ある楽器の独り言
私はもう何年も、こうしてここに立っている。
古い家の吹き抜けのリビング。真正面には壁。天井近くにある窓から差し込む光を見上げながら、最後に人が私に触れたのはいつだっただろうと考える。
脳裏に浮かぶのは幼いあの子。大人になった姿よりも、よく私に触れていた頃の姿をどうしても思い浮かべてしまう。最近はあの子を見かけないが、元気にやっているのだろうか。
ある日、大勢の人が家にやってきて、私を連れ出して行った。ああそうか、私の役目はここで終わるのか。最後に一目、あの子に会いたかったな……。
おや、そのわりには大事に運ばれているな。どこへ向かっているのだろう。車に乗せられて随分と走り、どこかの部屋らしきところに降ろされ、そこで私にかけられていた布が外された。
見たことのない和室だ。
ずっと立っていたあの家のリビングより大分狭い。壁際に並ぶおもちゃがぎっしり詰まった棚が、余計に部屋を狭く見せていた。
あの子によく似た、でも初めて会ったときのあの子よりもずっと小さな女の子が、不思議そうに私を見つめている。その子を抱いて、私を愛おしそうに撫でているのは……
会いたかった、会いたかったよ、ずっと君に会いたかった。
それは私の声だったのか、それともあの子の声だったのか分からない。
こうしてまた、あの子と一緒の日々が始まることに気付いた私は、喜びで震えた。
楽しそうに流行りの曲を奏でる君。
子どもと一緒に童謡を歌いながら私を弾く君。
難しい顔をして、苛立ちを消し去るように力いっぱい鍵盤を叩く君。――なんて言ったっけね、この曲。昔もよく泣きながら力いっぱい弾いていたね。
どんなふうに触れてくれても構わない。また君と、君の家族と一緒に過ごす時間をくれてありがとう。
もう脳裏に浮かぶのは幼いあの子じゃない。記憶よりも歳を取った愛しい愛しい君が、いつだってそこにいる。
だいぶ間が空いてしまいましたが、こちらも文字を書く練習。
少しずつ投稿を増やせたらいいな。




