第38話:それぞれの日常へ 2
「――おはようございます!」
そう元気よく挨拶をしたのは夏希だった。
騒動の時には魔法を使い過ぎて気絶してしまった夏希も、一週間経った今ではいつも通りに戻っている。
とはいえ、三日間の間で目を覚まさなかったということもあり、明日香とジジは今でも夏希が無理をしていないか顔色を窺っていた。
「おはよう、夏希ちゃん。……よし、今日も大丈夫そうだね!」
「ほほほ。良い顔色ですなぁ」
「もう、二人とも! 私は本当に大丈夫ですってば!」
これらのやり取りが最近の定番になっており、こうして朝食が始まるのだ。
「今日からはガゼルさんと素材の採取にも出るんですからね!」
「……そうよね。ガゼルさんにはちゃんと夏希ちゃんを見ておくよう伝えておかないと」
「だから本当に大丈夫なんですってば!」
「ほほほ。……アスカさん、儂からもそう言っていたと伝えておいてもらえますかな?」
「もう! ジジさんまで!」
朝食が始まってしばらくして裏口のドアがノックされると、夏希がささっと立ち上がって開けてくれた。
「おはようございます、イーライさん!」
「おはよう、ナツキ。……もう大丈夫そうだな」
「ほら! 聞きましたか、お二人とも!」
「……なんの話だ?」
首を傾げながら入ってきたイーライが決まった席に座ると、そこへ料理を運んできたのは明日香だった。
「どうぞ」
「あぁ、ありがとう」
「聞いてくださいよ、イーライさん! 二人とも、まだ私の顔色を伺いながら仕事をしているんですよ!」
「なんだ、そんなことか。ナツキも子供じゃないんだから、自分のことは自分でわかっているだろう」
「私たちの世界では、まだ夏希ちゃんも子供なのよ?」
「あぁー……だったか」
「納得しないでくださいよ!」
言い負かされたイーライを見て夏希が反論するが、明日香はしたり顔で食事を再開させる。
頬を膨らませた夏希だったが、今日やることは変わらないんだと言いながら開き直ることにした。
「イーライは今日もラクシアの森なの?」
「いいや、今日は休みだ」
「えっ? そうなの?」
カフカの森に行くならガゼルと三人で一緒に行ってくれないかと頼むつもりだったが、まさか休みと言われるとは思わず驚きの声を漏らした。
「あぁ。というか、休みにした」
「どうしたの? もしかして、イーライもどこか体調が悪いの?」
「俺もって……明日香、体調が悪いのか?」
「ううん。私じゃなくて夏希ちゃん」
「はいはい、もういいですよー。そう言っていたらいいんです」
ついに無視することにした夏希に苦笑しながら、明日香はすぐにイーライへ向き直った。
「いいや、俺は元気だよ。どこも悪くない」
「だったらどうして?」
「あー……その、なんだ」
「どうしたの? 言い難いことなの?」
食事の手を止めてイーライに詰め寄っていく明日香に、彼はどうしたものかと顔を逸らす。
それでも見つめることを止めない彼女の視線を感じ、仕方なくイーライは口を開いた。
「……はぁ。たまにはアスカと買い物でもと思ってな」
「そっかぁ、買いものかぁ。……えっ? わ、私と?」
「……あぁ」
「…………え……ええええぇぇええぇぇっ!?」
ジジの道具屋に、明日香の大絶叫がこだました。
その様子を夏希とジジが微笑ましそうに見つめており、イーライは頬を僅かに赤くしながら視線を逸らしている。
「……も、もちろん! 用事があるならいいんだ! 俺だけで時間を潰そうと思うから――」
「い、行く! 行くから! ジジさん、今日はその、お休みをいただけませんか!」
「ほほほ。構わないよ。今日はお客さんも少ないだろうからね」
「本当にすいません、ジジさん」
「イーライよ、アスカさんを頼みましたよ」
こうして、急なデートがセッティングされたのだった。
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