第30話:神原岳人 6
「ぐああああぁぁっ!」
「イーライ! みんな!」
イーライが、アルが、ダルトが吹き飛ばされた勢いで地面を何度も跳ねていく。
すぐに立ち上がったものの、あまりの衝撃に何が起きたのか理解がなかなか追いつかない。
晴れていく砂煙をよく見てみると、岳人が立っている地面の先が大きく陥没しており、彼がただ力強く地面を踏み抜いただけの衝撃波だったことがわかり、愕然としてしまう。
「……これほどまでに、力の差があるというのか!」
「……だが、負けられない!」
「……その通りだ、イーライ! 私も騎士団長としてマゼリアを、命を賭して守り抜く!」
それぞれが気合いを込めて剣を手に取るが、岳人の視線は彼らには向いていなかった。
『……夏希ぃ?』
「ひぃっ!」
肥大化した肉体をゴキゴキと音を鳴らせながら向きを変え、岳人の視線が夏希を捉える。
その声音は岳人のもので、言葉に込められた彼女への恨み妬みが込められており、夏希の口からは思わず悲鳴が漏れた。
『なんだぁ? てめぇ、俺様のことを見て怖がっているんじゃねぇだろうなぁ? あぁん?』
「てめぇ、ナツキのお嬢さんから離れな」
『……誰だぁ、てめぇは?』
「魔獣に名乗る名なんて持ってねぇよ」
『……はあ? 誰が魔獣だってぇ?』
ガゼルの言葉を受け、岳人はまるで人間のように首を傾げる。
そして自らの手に視線を向けると――
『……な、なんだよ、こりゃあ? おいおい、俺様が、魔獣になっただとぉ?』
その変貌ぶりに岳人は動揺を隠せなかった。
その反応に明日香たちは何が起きているのか理解が全く追いついていない。
魔獣化は岳人の意思ではなかったのか、何者かに利用されたのか、そういった考えが浮かび上がってくる。
『……はは。まあ、いいか? 何せ、てめぇに復讐できるんだからなあ! 夏希ぃ!!』
しかし、岳人の動揺はすぐに消えてしまう。
これが魔獣化による魔獣よりの思考へと変貌したからという事実に岳人は気づいていない。
ただ本能のままに、夏希への恨み妬みを晴らすべく、自らの体を動かしていく。
『死ねやこらあっ!』
「させんっ!」
飛び掛かってきた岳人に対して、ガゼルは予備の直剣を抜き放ち応戦する。
しかし、慣れ親しんだ大剣でもギリギリの攻防を繰り広げていたのだから、慣れない直剣で太刀打ちできるはずがない。
『がははははっ! てめぇ、ザコじゃねぇかよおっ!』
「ガゼルさん!」
「くっ! 逃げろ、お嬢さん!」
聖女の守りを発動しようとした夏希だったが、岳人に睨まれて以降は体が恐怖に震えており、魔法が思い通りに発動できなくなっている。
ガゼルの言葉にも体を動かすことができず、どうすればいいのかパニックに陥っていた。
『さあ、さあさあ、さあさあさあさあ! 死ねやこらあっ!』
「ダークアイ!」
そこへ響いてきたのは、リヒトの声だった。
『あぁん? なんだ、こりゃあ?』
岳人の視界に突如として黒い靄が浮かび上がってきた。
視覚阻害の闇魔法ダークアイによって、僅かだか岳人の動きが鈍る。
その隙を突いてガゼルは夏希を抱え上げ、一目散に戦線を離脱した。
『……っざけんじゃねえぞこらあっ!』
しかし、ダークアイによる視覚阻害の効果はほんの一瞬だけだった。
目の前で獲物を逃がした苛立ちから咆哮をあげるとダークアイの効果が消滅し、岳人の視線が夏希を追い掛ける。
「大丈夫? 夏希ちゃん!」
「……あ……明日香、さん?」
「アスカのお嬢さん、ナツキのお嬢さんを任せてもいいか?」
まだ戦うつもりでいるガゼルが明日香にそう問い掛けると、答える前に夏希が声をあげた。
「ダ、ダメです! 私が殺されればみんな助かるかもしれないんだから、私が行きます!」
「夏希ちゃん、冷静になって? 岳人君はきっと、ここにいるみんなを……殺すよ?」
自分の口から殺すという発言をするのも寒気を感じてしまった明日香だが、パニックのあまり冷静になれていない夏希を現実へ引き戻すため、あえてその言葉を口にする。
「あ……でも、そんな……私のせいで、みんなが?」
「夏希ちゃんのせいじゃない! 誰がなんというと、絶対に夏希ちゃんのせいじゃないわ!」
「俺もアスカのお嬢さんと同意見だ。もしも誰かに責任があると言うなら、間違いなくあいつだろうな」
あいつというのは、岳人のことだ。
その岳人は余裕を見せてか、明日香たちの会話が終わるのを口端を吊り上げ笑いながら眺めている。
「……私が、突破口を開くわ」
「できるのかい、アスカのお嬢さん?」
「わからない。岳人君を見る時だけは文字化けが酷いんだけど、やるしかないんだもの」
「……明日香さん」
『なあ、そろそろいいかぁ? なんなら、てめぇらが相手をしてくれていてもいいんだぜえっ!』
そう語気を強めると、背後に迫り振り下ろされたダルトの大剣を尻尾で受け止めていた。
「ダメか!」
『おいおい、騎士団長さんよぅ? 不意打ちが騎士道精神だってのかぁ? あぁん?』
「魔獣を相手に騎士道など存在しないわ!」
『元教え子を相手に魔獣とかいうのかぁ? ったく、てめぇはやっぱ老害だなあ!』
「させんっ!」
尻尾で大剣を抑えつつ、鋭い爪で首を切り裂こうとしていた岳人に対して、今度はイーライが飛び込み直剣を振り抜く。
『遅いんだよおっ!』
「こいつ、強い!」
『はっはあっ! てめぇらが弱いんじゃねぇかぁ?』
「ならば、これならどうだ――サンダーボルト!」
イーライが体を避けた直後、その背後から一筋の雷撃が迸る。
この時にはダルトも距離を取っており、三人の連携がついに岳人を捉えた――かに思った。
『甘いんだよおっ!』
にたぁと下卑た笑みを浮かべた岳人が右腕を振り上げると、雷撃は地上から上空へと打ち上げられた。
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