第31話:神原岳人 7
「……まさか、嘘だろう?」
「……魔法を拳で打ち上げるとか、化け物め!」
「……どうやって倒せばいいんだ!」
『そろそろ諦めたらどうだぁ? まあ、諦めたところで生かしてはやらんけどなあっ!』
こうして再び岳人優勢の攻防へと移っていく。
そんな中、明日香は何かできることはないかと周囲に首を振り、所かまわずメガネで鑑定を行っていた。
「何か……何かないの? 岳人君を元に戻す方法は……倒す方法はないの?」
このままではこの場にいる全員が死んでしまう。
岳人のことは助けたいが、今の状況を目の当たりにするとそうも言ってはいられなかった。
「……えっ?」
その時、明日香は一筋の光を見つけることができた。
しかし、それは明日香が何かをするものではなく、他者の力を借りて岳人を倒すというものだ。
本当にそれでいいのか、結局は自分の手は汚さずに他者の手を汚させる行為ではないのか。
僅かな時間ではあるが、明日香は自問自答を繰り返すことになった。
「……どうしましたか、明日香さん?」
「あ……その、夏希ちゃん……」
明日香の様子がおかしいと気づいた夏希が声を掛ける。
しかし、明日香が今まさに悩んでいる理由こそ、夏希が関わっていることだった。
「……岳人君を、倒せるかもしれない」
「えっ?」
「それはマジか、アスカのお嬢さん!」
「うん。……でも、助けることは、難しい」
冬華と凜音は助けることができたが、今の岳人を元に戻すことは現状だと難しい。その方法が全く鑑定できないのだ。
しかし、倒すことはできる。その一筋の光を見つけた。そして、その光をイーライたちに与えることができるのが、聖女である夏希なのだ。
「……わかりました、やりましょう」
「……いいの、夏希ちゃん? その、私が見つけた方法では、夏希ちゃんの力が大きな要素を占めているの。だから、その……」
「……ありがとうございます、明日香さん」
「えっ?」
「私のことを心配してくれているんですよね?」
突然のお礼に聞き返してしまった明日香だが、夏希は彼女が思い悩んでいる理由に気づいていた。
「確かに私はこちらの世界に召喚されてから、長い時間を岳人君たちと過ごしてきました。嫌な思い出ばかりだけど、助けられるものなら助けたかったです」
「それなら、やっぱり――」
「でも! ……でも、今は岳人君を助けることよりも、私にとって大事なことができたんです」
明日香の言葉を遮り、夏希は強い言葉で話を続けていく。
「……大事なこと?」
「はい。明日香さんやガゼルさんを守りたいって気持ちです。それだけじゃありません。イーライさんやアル様たち、それにこのままだとジジさんやマゼリアの住民にも危険が及びます。そんなことは、絶対に許されません!」
「夏希ちゃん……私の方こそ、ありがとう」
年下の女の子に励まされてしまったと自分を恥じながら、一緒にいてくれたのが夏希でよかったと心の底から嬉しく思った。
明日香も覚悟を決め、夏希の手を借りるために光を与える方法を伝える。
「夏希ちゃんの魔法の中に、聖女の祝福って魔法はないかな?」
「聖女の祝福、ですか? ……ごめんなさい、私が使ったことのある魔法は聖女の守りだけなんです」
「そうなの? おかしいなぁ。メガネの鑑定では間違いなく、聖女の祝福を使えるはずなんだけど」
「なあ、アスカのお嬢さん。その聖女の祝福って魔法の効果はどんなものなんだ?」
二人のやり取りが一段落したことを受けて、ガゼルが口を開いた。
「聖女の祝福は、対象者の基本ステータスを大きく底上げすることができるんです」
「バフ魔法ってことだな。基本ステータスってことだが、それは筋力や速さ、耐久力も含まれるのか?」
「はい。それに、魔力も上昇させることが可能なはずです」
「マジかよ。バフ魔法は知っているが、それでも一度に一つのステータスしか上げられないのが普通だと思っていたが……」
そこで一度言葉を切ったガゼルは僅かな時間で思案すると、驚きの提案を口にした。
「……なあ、ナツキのお嬢さん。その聖女の祝福とやら、まずは俺に掛けてくれないか?」
「えぇっ! で、でも、さっきも言いましたけど、使ったことがない魔法ですよ?」
「構わねぇさ。今はそいつが唯一の光なんだ。無理なら諦めもつくが、できたら絶対にお嬢さん方を守り抜くと誓ってやる」
ガゼルは真剣な面持ちで夏希を見つめた。
言葉では諦めもつくと口にしているが、その瞳には諦めの感情など微塵も感じ取れない。むしろ、夏希ならできるという想いしか感じられなかった。
「……わ、わかりました、やってみます!」
「きっと大丈夫だよ、夏希ちゃん。聖女の祝福、ステータスを上げるんだって想いを込めて発動させれば、ちゃんと発動してくれるからね」
「はい!」
力強く返事をした夏希は――聖女の祝福の発動を試みた。
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