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ゲスでMな魔術師の野望(ドMではない。これ重要!)  作者: 川口大介
第三章 素直な幼馴染は、Sなお姉ちゃん
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 朝。朝食を終えたソモロンとシルファーマは、開店準備をしながら話をしていた。

「ねーちゃんの寺院でやってる宗教、つまりばーちゃんがどこか遠くから持ってきた宗教は、特定の神様だけを崇めてはいないんだ。地水火風、山川草木、神羅万象に神様が宿ってる、と考えられている。それこそ、食べ物の神様から便所の神様までね」

「へえ。変わった宗教ね」

「ねーちゃんはそこで修行を積む中で、ばーちゃんから才能を絶賛されてた。神様の声を聞く能力、「神通力(かみとおりのちから)」が並外れているってね」

「あ。もしかしてそれって」

 ミミナは「聞く」能力が優れているという。「聞く」といえば、思い当たることがある。

 ソモロンは頷いた。

「そう、あの耳だね。エルフという種族はもともと、精霊術の才能があるんだ。火や水や諸々の精霊と、交信する能力に長けている。ばーちゃんの宗教でいう「神様」と、エルフや僕らの考える「精霊」が、おそらく同じものなんだろう。僕らが勝手に、いろいろ名付けてるだけで」

「なるほどねえ」

「そういうねーちゃんだから、精霊だか神様だかの力をしっかり借りて、サイコロイドの支配を脱することができたんだと思う。そんな術の才能があるねーちゃんが、そんな術に通じる宗教のばーちゃんに拾われたのも、運命かなあってね。ま、これはじーちゃんの受け売りだけど」

 開店準備が整った。シルファーマはカウンターに入り、メイド服姿の看板娘としての職務を始める。ソモロンは店の前の掃除でもしようか、と箒とチリトリを手にする。

 そんなソモロンに、シルファーマがひとこと。

「今回のミミナの件で、あんたに対する見方が、ちょっと変わったわ。わたし」

 箒とチリトリを持ったソモロンが振り向く。

「何だか気持ち悪いね。君からそんなことを言われると」

「ふん、サラリと小癪なお返しね。Mとしては、罵ってほしいの?」

「もちろん。でも、罵り言葉の中にも、【ド】の領域に踏み込んでしまってアウトなものもあるから、そこは注意してほしい。言葉責めというのは、まず相手のことをしっかりと、」 

「あ~はいはい。いいから、さっさと掃除してきなさい」

 しっしっ、とシルファーマに追い払われて、ソモロンは仕方なく店のドアを開けた。いや、開けようとしたところで、先に外から勢いよく、バァン! と押し開けられた。

「ソモロン! シルファーマちゃん!」

 ミミナだった。ドアで鼻を打ったソモロンがよろよろ後退し、シルファーマはカウンターから出てくる。

 ミミナにはもう全て話しているので、シルファーマとしては何も意識する必要はない。

「ミミナ、おはよう。体調はどう? って見たところ充分元気そうだけど」

「おかげさまで。昨夜はほんとにありがとね、シルファーマちゃん。……で、」

 ずかずか歩いてきたミミナは、少し身を屈めるとシルファーマの両手をがしっと握って、シルファーマの顔を至近距離からずずいと見つめて、言った。

「私はソモロンのことが好きよ。だからソモロンと同居してる貴女に対して、嫉妬心を抱いた。貴女はこんなにも可愛いし、しかも昨夜見た貴女ときたら、もう例えようもないほど綺麗だった。これは、同じ女として嫉妬するのは仕方ないわよね、うん」

