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ゲスでMな魔術師の野望(ドMではない。これ重要!)  作者: 川口大介
第三章 素直な幼馴染は、Sなお姉ちゃん
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 拳も脚も無数に分裂したかのような、人間業とは思えぬラッシュで花たちを打ち砕いた。

 シルファーマの予想通り、花たちはドカンドカンと爆発していく。だが、その爆発の威力は、シルファーマのパンチやキックに込められた魔力で、しっかり押し返せている。

 もっとも、だからといってシルファーマがノーダメージというわけではない。普通の人間で例えるなら、相手の打撃を手足でガードしているようなものだ。頭や胴へは受けていないが、手と足には腫れや痺れが出てくるし、もちろん疲労も溜まる。シルファーマは耐久力と体力、そして魔力で抗しているが、

「フシダラアアァァ!」

 ブーケ爆弾の嵐を防ぎきって着地したシルファーマに、その爆煙もまだ晴れない内に、ウェディング巨人自身が突っ込んできた。その巨大な拳で、脚で、攻撃してくる。速い。

「くっ!」

 シルファーマはなんとかかわしていく。しかしウェディング巨人の攻撃がやまず、これでは呪縛解放を打つのに必要な「溜め」ができない。

 と思ったところで、

「爆発! そぃやああぁぁ!」

 ソモロンが、自身の頭ぐらいはある火の玉を撃ち放った。狙いはウェディング巨人の頭でも体でもなく、今、シルファーマを殴ろうとして踏み込んできた右足の、その足の下である。そこに、ソモロンの放った火の玉が着弾、爆発! 強い爆風が、地面の代わりに、地面よりも高い位置で、ウェディング巨人の体重を支え、押し上げてしまった。

 これも普通の人間で例えるなら、踏み出した右足の裏を、強く突き上げられたようなもの。ウェディング巨人は、本人の意思によらず右足を高く蹴り上げる格好になり、仰向けに転倒してしまう。

「今だ! シルファー……」

「イドドドドオオオオォォ!」

 倒れたウェディング巨人は倒れたまま、顔を上げてシルファーマの方を向いた。その顔、サイコロの1の目から、爆発的な勢いで何かが数十、虫の群れのように飛び出した。

 さっきの、爆弾花? 違う。ブーケだ。ウェディング巨人が最初に持っていたブーケが、あのままの大きさ、あのままの数の花を供えた状態で、それが数十、同時に出てきたのである。

「う、嘘でしょ?」

 流石に冷や汗を浮かべるシルファーマの目の前で、全てのブーケが炸裂した、数百の花が炎を噴射して、空間を埋め尽くす勢いでシルファーマめがけて殺到する。

 シルファーマの気合いが響き、その両手足が花たちを迎撃する。ソモロンも魔術で援護射撃をする、が多勢に無勢。

 いくつもいくつもの花がシルファーマの胸に、腹に、頭に、頬に着弾し、爆発した。


 シルファーマたちから遠く離れた某所。

 机に向かい、水晶玉に手を翳して、男が唸っていた。

「ぬうう。どういうことだ、これは?」

 水晶玉は、音声も映像も鮮明ではないものの、サイコロイドの目から見た風景を忠実に映している。全身に連続爆発を浴び、自身からもうもうと上がる煙で苦しそうに咳込みながら、それでも倒れずに踏ん張っている、ピンク色の髪の美少女が見える。その強さは、明らかに常人ではない。少なくとも地上人ではない。つまり、異世界人。例えば、魔界人。

 この娘が先日、どこかで契約を結んで地上界に来た魔王、いや、若さからして魔王女であろう、というのは推測できる。その魔王女が、こうして敵対行為に出るのも解る。お互い、見過ごせない存在なのだから、さっさと叩き潰そうと考えるのは自然だ。

