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ゲスでMな魔術師の野望(ドMではない。これ重要!)  作者: 川口大介
第二章 ロリな魔王女様、奮闘す
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 サイコロイドの巨大な胸板に、シルファーマの小さな拳が叩き込まれた。と同時に、そこに宿る黒い光、シルファーマの魔力、練り上げられた魔術が、サイコロイドの内部、全身の隅々まで、洪水のような勢いで強引に流し込まれ大暴れして、精神を呪縛している力を砕き散らす。

 数瞬後、サイコロイドを蹴って、シルファーマは後方へ大きく跳び、着地した。

 その、蹴られた勢いでよろめいたサイコロイドが、

「ペア……アッペル……クペアルルクルル……」

 瀕死の呻き声? を上げると、シルファーマに殴られた部分から全身へと、無数のひび割れが走った。そして、その全てのひび割れから光が放射状に溢れ出し、

「ペアアアアァァァァ!」

 サイコロイドは断末魔と共に、まるで打ち上げ花火のように縦に長く爆発した。その爆発で何かが、シルファーマの魔力とは違う眩しく明るい光の塊が、天高く打ち上げられる。そして、どこかへと飛んでいった。

 ソモロンが、その光の塊へと手をかざしている。

「……うん、間違いない。あれがシャレオさんの精神だ」

「今、派手に爆発したけど、無事なの?」

「ああ。サイコロイドを動かすのに必要な、大切な核だからね。体内で厳重に守られてたはずさ。その守りが、いわば精神を監禁する檻で、その檻が、体内に強く呪縛されていた。で、そのまま本体を壊したら、巻き添えを食って精神も壊れるところだったんだ」

 ソモロンは、ホッとしたのか落ち着いた様子で説明している。

「でも、本体より先に呪縛を壊してくれたからね。そうなれば檻も壊れ、精神は本体へと帰っていく。その背後で、核を失ったサイコロイドが爆発しようが炎上しようが、悪党のアジトが冒険の最後に崩壊するってやつさ。問題ない。文句なしの大活躍、見事だったよ」

 ソモロンから素直に褒められた。シルファーマは豊かな胸をぼよんと張って、ご満悦だ。

「ふふん! まぁこの、最強の魔王女様にかかれば、あんなザコは楽勝よ。そして捕らわれてた人――お姫様とは言い難いのが残念だけど――を、救出するのも簡単なこと。契約相手が、あんたみたいにただのゲスでMな奴でも、わたしが有能だから……あ」

 そこまで言って、シルファーマは思い出した。

「そういえばソモロン。あんた、わたしがあの、サイコロイド、だっけ? を粉砕しようとした時、割って入ってきたわよね」

「ん? ああ。それが?」

 謎の巨人・サイコロイドを蹴り倒し、ブン回し、叩きつけて見せたシルファーマの、いかにも凄そうな必殺パンチの前に、ソモロンは躊躇いなく割って入った。

 呪文を唱えたりするヒマはなかったからであろう、何の術も使わずに、体一つで。一歩間違えば、ソモロン自身の命が危なかったであろうに。

 シルファーマは、じっ、とソモロンを見つめて聞いた。

「シャレオさんを助けるために、あんなことを?」

 ソモロンは答える。

「うん。でもハーレム計画でお解りかと思うけど、僕はホモではないから。よろしく」

「思ってないわよそんなことっ!」

「そりゃ良かった」

 くるりとシルファーマに背を向けて、ソモロンはちょっと気取って言った。

「説明しただろ? 僕の目的は、財宝でも権力でもなく、それらを使わずに築くハーレムだって。実際、いろんな英雄伝説の中でハーレムを築いてるヒーローたちも、金や権力なんかない場合が多いんだ。ただ女の子たちにモテるだけ、それでハーレムを構築している」

 ソモロンが見上げているのは、シルファーマが励まされ、誓ったのと同じ、煌めく星空。

「僕はそれを目指してるんだ。金でも権力でもない、モテモテハーレムをね。それには、正義の味方として称えられるのが一番。その為には、人命尊重は必須の看板」

「その為に、自分の命を懸けるの? あんた、安定志向とか言ってなかった?」

 ソモロンはシルファーマに振り返って、人差し指を立てた。

「自分から積極的に冒険はしないけど、目の前のチャンスを逃がすほどマヌケではない、ってことだよ。わざわざ戦場を駆けて敵軍の食糧庫を襲いはしないけど、棚から落ちて来たボタモチまで無視してたら、いつまで経っても美味しいものを食べられない。だろ?」

「う、う~ん……」

 筋は通っているような、でもなんか屁理屈のような。

 やはり、ストレートにかっこいいとはどうしても思えない。やはり、変にややこしいゲスだ。そしてMだ。変態だ。とシルファーマは思った。思ったが、しかし。

『まあ……徹底的に根こそぎ隅々まで満遍なく、ゲスってわけではない……のかな?』

 少しだけ、本当に少しだけ、シルファーマはソモロンのことを見直す気になった。

『ん? あれ? ちょっと待ってよ。今、わたしは元の姿になって、元の力を取り戻しているわよね。この状態で、あの忌々しい「制限」をかける権限をもつソモロンをヤッてしまえば、ずっとこの姿のままで地上界に留まれたり?』

