婚約者は妹のことが好きなようです。妹に婚約者を譲ったら元婚約者と妹の様子がおかしいのですが・短編
「アリーシア、ディア、久しぶり」
「エドワード様、お久しぶりです」
「エド様、お元気でしたか?」
婚約者のエドワード・コルベ伯爵令息が我が家のお茶会にやってきた。二束の薔薇の花束を手にして。
エドワード様は婚約者の私を「アリーシア」と呼び、妹のクラウディアを「ディア」と愛称で呼ぶ。
私は婚約者を「エドワード様」と呼んでいるのに対して、妹はエドワード様を「エド様」と愛称で呼んでいる。
エドワード様は桃色の髪に珊瑚色の瞳の美男子。
そして妹は金色の髪にサファイアブルーの瞳の美少女。
対して私は茶色のくせ毛に栗色の瞳の普通の容姿。
エドワード様が妹を優遇したくなる気持ちも分かる。
「エド様、素敵な薔薇の花束ですね」
ディアの問いかけにエドワード様がにこやかに答える。
「これは君たちへのプレゼントだよ。
アリーシアには黄色い薔薇を」
私たち……にプレゼントね。
「ありがとうございます。エドワード様」
私は作り笑いを浮かべエドワード様から花束を受け取った。
私がエドワード様に頂いた薔薇の本数は……十五本。
また十五本なのね。私は頂いた花束を眺めため息を吐きそうになるのをぐっとこらえた。
「そしてディアにはこれを」
「ピンクの薔薇ね綺麗!
ありがとうございます! エド様」
エドワード様からピンクの薔薇の花束を受け取ったディアが、満面の笑みを浮かべる。
エドワード様もディアに花束を渡したときの方が嬉しそうな顔をしている。
美男子のエドワード様と美少女ディアが並ぶと、まるで一枚の絵画のようだわ。
エドワード様がディアに贈った薔薇の本数は……七本。
ディアが手にしている七本のピンクの薔薇と花束を見て、私の胸はつきりと痛んだ。
黄色い薔薇の花言葉は「友情」や「薄れゆく愛」、十五本の薔薇の花束の花言葉は「ごめんなさい」。
ピンクの薔薇は「可愛い人」「美しい少女」、七本の薔薇の花束の花言葉は「密かな愛」。
そしてエドワード様の髪と瞳の色は桃色。自分の瞳の色の花束やアクセサリーを異性に贈ることがどのような意味を持つか、生粋の貴族であるエドワード様が知らないはずがない。
エドワード様がご自身の髪と瞳の色の花束を妹に贈り、妹を愛称で呼んだということは……そういうことよね。
エドワード様は婚約者の私より、妹のディアが好きなんだわ。
ディアは天真爛漫な性格で友達も多く、母親譲りの美貌を兼ね備えている。
それに比べて私は父親似の普通の顔立ちで、感情を表に出すのが苦手。
誰だって結婚するなら可愛い妹の方がいいに決まっている。
私は今年十八歳になる。
エドワード様は今年二十歳、ディアはもうすぐ十七歳。
貴族の女は二十歳を過ぎたら行き遅れだ。エドワード様との婚約を解消するなら早いほうがいいわ。
お父様に言って私とエドワード様の婚約を解消してもらいましょう。
その上で新たにエドワード様とディアの婚約を結んでもらいましょう。
☆
「エドワードとの婚約を解消する?