 だが問題はそこではない。こちら側にあるのだ。

 サイコロ巨人は今、トドメとばかりに次の攻撃に入ろうとしている。サイコロイド内の、サイコエネルギーが高まっている様子が、男にははっきりと判る。

「いくら何でも、このサイコロイドは強すぎる。元になった人間の精神力が強いから、にしても異様だ。その限度を超えている。ということは……サイコロイドと相性がいい、のか? 元になった人間が。とすると……」

 男は、何か自分の知らないことがあるのではないかと、席を立った。

 そして部屋の隅の書棚から、一冊の本を取り出して中身を調べ始めた。 


「おいっ! 少しはこっちも気にしろっ!」

 ソモロンの放った火の玉が、ウェディング巨人の後頭部に命中した。

 それは、しっかり派手に爆発したのだが、ウェディング巨人にとっては軽く押された程度の衝撃らしい。体勢が崩れることもなく、ダメージを受けた様子など全くない。

 だがウェディング巨人は振り向き、ソモロンに向かってダッシュしてきた!

「フシダラアアァァ!」

 そして思いっきり、ソモロンを小石のように蹴り飛ばそうとした、が、すんでのところでソモロンは後方に跳んで回避する。

 ウェディング巨人の足が眼前を通過した時、台風もかくやの風圧がソモロンを襲った。それを感じながら、ソモロンは確信する。

「今の蹴り……軸足の踏み込み、蹴り足の角度、上体の捻りまで、間違いない。ねーちゃんの蹴りだ、やっぱり」

 青ざめて着地したソモロンの目の前に、ウェディング巨人がまた踏み込んできた。

 その時、その後方、その頭上に、シルファーマがいた。

「あんたの相手はこっちよっっ!」

 渾身の力を込めた蹴りが、ウェディング巨人の側頭部を激しく打つ。これにはウェディング巨人も大きく体制を崩し、揺らいだ。

 蹴りの反動で、ソモロンのすぐ目の前に、シルファーマが降り立つ。髪や装束のあちこちから、煙をぷすぷす上げながら。

「シ、シルファーマ、あの、」

「らしくないわよ、そんな顔。ゲスMのくせに」

「え、あ、」

 言われて、ソモロンは自分の顔をぺたぺた触った。

「心配は無用よ。わたしの目的は、華々しく誇らしく、自分の武名を上げること。弱い者いじめとか、卑怯者とか、そういうのとは無縁でありたいの。目指すは、正々堂々と強者をぶっ倒す最強の英雄。だったら、捕らわれのお姫様は助ける。それが王道ってものよ」

「……シルファーマ」

 ちら、と肩越しに振り向いたシルファーマが苦笑した。

「なんだかんだで、あんたとわたしは、利害が一致するみたいね。腹立つけど」


 苦戦するソモロンとシルファーマに、仲間と一緒に声援を送りながら、シャレオも感じていた。ウェディング巨人の異様な強さを。

『こいつ、ワタシの時よりもずっと強いわ。で、こいつの成り立ちがワタシの時と同じだとすると、誰かの精神があの中に捕まっている? だから、それを助けようとして、ソモロンもシルファーマちゃんも苦戦を強いられている?』

 胸元で、ぐっと拳を握りしめるシャレオ。二人の苦境を知っていながら、自分には何もできないことが悔しい。戦う力のない自分には、応援ぐらいしかできることはないのだ。

「……そうだわ!」

 シャレオは、戦場に背を向けて走り出した。

「そうよ、どうして気づかなかったのよ、ワタシ! ミミナちゃんなら戦える! あるいは、もしかしたら、精神の解放とかできるかもしれない! うん、きっと二人の力になれる! ミミナちゃんに知らせて、助けに来てもらえば!」

 ドレスの裾を靡かせて、大股でドタドタ走るシャレオは、ソモロンの店の前を通り過ぎ、そこからミミナの自宅である、山のふもとの寺院へと向かって行った。走って走って走って走る。

 その道中で、

「あっ?!」


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