第35話:神原岳人 11
彼女には見えていた。岳人がこれから辿ることになる未来が。
『ぁぁぁぁ……い、嫌だぁ……俺はぁ、死にたく、ねぇょぉ……』
段々とか細くなっていく岳人の声に、全員が耳を傾けている。
それは生に執着する者の懇願であり、明日香たちにとっては有益な情報でも何でもない。
彼の最後の言葉になるだろうと、同郷の人間として、呼び出した者の責任として、耳を傾けているのだ。
そして、異形と化した姿も黒い靄が体から抜けていき、気づけば岳人本来の姿に戻っていた。
「……ぁぁ……俺は、死ぬんだなぁ……」
岳人の言葉を受けて、心が揺れたのは夏希だった。
「……あ、明日香さん! 岳人さんに、ポーションを与えることはできませんか?」
ポーションがあれば岳人の傷が治るはずだと夏希は考えた。
しかし、夏希の問い掛けに対して明日香は首を横に振った。
「……もう、ダメなの」
「……えっ?」
「岳人君を異形にしていた黒い靄が、彼の体を侵食してしまっている。この靄が消えると同時に、彼の体も……体も……」
ここから先の言葉を、明日香は口にすることができなかった。
しかし、自分がどうなってしまうのかを岳人は十分理解していた。
「……畜生がぁ……最後の最後で、年増に心配、されるたぁなぁ……」
最後まで悪態が抜けない岳人を見て、明日香は苦笑を浮かべた。
「……俺をこうした奴は、俺が殺した」
岳人はここに至り、自分の行動が間違っていたのだと気づくことができた。
それは自分のためにと近づいてきた外套の男性も、こちらの世界に召喚したアルたちも、アプローチの仕方は異なれど結局は自分を利用しようとしていたにすぎない。
だが、明日香と夏希は純粋に自分を心配し、助けようとしてくれたのだと、岳人はようやく気がついたのだ。
だからこそ、自分が知っていることを、死ぬ前に伝えなければならないと思った。
「それは本当ですか、カミハラ様?」
「……あぁ。だが、変な石を渡されてから……俺は、俺じゃなくなった、気がした」
「変な石だと?」
「……真っ黒な、宝石みたいな、石だった。それが黒い靄を出して――ぐがあっ!?」
「岳人君!」
「岳人さん!」
急に苦しみ出した岳人を見て、明日香と夏希が声をあげた。
「ぐぅぅ……な、夏希ぃ……すまなかったなぁ……」
「そんな、私は、自分では何もできなかったから……」
「……年増ぁ」
「もう、それでいいわよ」
自己紹介すらまともにできていなかったのだと気づき、明日香はニコリと微笑んだ。
「……冬華と凜音を、頼む……こいつらは、悪くねぇから、よぅ」
「わかったわ。私からも、アル様に進言します」
「安心してほしい、カミハラ様。二人のことは、王家が最後の最後まで面倒を見よう」
「……かかかか、頼んだぜぇ、王子様、よぅ」
黒い靄が尽きてきたのか、岳人の体は手足の先から徐々に崩れ始めてきた。
「……あぁー……畜生……覚悟を決めても、やっぱり、死にたくねぇなぁ……」
焦点が合わなくなった岳人の瞳から光が消えていき、戦闘により木々を失った森の一画から覗く青空がとても美しく感じられる。
「……嫌です……岳人、さん。こんなの、岳人さんが死ぬなんて――絶対に嫌です!」
夏希がそう声をあげると、彼女の中で何かが弾けた。
――カッ!
そして、夏希の体から眩い光が放たれると、ラクシアの森に広がっていく。
「な、夏希ちゃん!?」
「カミヤ様!」
「大丈夫か、ナツキのお嬢さん!」
明日香が、アルが、ガゼルが声をあげた。
その中で明日香はメガネを通して見てしまった。夏希の中に生まれた新たな力の一端を。
「……夏希ちゃん! 最後のマジックポーション、飲んでちょうだい!」
「あ、明日香さん?」
「夏希ちゃんの中で目覚めようとしている力なら、岳人君を助けられるかもしれない! 頑張って、夏希ちゃん!」
明日香の言葉は岳人の耳にも辛うじて届いていた。
しかし、彼は明日香たちを殺そうとしており、今さら助かろうなんて思っていなかった。
「わかりました! 岳人さん、頑張ってください! 諦めないでください!」
だが、夏希はそんな岳人に諦めるなと檄を飛ばす。
そして、明日香から受け取った最後の中級マジックポーションを一気に飲み干すと、自らの内に広がる力に目を向けて魔力を注ぎこんでいった。そして――
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