なぜだお前たちはうまくいっていたのではなかったのか?」
夜、父が帰宅したあと私は父の執務室を訪れエドワード様との婚約を解除してほしいと伝えた。
「いいえ、お父様。
エドワード様が愛しているのは私ではなく妹のディアです。
ディアもエドワード様のことを思っています。
だから私とエドワード様の婚約を一度解消し、新たにディアとの婚約を結んでほしいのです。
そうすればロンメル伯爵家とコルベ伯爵家の縁はそのままでしょう?」
「だがエドワードがディアを愛しているという証拠はあるのか?」
「ありますわ。
エドワード様が当家を訪れるとき、エドワード様は私に十五本の黄色い薔薇の花束を、妹のディアには七本のピンクの薔薇の花束を贈るのです。
お父様はこの意味をお分かりでしょう?」
「黄色い薔薇の花言葉は『友情』、十五本の薔薇の花束の花言葉は『ごめんなさい』。
ピンクの薔薇の花言葉は『可愛い人』、七本の薔薇の花束の花言葉は『密かな愛』『ずっと言えませんでしたがあなたが好きでした』だったな」
花の女神を信仰する我が国は花言葉を重んじる。
異性に贈る花の意味には気をつけないといけないのだ。
この国の貴族の常識だ。
「そうです、お父様。
それにピンクはエドワード様の髪と瞳の色。
ご自身の髪と瞳の色の花を贈るのは、エドワード様がディアに気のある証拠です」
自分の髪や瞳の色のアクセサリーや花束は、婚約者か恋人か伴侶にしか贈らない。
これも貴族の常識だ。
「決定的なのはエドワード様がクラウディアを「ディア」と愛称で呼び、ディアもエドワード様のことを「エド様」と愛称で呼んでいることです。
私はエドワード様を愛称でお呼びしたことも、エドワード様に愛称で呼ばれたこともありません」
エドワード様と婚約して三年、エドワード様に愛称で呼ばれたことは一度もない。
「どうやらエドワードとディアが思い合っているのは、間違いないようだな。
他に思う相手がいる男と結婚するのは辛かろう。
シアとエドワードの婚約を解消し、新たにエドワードとディアの婚約を結ぶことにしよう」
「ありがとうございます、お父様」
私は父に頭を下げ、執務室をあとにした。
執務室から出たところで、ディアとばったり出くわした。
「あら、お姉様。
お父様の執務室にいらしていたのね」
「ええ、ちょっと用があって」
「偶然ですね、わたしもお父様に用事がありましたの」
にっこりとほほ笑んでディアが執務室に入って行く。
清楚で可憐で無邪気なディア。ディアが幸せになれるなら私は喜んで身を引くわ。
エドワード様のことを思うと少し胸が痛むけど、ディアが幸せになるなら耐えられるわ。
ディア、エドワード様と末永く幸せにね。
☆
一カ月後、私とエドワード様の婚約は無事に解消された……のですが。
「アリーシア!
僕と君の婚約が解消になったってどういうことだ!」
エドワード様が血相変えてロンメル伯爵家に乗り込んできた。
エドワード様が先触れもなく訪れるなんて珍しい。
「取り敢えずガゼボでお茶をしながら話しましょう」
使用人の目もあるのでガゼボに場所を移した。
メイドがクッキーとお茶を置いて下がっていく。
ガゼボには私とエドワード様だけが残された。
「改めて聞く、僕とアリーシアの婚約が解消されたとはどういうことだ!」
「エドワード様はディアがお好きなのでしょう?
ディアもエドワード様をお慕いしているようなので、エドワード様の婚約者の立場をディアと代わっていただきました」
「なぜ僕が愛しているのが、君の妹になるんだ!?」
「一つはエドワード様が妹のクラウディアを「ディア」と愛称で呼ぶことですわ。
私はエドワード様と婚約してから一度も愛称で呼ばれたことがありません」
「それは君がクラウディア嬢を『ディア』と呼んでいるから、呼び方が移ってしまっただけだ。
今後はアリーシアのことを『シア』と呼び、君の妹のことは『クラウディア嬢』と呼ぶことにするよ」
「私とエドワード様の婚約はすでに解消されております。
いまさら愛称で呼ばれても困りますわ。
とはいえエドワード様は妹の婚約者、「ロンメル伯爵令嬢」と家名で呼ばせるのはよそよそしいですし、エドワード様も年下の私を『お義姉様』と呼ぶことに抵抗があるでしょう。
なのでこれからは私のことは『アリーシア嬢』と呼んで下さい」
元婚約者が妹と婚約するって意外と面倒なんですのね。
私が表情一つ変えず冷静に伝えると、エドワード様が困ったように眉尻を下げた。
「僕が愛しているのはシアだ! 信じてくれ!」
「愛称呼びはおやめください。
周囲に誤解されますわ」
「どうしたら僕がシアを愛していると信じてくれるんだ?」
「今さらエドワード様を信じるなんて無理ですわ」
「なぜだ!?
僕は名前の呼び方以外にもミスをおかしたというのか?」
「エドワード様は当家を訪れるとき、私に十五本の黄色い薔薇の花束を、ディアには七本のピンクの薔薇の花束を渡していましたよね?」
「ああ渡していた。それがなんだと言うんだ?
