第37話:それぞれの日常へ 1
ラクシアの森で起きた騒動から一週間が経過した。
この時には魔獣の残党狩りも落ち着いており、ラクシアの森には新しい生態系が形成され始めていた。
しばらくは経過観察が必要だが、それでも騒動が起きた当初と比べるとだいぶ落ち着いたものだ。
そんな中で、今回の主犯――ではないが、騒動の中核にいた人物たちには沙汰が下された。
冬華と凜音の二人は騒動に巻き込まれた可能性が高いということとなり、今回はお咎めなしとなった。
どうして巻き込まれた可能性が高いと判断されたのか、それは岳人の証言があったからだ。
「俺が黒いコートを羽織った奴からその魔石を受け取ったんだ。その場にこいつらはいなかった。だから、俺が巻き込んだんだよ」
岳人の発言に冬華と凜音は頷くだけだったが、いつも一緒にいた彼を擁護しようという行動がなかったことから、マグノリア王国の王であるアーノルド・マグノリアはこの証言が事実だと判断したのだ。
今後も城の中で生活することになるが、今回も騎士や兵士が見張ることになる。だとしても生き永らえられただけでもありがたい状況だったので、二人の口から異論が出ることもなかった。
一方で岳人はというと、外套の男性から漆黒の魔石を受け取ったことが問題視され、二つの選択肢を与えられた。
一つ目はマグノリア王国の暗部となり、表には一切出ずに影の仕事をこなすというもの。
二つ目は国外追放となり、今後一切マグノリア王国の国土に足を踏み入れないというもの。
岳人としては処刑も覚悟していたところへ選択肢を与えられ驚いていたが、そこには明日香と夏希の言葉が大きく関係していた。
「アスカ・ヤマトとナツキ・カミヤが命だけは助けてほしいと願い出てきたのだ。二人はマグノリア王国の恩人でもあることから、願いを無下にはできないと判断したのだよ」
「……んだよ、あいつら。俺のことなんて無視すりゃあいいもんをよぅ」
嫌そうな顔をした岳人だが、これは照れ隠しだった。
内心では嬉しくもあり、これからは顔を合わせることがないのかと思うと寂しくもある。
もっと早く、明日香や夏希と腹を割って話せればと思わなくもない。
だが、岳人はどの選択肢を選ぶのかをすでに決めていた。
「俺は――国外追放を選ぶぜ」
「その選択に後悔はないのだな?」
「ねぇな。むしろ、その前の選択に後悔がありまくるがなぁ」
夏希を遠ざけたこと、ガゼリア山脈へ勝手に向かったこと、外套の男性から漆黒の魔石を受け取ったこと。
これら以外にも後悔は山のように存在するが、今回の選択に後悔はないと、岳人は自信を持って口にした。
「……いいだろう! では、ガクト・カミハラよ。一週間の猶予を与える。その間に準備を終わらせよ。国境までは馬車を用意し、騎士たちに護衛もさせる。以後、マグノリア王国への入国は断固として拒否し、不法入国が確認されれば容赦なく斬り捨てる。よいな?」
「あぁ、構わねぇぜぇ」
こうして、岳人たちの処遇が決定された。
岳人は明日香たちに別れを告げることもできたが、最後まで顔を出すことはなかった。
彼は最後まで傲慢な自分を演出し、最後には恨まれたまま別れたかったという想いもどこかにあったのだ。
しかし、そんな岳人の想いとは異なり、明日香も夏希も彼を恨むようなことはしていなかった。
ほとんどの時間で対立していたが、最終的にはわかり合えたのだから。
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