「ちなみに、僕すなわち契約相手が死んだら、契約は自動的に解消される。契約というものは、甲乙双方が認識していて初めて成立するものだからね。そして契約が解消されたなら、当然その効果も消滅する。即、境界の壁の作用が君を魔界に押し返すよ」

『……だったわね。だからわたし、強い魔術師を求めてたんだもんね。ふんっ』

 会話するまでもなく、シルファーマの企みはソモロンに読まれ、一蹴されてしまった。

「では、お待ちかねの制限をかけようか。けど、その前に」

 サイコロイドが倒されたことを知ってか、逃げ去っていた人々が戻ってきつつある。

 メイド服化ビームを浴びていた人たちの服も、元に戻っている。めでたしめでたしだ。

「さっさとここから退散しよう。君は屋根から屋根へとぴょんぴょん跳び移るとか、そういうハデなことをしながら、少しずつ人々の視界から消えてくれ。人目を完全に振り切ったら、後で店で落ち合おう。くれぐれも、店に入るところは見つからないように」

「? なんでそんなことするのよ」

「君を、謎のスーパーヒロインにする為だよ」

 ニヤリ、とソモロンは笑みを浮かべて言った。

「街を襲った謎の怪物、それを倒した謎の美少女、はたしてその正体は? となれば、いろんな噂が立ち、想像が膨らみ、話が大きくなり、それはやがて街の外にも広がっていく。その広がりの為には、正体不明であること、謎めいた存在であることが重要なんだ」

「……」

 シルファーマは黙って聞いている。

「だからここは何も言わず、人々の前からいなくなるのが得策だ。僕ともども正体を明かすのは、もっともっと活躍してからでいい。いずれ頃合いを見て、ね」

「そうして、わたしを有名なスーパーヒロインに仕立て上げれば、あんたのハーレムの価値が上がるって言いたいのね」

 いい加減わかってきたシルファーマは、即座に見抜いて指摘する。

 ソモロンは否定せず、堂々と力強く頷いた。

「当然。でも、君だって武名を上げたいんだろ? それはすなわち、多くの人々に賞賛されたい、広く噂になりたい、有名人になりたいってことだ。恐ろしい強敵を次から次へと薙ぎ倒す、謎の美少女……なんてのは、噂話として格好のネタだと思うけど」

 シルファーマは呆れた顔で、はあぁ~と深く溜息をつく。つくが、今回はただ呆れ果てているだけではない。

「毎度毎度、ホントいちいちややこしいことを考えるわね、あんたは。けど、確かにその通りよ。わたしの望み、武名を上げるってのは、言い換えれば【強いということで有名人になりたい】だわ。ここは、あんたの言う通りにしてあげる」

 シルファーマにとって、地上界に来て以来、これが初めてのことかもしれない。ソモロンがつらつら語る理屈に、素直に納得できたのは。

 謎のスーパーヒロインとして、しっかり有名になってから、ドラマチックにぱんぱかぱーんと正体を明かす。単に戦果をコツコツと積み上げていくだけよりも、そういう演出をした方が、人々からの注目度・称えられ度は大きくなるに違いない。

 シルファーマが納得した様子を見せたので、ソモロンも満足顔だ。

「んじゃ、そういうことで~」

 ひらひら手を振って、ソモロンは悠々と帰路に着いた。その途中で、シルファーマのメイド服をきちんと回収する。

 シルファーマは、ぴょん、とひとっ跳びで屋根に乗り、そこから跳ねて跳ねた。眼下の人々の、「あっ! あれが、さっき騒ぎになってた、あの?」「え、どれ、どっち?」という賑やかな声を浴びながら、しばらく夜の街を舞う。まあ、悪い気分ではない。

「ふ。せいぜい噂にしなさい。いずれそのざわめきが全て、魔王女シルファーマ様の武勲を称える賞賛の言葉となり、英雄譚となり、世界中で未来永劫、語り継がれる……か。たまにはソモロンも、まともなことを考えるみたいね。ちょっとだけ認めてあげるわ」

 シルファーマ、にんまり。 

 やがて街外れで地面に降り立ち、そこからは人目を避けてコソコソ走り、シルファーマはソモロンの店に戻った。ただいま、と店内に入ってドアを閉める。そのシルファーマを、

「制限復活! ちょああああぁぁ!」

 ソモロンの絶叫、もとい呪文が出迎えた。制限解除した時と同様に、ソモロンの放った光がシルファーマに命中する。シルファーマの手足も髪もぐんぐん縮み、胸も腰もストーンと凸凹が消え、あっという間に元の、十歳ぐらいのお子様に戻った。

 黒い武闘着も、体が縮むのと同時に、しっかりお子様用になっている。そんなシルファーマを見て、ソモロンは残念そう。

「服の縮む速度が、もうちょっと遅ければ、ぶかぶか姿を見られたのになあ」

「あっそ。残念だったわね」

 べー、とシルファーマは舌を出しながら、ソモロンの持っているメイド服をむしり取って、武闘着の上から着る。これで全て元通り、サイコロイドが出現する前の姿に戻った。

 と思ったその時。遠くから、どたばたガラゴロとやかましい音が聞こえて来て、シルファーマの背後でドアがバン! と開けられて、

「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ! シ、シルファーマちゃん! ソモロン! いるっ?」


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