君も花束を喜んで受け取ってくれたじゃないか」
エドワード様は心底分からないという表情をされた。
「以前シアが黄色と十五という数字が好きだと言っていたから黄色い薔薇を十五本渡した。
クラウディア嬢はピンク色と七という数字が好きだと言っていたから、ピンクの薔薇を七本渡した。
クラウディア嬢に贈った花束より、君に贈った花束の方が、薔薇の本数が多い。
二人の好きな色の花を渡しただけだし、クラウディア嬢は婚約者の妹だから親切にしただけだ、なんの問題ないだろう?」
「エドワード様は薔薇の花言葉が色や本数によって変わることをご存知ないのですか?」
「花言葉……?」
「黄色い薔薇の花言葉は『友情』『薄れゆく愛』、十五本の薔薇の花言葉は『ごめんなさい』
ピンクの薔薇の花言葉は『可愛い人』『美しい少女』、七本の薔薇の花は『密かな愛』『ずっと言えませんでしたがあなたが好きでした』という意味があります。
それにピンクはエドワード様の瞳と髪の色。自分の髪の瞳の色の花を異性に渡すことの意味を知らないはずがないわ。
エドワード様はそのことを知っていて私に黄色い薔薇を十五本、ディアにピンクの薔薇を七本贈っていたのでしょう?」
「知らない!
薔薇の花にそんな花言葉があるなんて僕は知らなかった!
たかが花言葉で婚約を解消するなんてあんまりだ!」
「我が国は花の女神フローラ様を信仰しています。
故に花言葉はとても重い意味を持つのです」
それを「たかが花言葉」ですって?
「女神の信仰なんて古臭いし形だけのものだと思っていた。
花言葉の意味を尊重しているのなんて年寄りぐらいだろ?」
信じられません。女神フローラ様を侮辱するような発言をするなんて!
これは妹とエドワード様の婚約も白紙に戻した方が良いかもしれませんね。
このように信仰心の薄い方とディアを結婚させられませんわ。
「まさか本当にご存知なかったのですか?
花言葉を覚えるのは女神フローラ様を信仰するこの国の貴族のマナーですわ」
「済まなかった!
これからは花言葉を覚えるよ!
シアに『愛してる』という花言葉を持つ花を贈る!
だから僕ともう一度婚約してくれ!」
エドワード様がおもむろに立ち上がり私の手を掴んだ。
「きゃぁっ!」
突然のことに、私は悲鳴を上げてしまった。
「分かってくれ、シア!
君を心から愛してる!」
「離して下さい!」
エドワード様が私の手を引っ張り抱き寄せた。
エドワード様の胸が私の目の前にある。こんなふうに女性を乱暴に扱う方だとは思いませんでしたわ。
「嫌っ! 離して!」
私はエドワード様の頬を叩いた。
頬を叩かれたエドワード様が愕然とした表情で私を見下ろしている。
「どうしてシアは僕の気持ちを分かってくれないんだ!
君が僕の思いを受け入れないというなら………仕方ない!
実力行使だ!」
エドワード様の目つきが変わる。濁った目で見つめられ寒気がした。
「シア……僕の気持ちを受け入れてくれ……!」
エドワード様にあごを掴まれ無理やり上を向かされる。直後エドワード様のお顔が近づいてきた。
「やっ……!」
このままではエドワード様に唇を奪われてしまう……!
絶体絶命のそのとき……。
「そこまでよ!
お姉様を離しなさい! この変態!!」
「エドワード、君にはがっかりしたよ!」
ガゼボの近くにある草むらからディアとお父様が現れた。
お父様の後ろには我が家で雇っている兵士が五人いた。
「衛兵!
婚約者でもない女性に迫る変質者よ!
捕らえなさい!」
ディアが兵士に命じる。
「承知いたしました!」
ディアの命を受けた兵士は、エドワード様を私から引き離すと、す巻きにして地面に転がした。
変質者とはいえ伯爵家の令息にあんな扱いをしていいのかしら?
「お姉様ご無事ですか?」
「シア、怪我はないか?」
お父様とディアが私に駆け寄ってくる。
「大丈夫ですわ。お父様、ディア。
危ないところを助けてくれてありがとう」
二人にお礼を伝える。
「それよりもお父様もディアもどうしてガゼボにいるのですか?」
「えっと……それは、その」
お父様とディアの目が泳いだ。
「私、ディアに謝らなくてはいけないことがあるの。
エドワード様がこんな破廉恥な方だと知らず、ディアとエドワード様の婚約を結ぶようにお父様にお願いしてしまったわ」
エドワード様は女神フローラ様への信仰が薄く、花言葉の意味も知らず、女性に無理やり迫る変態だった。
一刻も早くディアとエドワード様の婚約を解消させなくては!
それでもディアが変わらずにエドワード様を愛していると言ったら……私は姉としてどうしたらいいの?
