファーマに続く新たな美少女であってほしいもんだけど。ま、流石にそれは甘いか』

 今、ここであれこれ考えずとも、明日、調べれば判るだろう。

 ソモロンはとりあえずそう結論づけると振り返り、再び疎外感と対面することにした。

「おばあちゃんが教えてくれた、お団子やお餅がまた美味しいのよ。今度、一緒に作ってみる?」

「うん! いや~、地上界でこんなに美味しいものと出会えるとは、思ってなかったわ」

 女の子同士の美味しいお菓子談議は、まだまだ終わりそうにない。


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