「は、はあ。それはその、どうも」

 何だか異様な気迫に満ちているミミナに、ちょっとシルファーマは圧されているのだが、しかし一応褒められたっぽいので、お礼を言う。

「でも貴女の、そんな美しさすらも霞むほどの強さと優しさを、私は昨夜見たわ。そして思ったの。悔しいけど、これほどの子であればソモロンを任せてもいいかなって」

「待って待って。わたしは任されたくなんて」

「でも、だめなの。やっぱり、私は私の気持ちを抑えられないの」

「わたしの話を聞いて、というか、そういう話をソモロンやわたしの前で堂々と言う? 普通は自分一人で、こう、胸に秘めて、眠れぬ夜に悩んだりするもんだと思うんだけど」

 涙ながらに熱弁するミミナと、対応に困るシルファーマ。

 その間に、ひょこんとソモロンが顔を出す。

「ねーちゃんは素直で、隠し事のできないタチなんだ」

「そういう問題ではない気がするなあ」

「だからシルファーマちゃん。ここは女同士、正々堂々と勝負よ! どちらが、ソモロンの心を射止めることができるか!」

「いや、だからわたし、ソモロンの心なんかどーでも……そもそもあんただって、本当にソモロンのこと好きなの? こう言っちゃ何だけど、ソモロンを鞭で打ってひぃひぃ言わせることを楽しんでるだけだったりしない? それを恋愛感情と勘違いしちゃってるとか」

「ふっ、甘いわねシルファーマちゃん。あれはあれで私の愛情表現なのよ」

「ねーちゃんは素直なんだ」

「そ、そうかなああぁあ?」

 深刻な疑念を抱くシルファーマの肩を、ソモロンがぽんと叩いて、もう一方の手をミミナの肩にぽんと置いて、言った。

「安心していいよ、ねーちゃん。シルファーマと勝負なんてしなくていい。僕の目標はほら、ご存知の通りハーレムだから。ねーちゃんとシルファーマと仲良く左右から、ぎゅっと」

 ミミナは、自身の肩に置かれたソモロンの手を取って捻じった。ソモロンは悲鳴を上げながら思いっきりのけぞって、仰向けに倒れてしまいそうになりながら、関節を極められたその腕の、捻じり引っ張り上げのおかげで、辛うじて堪えている、という体勢になる。

「昨夜、サイコロ越しにもさんざん言ったけど、ふしだらなのはダメ! そんなのはこの私が、いえ、おじ様もおば様も、そして世間も認めない!」

「あだだだだ~!」

 ソモロンに悲鳴を上げさせ、そのまま歩かせながら、ミミナはシルファーマに言った。

「繰り返しておくけど、これはこれで私の愛情表現なのよ」

 ソモロンは関節を極められて苦悶している。

「うん、まあ、そいつがMなのは知ってるけど」

「じゃあシルファーマちゃん、お仕事頑張ってね」

 店を出たミミナが、ソモロンの関節を極めていた手を離す。ソモロンはホッとして体勢を戻すが、ソモロンを解放したその手には、既に鞭が握られていた。

「そのふしだらな性根、叩き直してあげるわっ! ほら出発!」

 よく乾いた鞭の音がして、ソモロンはまた悲鳴を上げて走り出した。

 二人が去り行くのを、いってらっしゃーいと見送ってシルファーマは店に戻る。

「関節技に続いて鞭打ち。結局やっぱり、SとMとで需要と供給が」

「ちなみにシルファーマちゃん」

「ぅわっ?」

 また、ミミナが戻ってきていた。速い。

「私のこういうのは、照れ隠しではなくて、隠す気は全くなくて、愛情表現であると公言した上で堂々とやってるんだからね。勘違いしないでね」 

「ぜぃぜぃ、ねーちゃんは、はぁはぁ、正直だから、ひぃひぃ、」

「走る!」

「あひっ!」

 またソモロンも戻ってきて、また打たれて、また走っていった。

「ね、ねーちゃん、痛い! ドMではないMとしては、これは範疇外~!」

「喋る体力があるなら、ペース上げなさいっ!」

「ひぁううぅぅ~!」

 遠ざかっていく二人の声と、鞭の音を聞きながら、シルファーマはしみじみ思った。

「SとMという対極ではあるけれど。それでもあの二人、似た者同士のいいコンビよね。血の繋がりはないのに、ややこしいところがそっくりだわ」

 魔王女様は、地上界に来て最初に出会ったカップルに対し、そう結論づけた。


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