「そのことなら心配いりませんお姉様。
わたしとコルベ伯爵令息は婚約しておりません」
「えっ? それはどういうこと?」
昨日までディアはエドワード様のことを「エド様」と愛称で呼んでいた。
なのにいきなりエドワード様のことを「コルベ伯爵令息」と家名で呼びだした。
ディアにどんな心境の変化が?
もしかしたらディアは、エドワード様の先ほど破廉恥な行いを見て彼に幻滅したのかもしれないわ。
「一カ月前、お姉様がコルベ伯爵令息との婚約解消するためにお父様の執務室を訪れた日。
わたしもお父様の執務室を訪れたのです。
お父様にあるお願いをするために」
確かにあの日、ディアは私と入れ違いにお父様の執務室に入って行った。
「ディアはお父様に何をお願いしたの?」
「お姉様とエドワード様の婚約を解消して欲しいとお願いしたのです」
「それは私もお父様にお願いしたわ。
エドワード様とディアが相思相愛だから私は身を引こうと思って……」
「わたしがコルベ伯爵令息を好き?
ありえませんわ。
私がコルベ伯爵令息に好意を抱いたことは一度もありませんし、これからも好意を抱くことはありませんのでご安心下さい」
「それを聞いてホッとしたわ」
エドワード様が破廉恥な方だと分かったあともディアが彼を慕っていたら、姉としてどうしたらいいか分からなかったもの。
「でも待って、ディアはエドワード様を一度も好きになったことがないといったわね?
ではなぜ今までエドワード様のことを『エド様』と愛称で呼んでいたの?
エドワード様から七本のピンクの薔薇の花束を贈られて喜んでいたのはなぜ?」
てっきりディアはエドワード様の変態行為を見て心変わりしたのかと思っていました。
でもディアは以前からエドワード様に興味がなかったみたいです。
「その二つはわたしが仕組んだことですわ。
エドワード様の信仰心とお人柄を確かめる為に」
「えっ??」
ディアから不穏な言葉が出てきた。
「結果、コルベ伯爵令息は婚約者を差し置いて、婚約者の妹と愛称で呼び合うことがなにを意味するかも気づかない。
女神フローラ様への信仰心が薄く、薔薇の色や本数にどのような花言葉があるかも知らない。
女神フローラ様への感謝と、貴族としての常識に欠ける方だと分かりました」
なるほどディアは、エドワード様のお人柄を見極めるためにあえてあのような行動をとっていたのね。
「そして今日、コルベ伯爵令息は嫌がる女に無理やり迫る変態だと分かりました!
こんな男はお姉様にはふさわしくありません!」
ディアは私のためを思ってあれこれしていてくれたのね。
それなのに私はディアに嫉妬していた……だめな姉だわ。
「わしもあのあとディアに言われてコルベ伯爵家のことを色々と調べさせた。
先代のコルベ伯爵の代で女神フローラ様への信仰心は途絶えたらしい。
コルベ伯爵家は女神様への感謝を忘れておごっている。
そのせいでコルベ伯爵領では春に咲く花の数が減少し、コルベ伯爵領の特産品のはちみつの出荷量が年々減ってきている。
よって我が家がコルベ伯爵家と縁を結ぶ理由もない」
お父様も色々と調べてくださっていたのですね。
「そうだったのですね。
お父様、ディア、ありがとう。
それからディアには謝らなくてはいけないわね。
ごめんなさいディア、私あなたのこと誤解していたわ」
「気にしないでお姉様。
わたしはお姉様さえ幸せならそれでいいのよ!」
「そうだ、家族ではないか。
水臭いぞ」
家族三人で肩を寄せ合い涙ぐんでいたそのとき……。
「待て!
酷いじゃないか!
僕を騙すようなことをして!
君たちには人の心がないのか!」
す巻きにされていたエドワード様がこちらを睨み叫んでいる。
……いえ、もう当家とは関係ない人なのでこれからは『コルベ伯爵令息』とお呼びしましょう。
「確かにディアがコルベ伯爵令息にしたことは褒められたことではない。
しかし我々は貴族だ。
人の話や行動の裏を読むのが仕事だ。
それができないようでは、狸や狐がひしめく貴族社会で生きていけないのだよ」
お父様がコルベ伯爵令息の顔を見据えぴしゃりと言い切った。
「コルベ伯爵令息には婿養子に入ってもらおうと思っていたが、君はその器ではないようだ。
今回のことでそのことがはっきり分かった。
だからシアとコルベ伯爵令息の婚約を解消したんだよ」
「自分の行いを正当化するな!
僕を騙したことに変わりはないじゃないか!
卑怯だぞ! 汚いぞ!」
コルベ伯爵令息がまだ何か喚いている。
「何をいまさら、貴族は卑劣で汚い生き物だ。
そんなことは太陽が東から昇り西に沈むのと同じくらいあたり前のこと。
コルベ伯爵令息、正直で誠実で潔癖な生き方がしたいなら庶民になりなさい」
お父様がコルベ伯爵令息の言葉を論破した。
「それから今回のシアへの強制わいせつ未遂について、当家はコルベ伯爵家に強く抗議させてもらうよ」
お父様がエドワード様をキッと睨む。
「強制わいせつ未遂?!
僕はシアにキスをしようとしただけだ!」
「相手を同意なく抱き寄せ、顎を掴み、キスを迫る行為は強制わいせつ罪に当たります!」
ディアが眉間にしわを寄せエドワード様をギロリと睨む。
「……嫌がるお姉様に本当にキスをしていたら、コルベ伯爵令息の大事なものを切り飛ばしていたところですわ……」
ディアが小声でつぶやいた言葉を私は聞かなかったことにした。
「コルベ伯爵令息を彼の乗ってきた馬車に乗せて屋敷の外に出しなさい!
コルベ伯爵令息が訪ねて来ても、二度とわが家の敷居を跨がせないように!」
「承知いたしました! 旦那様!」
兵士がす巻きにされたコルベ伯爵令息を担ぎ上げ、ガゼボから連れ出した。
☆
「シアがコルベ伯爵令息のような破廉恥な男と結婚しなかったことはめでたいが、シアの花婿を一から探さなくていけなくなった。
良い相手が残っていればよいのだが」
「お父様、それならいっそ養子を取りましょう!
お姉様もわたしもお嫁に行きませんわ! わたしはお姉様と一緒に義弟を育てますわ!」
「姉思いなのはよいが、流石にシスコンがすぎるぞディア」
お父様が苦笑いを浮かべる。
「わたしは名案だと思ったのに!
ねぇ、お姉様もそう思うでしょう?」
私はディアとお父様の会話になんと答えていいか分からず、愛想笑いを浮かべて返事をごまかした。
☆
このあと私に持ち込まれる縁談をことごとくディアが壊してしまい、ディアも自分に来た縁談を全て断ってしまった。
そんなことを続けて数年。
私もディアも行き遅れてしまうのかと思われたとき。
私は運命的な出会いを果たした。
お相手はキール侯爵家の次男で騎士団に勤めるコニー様。
コニー様は銀色の長髪にアメジストの瞳の美丈夫。
私がエドワード様に襲われそうになっていたところを助けてくださったのが、コニー様だ。
エドワード様はあのあとコルベ伯爵家から廃嫡され、やさぐれてしまったようでした。
コニー様は剣術だけでなく勉学やマナーやダンスなどにも優れており、何より女神フローラ様を深く信仰されております。
コニー様はディアの出す難問の答えを簡単に導き出し、お父様の政治の話にも難なくついてこられる方でした。
さすがのディアもお父様もコニー様には完敗だったようです。
私はディアとお父様に認められたコニー様と結婚することになりました。
「ぐすん、ぐすん……お姉様を泣かしたら承知しませんからね!」
「分かっている君のお姉さんは必ず俺が幸せにする」
私とコニー様の結婚式、ディアは美しい顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっております。
ディアは私のウェディングドレス姿を見てから涙が止まらないようです。
「うえーん!
お姉様やっぱり結婚しないでーー!
ずっと独り身でいてーー!
ロンメル伯爵家で姉妹仲良く暮らしましょうーー!」
困ったわ、ディアに花嫁のブーケを渡そうと思っていたけど、ディアが生涯独身でいることを望んでいるならブーケを渡すのは止めたほうがいいかしら?
「でも花嫁のブーケはわたしにくださいね!
他の人に上げたら許しませんから!」
やっぱりディアも女の子ね、あんなことを言いながらも花嫁ブーケにはちゃんと興味があるんだから。
「お姉様から頂いた花嫁のブーケは、『お姉様から頂いた物コレクション』に加え大切に保存するわ!」
ディアは花嫁ブーケのブーケではなく、私の持っているブーケだから欲しいってこと?
ちょっとシスコンすぎるのではないかしら? 私はディアの将来が心配になったのですが……数年後、そんなディアにも良い人が現れるのでした。
――終わり――
読んで下さりありがとうございます。
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☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
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新作投稿開始しました!
婚約破棄ものです!